ブラックベリーシンドローム
藤泉都理
ブラックベリーシンドローム
ブラックベリー。
バラ科キイチゴ属のベリー類。
小さな粒がぎゅっと詰まった形状で美しい赤黒さを持つ果実。
木の多くがつる性で、棘があるものとないものがあり、果実の形も長楕円形の実をつけるタイプと丸い実をつけるタイプと多様性があり、黒だけではなく赤色もある。
生命力旺盛で放任していてもよく育ち、一度植えつければ毎年夏に無農薬で収穫を楽しむ事ができる。
美白効果、目の機能の向上、眼精疲労の予防、免疫力向上など、健康維持や美容効果が期待できる。
生のままでもよし、砂糖と煮詰めて甘いジャムにするもよし。
「よきにはからえ」
すらすらと淀みなくブラックベリーについて語ったかと思えば、締めくくりにそう言われたが、何をどうよきにはからえをすればいいのか、全くわからなかった。
ここは洞窟の中。
洞窟の中なのにどうしてかとても明るいのは、きっと、この神様の全光というやつなのだろう。
この神様に生贄として捧げられた少年はそう考えつつ、さて、これからどう動くべきなのかという事にも思考を巡らせ始めた。
(う~ん。すぐにこの神様に食べられちゃうと思ったんだけど。なあ。神様。社みたいな椅子から全然降りてこないで、俺を見下ろすだけだし。何だろう。ブラックベリーをいっぱい食べて来いって事なのかなあ。ブラックベリーをいっぱい食べた俺を食べたいって事なのかなあ。う~~~ん。まあ。とりあえず。ブラックベリーを取って来るか。ちょうど収穫の季節でよかったや。えっと。一種類だけじゃ、だめなんだよな。色々なブラックベリーを取ってこよう)
「か~み~さ~ま~。いっ~て~き~ま~す~る~」
神様に口を利く時は、敬語でね。敬う気持ちを持ってね。仰々しく敬ってね。
村長にそう言われた少年は、正座を崩さず地面に額と両腕をつけて、祭りで仰々しく踊りながら話す村長を真似して、神様に言葉を捧げた。
「うむ。よきにはからえ」
「ははあ~~~あ」
ゆっくりゆっくりゆっくりと。
少年は上半身を起こし、立ち上がり、神様に深々とお辞儀をして、神様に正面を向けたまま洞窟の出入り口まで後ずさりした。
そうしてゆっくりと神様から遠ざかり、洞窟から出ると一気に駆け走った。
「神様。またあのまま逃げて帰ってきませんよ」
少年が洞窟から去って行ってのち、神様の眷属である一匹の白蛇が神様の前に現れた。
「いいのだよ別に。余が愛するブラックベリーの花言葉の一つにあるだろう。「孤独」が。孤独のままでよい。余に伴侶は要らぬ。ましてや、生贄と捧げられた人間の子ならなおさらな。見たか?あの少年の痩せ細った身体を。また口減らしの為に、ここに送り込りこまれたのだろう」
「あの少年。いえ。今までの少年はどうなったのでしょうか?」
「知らぬな。どこぞで野垂れ死にしようが、売られようが、どうなろうと余には関係ない」
「………ふふ」
「何だ?」
「いいえ」
(私は知っていますよ。神様。もしも少年たちが、ブラックベリーの元に無事に行けたのならば、世話をしてやってほしいとブラックベリーの妖精に頼んでいる事を。ブラックベリーの花言葉の一つにもありますものね。「思いやり」が)
「では、神様。ブラックベリーを摘んできますので、暫くの間、ここを空けます事をお許しくださいませ」
「ああ。たんと摘んで「か~み~さ~ま~。ブ~ラッ~ク~ベ~リー~を~~~お、積~ん~で~き~ま~し~た~」
「白蛇」
「はい。何でしょう?」
「追い返せ」
「はい」
白蛇は笑いを堪えながら、こちらにゆっくりと歩いて近づいてきている少年の元へと向かった。
(ああもしかしたら、この少年こそが、神様の運命の相手かもしれない。けれど。ああ嘆かわしい事に、神様は、激しく抵抗するでしょうが。なにせ)
孤独のブラックベリーに酔いしれる方なのだから。
(まったく。困った方だ)
(2024.7.23)
ブラックベリーシンドローム 藤泉都理 @fujitori
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