第5話 ……ちょっとだけ、真面目な話してもいいっすか?
SE:ヒグラシの鳴く声
(楽しそうに)
「……えへへ、ヤバかったっすねさっき。危うくバレるとこ……って言っても、先生も道場戻っちゃいましたし、バレるか」
「隠れるんじゃなくて、先に戻っとかないとでしたね~。二人揃ってテンパっちゃってましたね。おもろ」
「ま、大丈夫っすよ。先生もそんな熱血じゃないし。ちょろっと注意されて終わりだと思いますよ? 多分。……めっちゃ怒鳴られたら、泣いちゃうかもです。なんつって。あははぁ~……」
「……いやいや、そこは慰めるとこでしょうよ。なんすか二人で泣こうって。見てらんないっすよ、高校生にもなって、先生に怒られて号泣してる男女」
(少しだけ不安そうに)
「……あ~、それで、その。……センパイ? どうせサボリもバレるし、今更急いで戻ることないと思うんですよ。だから、その……」
「さっきも言いましたけど……もう少しだけ、一緒にサボってくれますか? ……まだ、センパイと話してたいんす、けど」
(嬉しそうに)
「……良いんすか? ……えへへ、ありがとうございます、センパイ。いや、わかってましたけどね。そう言ってくれること。それじゃ、ベンチ戻りましょっかちゃんと、座って話しましょう」
SE:座る音
(少し真剣に)
「……えっと、センパイ。……ちょっとだけ、真面目な話してもいいっすか?」
「いやっ、そんなに改まって言う事でもないんすけど……いや、でも、ちょっとだけ改まってるかも……い、いずれにせよ、ふたりっきりの時じゃないと無理っていうか……」
「んぐっ……そ、そうですよ。さっき隠れてた時に言いかけたことっすよ。……いや、思いますよ自分でも。今更、マジになるのもなぁ……って。……でも、言いたいし、聞きたいんす。ちゃんと」
「だから……もうちょっと、近くに来てください。なんで隙間空けてんすか」
「ほら。もっとこっち。……くっついてください。……いや、さっきみたいなのはハズいんで……肩だけ、くっつけて」
SE:衣擦れの音
(優しい声で)
「うん。オッケーっす。……ちょ、顔は見ないでもらって……。前。前向いててください。はい、そんな感じ。あ、あともう一個だけ注文……。手、握って。……えへ。ありがとうございます。……手、やっぱり大きいっすね」
SE:ヒグラシの鳴く声
(横から 寂しそうな囁き声で)
「センパイ、もうすぐ部活、終わりですよね。……来年の今頃は、もう卒業、しちゃってますし」
「受験も……センパイなら、問題なさそう……ですし」
「第一志望、結構遠くの大学でしたよね? 確か。……受かったら、もうこんなに頻繁には、会えないんすよね。……いや、ごめんなさい。もちろん、合格して欲しいっすよ? 勉強も頑張ってるの、知ってますし」
「でも、やっぱり……寂しい、から」
SE:ヒグラシの鳴く声
(無理して元気な声で)
「センパイ、覚えてます? 最初に会った時のこと。……いや、なんかこれ映画みたいなこと言っちゃいましたね。……ま、いいか」
「ちなみに、私はばっちり覚えてるっすよ? ……我ながら、めちゃくちゃ印象悪かったと思うんすよね、あれ。話し方も、こんなんじゃなかったし」
(少しむくれたように)
「……一応、言い訳させてもらいたいっすけど。正直、あの時の私って、家以外の世界、ほとんど知らなかったし。古くてデカい田舎の家っすからね。親もめちゃくちゃ厳しいし。……今は、大分丸くなりましたけど。センパイのおかげで」
(懐かしそうに)
「第一印象最悪だったのに、クラスでも浮きまくってる私を、部活の後輩だからってずっと気にかけてくれて。……あんときはかなり冷たいこと言ったし我ながら塩対応でしたけど、嬉しかったんすよ? ……本当に。本当に本当に、嬉しかったんす」
(優しい声で)
