第5話 未知への冒険

「それでは吉田家御一行4名様、これよりマジカル・ミステリーツアーに出発いたします」


 ハイキングスタイルに身を包んだ4人家族が俺を見つめて、目を輝かせている。それはそうだろう。ミステリー列車など比較にならない。これこそ本当の未知への冒険だ。

 何しろ「黒い穴」を抜けて旅立つのだから。


 穴の先はY県の山奥につながっていた。


 今では俺がその土地の所有者だ。利用価値のない山林は二束三文で購入できた。それでも数百万の資金が必要だったが、1年で貯めることができた。


 異世界探検の準備中、俺は技術と知識を身につけ、様々な年代、職業の人たちと行動を共にした。

 気づいたら、いつのまにかコミュ障を克服していたのだ。しかもキャリアアップも果たしていた。


 目的の大きさ、モチベーションという奴が苦手意識を吹き飛ばしたらしい。


 俺は観光会社を立ち上げた。売り物はこの「マジカル・ミステリーツアー」だ。

 世界中どこを探しても、ワームホールを通って旅ができるツアーなどほかに存在しない。


 唯一無二の体験として、うちのツアーは大ヒットを記録した。


 それでも心配性は治らない。今日も俺はフル装備に身を固め、キャンプ道具一式と、散弾銃のバッグを背負って穴に入る。


 行き先がいつ異世界に変わっても、そこで生きていけるように。

 なに、現実世界でも生きられるようになったんだ。異世界に行ってもきっと何とかなるはずさ――。


(完)

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小心者と黒い穴 藍染 迅@「🍚🥢飯屋」コミカライズ進行中 @hyper_space_lab

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