異能。そして人間愛。
この作品は、非日常の中の日常を繊細なタッチで描き出した、リアルな現代ファンタジーである。
主人公の京子は、異能を持った能力者「キーダー」として国の管理を受けながら、アルガスという能力者の国家機関で働いている。仕事はもっぱら能力者にまつわることの調査や取締であり、能力者限定の警察のようなことをしている。
彼女は能力の制限をされていること以外は、ある程度の自由を許されており、同棲している彼氏と幸せな生活を送っている。だが、能力者に関するトラブルや過去の事件などが複雑に絡む中で、人間関係も面白い変化を見せていく。
この話の特徴を上げるなら、非日常の中の日常を書ききっている点であろう。
能力者が出てくる作品といえば、戦闘描写こそがメインであり、すぐに戦闘へつながる展開を見せるのが特徴であろう。だが、この作品は展開上の都合もあるだろうが、能力バトルに重点を置いているわけではない。むしろ、その比重は京子とその仲間たちの日常に傾いている。
もちろん、この小説にも戦闘描写はある。それは素晴らしいタッチでリアルに書かれており、能力の行使をするシーンでは、その迫力に思わず息をのむ。戦闘描写も、日常の描写に負けず劣らず迫力にみちていて、能力バトルものとしても楽しめるのは間違いない。
ここで何が言いたいかというと、戦闘描写に重きを置いていないのに「能力者の話として楽しめてしまう」ということが驚異的であるということだ。これは、現代ファンタジーでは中々みない表現だし、能力者の話を書く点では勇気のいる試みであるだろう。まず、その作者様の挑戦が素晴らしい。
そして、めちゃくちゃ面白い。あまりにも秀逸なストーリー運びと人間関係の構図とその変化。
その面白さを支えるのは、非常に写実的で精緻な表現である。街の情景が、喧騒が、京子たちの歩く姿が、まるで映像を見ているかのように浮き出されてくるのだ。そのあまりにリアリティのある表現は、小説でありながらドラマに近い。そう、ドラマだ。京子たちの、能力者たちの、行間に埋もれがちなドラマがここには細部まで描かれている。
私は現在四十話まで読んだのだが、先の展開が気になりすぎてワクワクするのと同時に、どうしてもレビューを書きたい欲望を抑えることができず、つい途中なのにも関わらず書いてしまった。それほどに面白いのだ。
私は、この小説との出会いで確実に新しい扉を開いた。京子たちの物語を追えば追うほど新鮮な感覚にとらわれ、私の色彩は豊かになっていく。この作品を読んだ人が、京子の日常を体感する中で、同じような感覚を抱いてくれることを期待したい。
あまり纏まっていないかもしれないし、長くなったが、私のレビューを読んでこの作品を開く人が増えることを願っている。