第16話 これを書いたらすぐにでもペンを置いて指輪を買いに行こう。

ランボーは今度こそiQOSの煙抜きにウィンストンの前に立ち降りた。空飛ぶ絨毯はたちまち豆本になったと思えばランボーはそれを海へと放り投げ、こう言った。


「これさえあれば充分だ。」


今、彼の手には花が握られていた。花はどんな花でもなかった。ただ花とわかる、それも決して綺麗では無い花だった。紫色をしていて、いくつかの花弁があるのは間違いがなかったのは、marijuanaを吸っていたとしても確認できた。


「さて、あんたの花は手に入ったわけか、しかし残念だね、バルトが嘆くよ、あんたは織物じゃない、実在を手に入れちまった。あんたはもう死んだんだ。俺はあんたが帰ろうとしたと思ったんだ。でも違うんだね、あんたは帰ろうとしたんじゃないんだ。あんたはこれで生活を手に入れたのかい?」


ランボーは初めて笑いかけた。

「違う、俺は風でしかない。その風の音色でしか話すことが出来ない。俺は砂漠でも、ガリアでもなんでもない、海の風として表現しなくちゃならない。」


ウィンストンはどこからか取り出したラム酒を今度は死ぬんじゃないかと一気に飲み干すと(実際は半分しか残っていなかったのだが)こう言い放った。


「じゃああんたからは報酬を貰わねえと行けねえな。」


「何が欲しい?」


「何をくれるんだ?あんたみたいな無一文の放浪者から何を貰えばいいのか俺が聞きてえよ!」


「いいだろう。」


ランボーは花の花弁を1枚だけちぎり、ウィンストンに渡した。ウィンストンが何か話終わる前にランボーはたちまちiQOSの煙になった。iQOSの煙は色を持ち一気に広がった。この街全てを飲み込むんじゃないかと思う程だった。煙は広がると、ひとつの筋となり、今度は竜巻ではなく、海へと向かった。海の向こうには船が見えた。それは光、イルミネーションされていた。


それは間違いがなかった、はるか昔に地中海を圧巻したあの三段櫂船だった!!!その上にウィンストンは顔をもはや覚えていない両親の顔を見た。今やアルチュールランボーは地中海へ帰った。ヴァレリーは語っただろう。その通りなのだ、歴史は海であり、海の上でこそ交通が起きる。今や彼の歌はひとつの風だった。そして風によって花が散らされる。その散りようこそまさに批評なのである。


ここで初めてようやくウェルギリウスはウィンストンに再会した。


「ウィンストンさん!大丈夫ですか?」


ウィンストンはiQOSの煙のせいで卒倒しそうになっていた。実際、彼は答えるまもなく気絶した。


「家にいても たゆたふ命 波の上に 思いし居れば 奥か知らずも」

大伴家持は最後にこう歌ったのを聞いたのは間違いがなかった。


ウィンストンが目を覚ますとそこはオフィスだった。目の前に、全16巻の小林秀雄全集を確認すると初めと同じく大きく大笑いをし、自分がまだ酔ってることを確認すると、タバコを吸いながら考えた。


(今日は指輪を買いに行かねえと行けねえな。それとラム酒も、偉大なるランボーに乾杯!、だ。)


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髑髏とラム酒 幼高(おさ たかい) @Karl_Marks

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