『秘密の恋』

宇治ヤマト

短編 『秘密の恋』

「ズバリ、木之下きのした君!貴方あなたは『秘密の恋』をしている!」


えぇ…?


「あの、松江さん。僕、恋なんてしてませんよ。まったく…」


今は昼休み


僕は、後ろの席の松江葵まつえ あおいさんから「占ってあげる」と言われて、聞かれた生年月日等を伝えたら、いきなりそう告げられた。


だが、僕は恋などしていない。


男子高校生あるまじき…なのかも知れないが、してないものは、してないのだ。

なんでだろ?


「松江さん、ちなみに何占いなんですか?」


松江さんと僕は席替えがあってから、ちょくちょく話すようになった。


なんとなく波長が合う、笑いのツボが似てることもあるからか、クラスでは一番話す相手だ。


松江さんはスマホをポチポチいじりながら、ちょっと難しい顔をして話し出した。


「おっかしいなぁ…。ウチの叔母ちゃんが開発した占いアプリで、結構な高性能なヤツなんだけどねぇ…。生年月日と、おおよその出生時間を入れるだけで結果が出るヤツなのよ。私は見事に当たったんだよねぇ」


…まあ、人間の作った物だ。間違いだってあるでしょうよ。


「いずれにしても、恋はしてませんよ。多分僕は、バイト運に全振りしてるんじゃないですかね?」


「…私に…さ、恋してるとかも、無い?」


なぬ?


「んー…、無い…ですねぇ。松江さんは、お友達キャラですから。それ以上は求めてませんよ」


「そんなにハッキリ言わなくてもいいじゃん!

…私も無いけど、さぁ…」


なんか、ガッカリしてる?


「こういうのはハッキリしといた方がいいと思うんですよ。いや、待て…、もしかして、松江さんが僕の事好きなんじゃないの?」


「なっ!?違うわよ!バーカっ!!

……けど、叔母ちゃんの話だと、後から『そういえば、占いで言われてたな?』ってなるらしいよぉ」


何それ?遅効性…?


「ま、僕は恋は求めてません。

それにしても………、松江さんは、別に僕の事好きじゃないんすねぇ…」


なんか…胸の奥の方が痛い。


「何よぉ、今更」


「…いや、なんか傷ついた…」


「もうっ!……友達としてなら…好き…かも…よ?」


「なんか、中途半端…」


「じゃあ、アンタどうなのよっ!?」


「なんか…今、気づいた」


「はぁっ?」


「好き…らしい、どうやら…。知らんかった…」


「男なら、ハッキリせいっ!」


「す…好き…です」


「ススキ?」


「勇気を振り絞ったのに茶化さない!」


「…私も、ススキだよ?」


「スが多いよ?」


「好・き」


「ほぉ…。で、どうしますか?」


「まず、こっそり付き合う?」


「なんでまた、こっそりなの?」


「だって!上手くいかなかったら周りの目が…恥ずかしいじゃん?

細川君とマーコみたいになりたくないもん!

あの二人、すんごい噂になってるじゃない?」


なるへそ…


あの二人はまあ、ちょっと別口なんだけどな。

状況が僕達二人とはまるで違うのだ…。

が、松江さんが気になるなら、望み通りの方法でお付き合いしてみるのが良さそうだ。


「いいよ。こっそり、ひっそり付き合ってみようか?」


「うんっ!」


松江さんは満面の笑みで答えた。

改めて、可愛いなと思う。


近すぎる存在で気付かなかったのか。


が…


あれ…?変だ。


「どうしたの?木之下君、いつにも増して変な顔してるよ?」


「いや、変な顔は余計だけどね。

…占い通りになっちゃったねぇ」


「あっ…!」


「君の叔母さんのアプリ、マジもんの高性能?

遅効性だけど…」



──────────────────────



後日、松江さんの叔母さんのアプリはかなりヒットした。


やはり、口コミでは『高性能、後からわかる!』だった。



fin

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『秘密の恋』 宇治ヤマト @abineneko7777

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