第13話 Liar! Liar!


 

「中学1年生の時 初めて見た〈アイドルNo.1〉ファイナルのパフォーマンスに憧れて ボクは ロックを始めたんだ。そして 高3の今 憧れだった後夜祭ファイナルの舞台に立ってる」


 

 うそ。

 ウソ。

 嘘ばっか。

 

 貴方が 今 ここに立ってるのは 中1の時の憧れじゃなくて〈あの娘〉にカッコいいとこ見て欲しいからでしょ?

 さっきから キョロキョロして 客席のどこに〈あの娘〉がいるか 探してるもんね。

 


「ついさっきまで 客席のみんなが喜んでくれる最高に盛り上がるステージにしようって思ってた。でもね 実際 ステージに立ったら 少し気持ちが変わったんだ。6年前 体育館の一番後ろで立ち見してた中学1年生の女の子。その女の子のために は歌いたい」



 うそ。

 ウソ。

 嘘。


 6年前の貴方じゃなくて 体育館の一番後ろにいる〈あの娘〉のためでしょ。

 私も見つけたわよ。

 もっさりした三つ編の冴えない〈あの娘〉。

 あんな不細工 どこがいいの?


 うそ。

 ウソ。

 私も嘘つき。


 最近 時々 喋るけど 大きな瞳の 目元の綺麗な〈あの娘〉。

 笑ったら 可愛い娘ね。

 私も そう思う。

 

 ああ〈ボク〉は もうおしまいなのね。

 〈あの娘〉の前じゃ〈わたし〉だものね。


 貴女・・が後振り向き 私の方を見る。 

 私は 諦めの気持ちを込めて少し肩を竦めた後 立てた親指を貴女に向ける。

 習い覚えた指がイントロを奏で始める。

 歌い出しまでの 僅かな時間。

 貴女が言葉を紡ぐ。



「自信がなくて 尖って 周りに噛みつくことしかできない。そんな自分でも 憧れを持って 前に進んだら 夢は叶うって伝えてあげたい。伊野 小夜子さんで『embrace shyly』。に捧げる……」



 ……いいわ。

 キミあの娘のためのラブソング。

 私が手伝ってあげる。

 貴女の喜びが 私の喜びなんだもの。


 うそ。

 ウソ。

 大嘘。

 これも ウソっぱち。


 貴女の気持ちが〈あの娘〉を向いてたとしても。

 貴女が 最高に光ってた瞬間に すぐ傍にいたのは 私。

 貴女を 最高に輝かせたのは 私だって 会場中に見せつけてやる。


 もうすぐ 1回目の掛け合いとハモり。

 最高なのは よ。

 体育館の一番後ろで 見てればいいわ。


 

★☆★ 


 

「〈聖心アイドルNo.1〉今年度の優勝は 〈桜―Vermilion―〉改め〈咲良&朱音〉~~っ! 合計1000票を超える得票で堂々のグランプリーーーッ!」



 司会の少女から トロフィーを受けとる貴女。

 その顔は紅潮し 爛漫の笑み。

 いいわよ。

 私も やりきった。

 もう 未練なんてないわ。


 

「中3時代から3年連続のファイナル進出も あと一歩届かなかったクイーンの座に 軽音部の名物コンビが 遂に到達ッ!」



 客席に手を振りトロフィーに口づけをする貴女。

 そのトロフィーを高々と掲げた後 隣に立つ私に手渡す。

 私も トロフィーに軽くキス。

 貴女が口付けしたところに。

 サヨナラの間接キスね。



「「「キャーーーッ」」」

 

「咲良~~っ」

 

「「せーのっ♪ せんぱ~いっ!」」

 

「朱音さーーーん」



 舞台下からも 友人やファンからの祝福の声。

 その人混みの中をかき分けながら進んでくる一団。

 クラスメート達に無理やり押し上げられるようにして 舞台に上がる〈あの娘〉。



「おっ おめでとう 咲良。アンタの歌 めっちゃ気持ち伝わってきたよ。感動した……」



 ……でしょうね。

 アンタのためだけに歌ってたんだもの。


 

「毬乃ッ」



 貴女は 優勝の興奮そのままに 恋人を力いっぱい抱き締め 口付けをする。

 最初 少し抵抗していた〈あの娘〉も 恋人の首に腕を回し 気持ちのこもったキスを返す。



 それを見て 涙が溢れ零れる。


 悔し涙?


 そんなワケないわ。

 もう 未練なんてないんだもの。


 これは 優勝した感動の嬉し涙。



 最高潮に盛り上げるステージを そっと降りる。

 ステージ終わったら 別の大学行くって サヨナラを伝えるつもりだったけど……。

 今日は 無理っぽい。

 どこか 静かな場所で もう一度泣こう……。

 


★☆★



「朱音先輩っ」



 体育館の出口を そっと出たところで 後ろから呼び止められる。

 振り向くと ダボっとした白のズボンに黒のTシャツ ヒップホップスタイルの〈男の子〉。

 頭には黒いキャップを斜めに被ってる。



「今日のステージ 最高でしたっ!あのコレ 受け取って下さい!」



 そう言って 小ぶりな花束を手渡してくれる。

 


「あの ボク 中等部2年の石川いしかわ 梨花りかって言います。あ あの 朱音先輩のファンなんです。サイン貰っても いいですか?」



 短めの黒髪。

 スラッとした体型。

 中2って言ってたけど。

 目元とか鼻筋とか けっこう大人っぽい。

 でも 頬の感じなんかは まだ 少し幼くて。


 うそ。

 ウソ。

 嘘ぉ?


 めっちゃ綺麗な子だよ?

 しかも 私のファン?

 その上 ボクっ娘?



 萌え萌えキュ~~~ン!



 うそ。

 ウソ。

 嘘。


 今のウソ。

 

 萌え萌えキュンとか そんなのウソ。

 私 そんなキャラじゃないから。

 いや 咲良に 声掛けられた時も 同じこと思った気もするけど。

 



「昨日のラストライブも見ました。最後の『教室の窓…』凄くよかったです。ボク こないだ失恋したばっかなんで 先輩の歌声とキーボードが なんか 胸に刺さるって感じで……」



 うそ?

 ウソ?

 嘘ぉぉぉ?

 失恋したばっか?


 ってことは 今 フリー?



「……いっ いいわよ。サイン書くね。あっ あの もう一度 名前 教えてもらっても いいかな?」


「石川 梨花っていいます。あの 聖心大でのライブも楽しみにしてますっ。すぐ隣なんで 絶対 聴きに行きますから!」



 うそ?

 ウソ?

 嘘でしょ?

 めっちゃ期待しちゃってるんだけど?


 ……まだ 誰にも 聖心大やめとくって言ってないし 大丈夫よね?

 ヒップホップ好きなのかな?

 ちょっと練習 始めようかしら……。

 

 

 



        to be continued... Her next song is “SECOND LOVE”. 


 

 

 

 

 

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咲良と毬乃の或る日のポートレート 金星タヌキ @VenusRacoon

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