「センパイがかけてくれた言葉、連れていってくれた場所……全部、全部覚えてます。……学校以外で、家族や習い事の先生以外の人と会うのも、センパイが初めてでしたし。……こっそり買い食いしたお菓子のおいしさとか、家のこととか何にも考えない時間の幸せさとか。教えてくれたのは、全部センパイでしたし。……はじめて人前で笑ったのは。……心から笑えたのは、センパイっと一緒にいるときだけでした」
「……本当に、これ冗談じゃないっすからね? ……世界に、ちゃんと色がついてるんだ、ってこととか。全部教えてくれたのは、センパイだったんすよ」
(恥ずかしそうに)
「だから……去年、センパイがその……。告白、してくれた時。本当に、もう本当に嬉しくて嬉しくて」
(沈んだ声で)
「……同時に、親にバレたときのこととか考えて、めちゃくちゃ怖かったんす。……センパイが、なんかされちゃうんじゃないかって。酷いこと、とか」
(嬉しそうに)
「だから、私とっさに断っちゃったのに……そのくせ、勝手に泣き出して。めっちゃウザかったっすよね。いやマジで。あり得んかったと思うんすよ。我ながら超絶不安定過ぎるっていうか……。でも、センパイ優しいから、そのあと話聞いてくれて。その上……今日まで、私とも距離取らないでくれて、付き合い方もそのままでいてくれて。……私のこと、諦めないでいてくれて」
「……この前とか、マジでびっくりしたんすよ? ウチの親が、センパイのこと普通に話してるの聞いて。私のクラスメイトのことなんて、見下すかシカトする以外なかったあの親が」
(小さくつぶやくように)
「センパイは、すごいっすね。本当……私なんかのために。……いや、こんな言い方は違いますね。……言うべきなのは、もっと別の……」
(優しい声で)
「……センパイ。ありがとうございます。私に出逢ってくれて。私にいろんな家の外のことを教えてくれて。……私のことを、好きになってくれて。ありがとうございます。……だから」
SE:衣擦れの音
「……今度は、私から言わせてください。……はい。正面から。あの時みたいに、言い訳もしませんし、目も逸らしません。……もう、泣きません。だから、聞いてください」
(息を吸い込んで 真剣な声で)
「……センパイのことが、好きです。……大好きです。私にしてくれたこと、かけてくれた言葉、全部大好きです。優しいところも、普段だらしないところも、きめる時はちゃんときめるとこも。……誰かのためにすごい頑張れちゃうところも。……全部が、大好きです」
(震える声で)
「今更、こんなこと言うのは虫のいい話だって、わかってますけど。……でも、言います。……私と。どうかお付き合い、してくれませんか」
「私を、センパイの彼女に……してください」
SE:ヒグラシの鳴く声
(鼻を啜る音)
「ズビっ……い、いえっ。泣いてないっ。泣いてなんかないっすよ! ……泣かないって言いましたもん。……でも……ぐすっ」
「これは良いんすよ。前と違うから。嬉し泣きは、全然問題じゃないっすから」
(嬉しそうに)
「え、えへへ。……えへへへへ。……彼女……センパイの、彼女」
「卒業して、一人暮らしはじめても、何回も何回も会いに行きます。毎週行きます。……実家太いんで、大丈夫ですし」
「……あっ、だから浮気とか絶対だめっすからね! 私わかりますから!」
(少し低い声で)
「マジそんなことになったら、私、どうなるか……自分でも、わかりませんからね?」
(楽しそうに)
「……ふふっ。私、結構重いほうだろうなって自覚あるんで、気を付けてくださいね? ただその分、めっちゃ一途ですから。……えへへぇ、よかったっすね、こんなに可愛い後輩が彼女になって。うりうり~……」
SE:衣擦れの音
(心から幸せそうに)
「センパイ。……大好き。大好きです。……末永くどうか、よろしくお願いします。……んっ、ちゅっ」
「……へへへ。ファーストキスっすよ、当然」
「……センパイ。……大好きっす」
稽古中、後輩と秘密のサボリ 松岡清志郎 @kouhai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます