エピローグ

「スゥー」


 大きく息を吸う。頭を抱えて蹲る。首筋を強くかきむしった。


「んなわけあるか……! んなわけあるかよ!!」


 俺は勢いよく立ち上がり、部屋から飛び出した。

 叫びながら廊下を駆ける。数人の参列者がこちらを見ている。お構いなしに俺はただまっすぐに走る。

 会場を抜けると、駐車場の前で倉橋が走っていくのが見えた。俺はごみ収集車にすばやく乗って、エンジンを入れる。勢いよくアクセルを踏んだ。

 倉橋に並走して、少し歩道に乗り出す。彼女は驚いたように足を止める。俺は窓から全力で叫んだ。


「あの人は教団をつぶすのに一役買った恩人なんだよ! そんな人の結婚式を台無しにさせる真似できるかよ! 俺が行くに決まってるだろ!」


 倉橋は口をぽかんと開けていた。まるで死人を見るような顔で、それはまさに今俺が自分に対して思っている事と一緒だった。

 ごみ収集車の扉を開く。俺はそのまま待つ。別に行きたくないならそれで終わりだと思ったが、あっさりと乗り込んできた。


「いいのか?」


 倉橋はほくそ笑み、前を指さす。

 車は彼女の指さしたほうに進んだ。


「結局のところ、誰でもよかったの」

「奇遇だな。俺も誰でもいいから迷惑かけなければ、助けたかった。まあ後半はかなわなそうだな」

「『俺はふと黙り込む。不安が尻の下から這い出てきたような気がした』」

「おい、心の中を朗読するな」

「あなたはこう思っている『これはある意味「離婚した妻から娘を連れ去る」という独りよがりでエゴに満ちた行動であり、保守的な家族像にとらわれているのではないだろうか』」


 俺は黙ってそれを聞いていた。


「私はこう答える。『それは違うよ。あなたは本当に既に過去は清算しきっており、状況が似たからと言って当てはめるべきない』と。あなたはこう問うの。『俺たちの関係って何なのだろうな』私はこう答える。『私は電車の中で一人で立っていた。その私の他に誰もいない。それでいいと思ったけど、ふと誰かに助けてほしいという気持ちが沸き上がってきた。車窓から窓を覗いてみる。すると隣の線路に別の車両が並走していた。そこには人が多くいた。にぎやかだったの。そして私の一番近い車窓から見えたのはある夫婦だった』」

「その夫婦が連れていた子は自分に似ていた?」

「いいえ。似てはいない。私はあんな風には笑わないから。幸せそうだったの。でも実際は幸せではなかったと思う。笑顔の下にずっと苦しみを隠していた。私は振り返り、線路の分岐器に思いをはせた。過ぎ去った転轍機の選択は間違ってない。私が来た道は間違いじゃなかったよ。ただそれでも私は並んで走る車両にいる人に叫んだ。『助けて』って。目が合ったから。誰でもよかったけど。最初の質問に戻るけど、私とあなたの関係。それは『他人よ』それはあなたが一番求めていた答え。しかしそれは心を読んで一番言ってほしい言葉を言っただけなのでは?って思ってる。私はこう答える。『あなたと私は他人。それは少し考えたらわかること。まだまだ語り足り忘れたようなこともあるでしょう。それでも今考えていることを言って。それが予知じゃないというなら、ただの願望だと宣言して。 『おい、やめろ……わかった、自分で言う――』」「……俺はあることを想像している。誰もいない田園でごみ収集車があぜ道から落ち、お前は真っ先に脱出する。斜めに傾いた車両の上に立ち、地平線から上る朝日を見上げている。遠くにはロケット発着場が見える。朱色に染め上がっていく世界に降り立ち、ふとお前はこういう。これからは一人で大丈夫だから。俺は「達者でな」と答え、お前は田んぼの真ん中で、泥だらけになりながらこちらを向いて笑う。そして泥団子を投げてきて、俺の服は汚れるだろう。俺は少しムカッってなって泥団子を投げ返す。お前はへらへら笑いながらそれをよけて、まっすぐ走っていく。何度か躓いて、さらに体全体がが汚れて、それでも前に進んでいき。それで――」

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テレパスもどきと 五三六P・二四三・渡 @doubutugawa

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