あとがき

 妻は先日死んだ。

 元から病に侵された身体であったし、眠るように逝ったので、私はすんなりと受け入れることができた。妻を看取った後は何人かの女を買った。妻が床に臥せってからは碌に女に触れていなかったし、心に空いた隙間を少しでも埋めてしまおうと思ったのだ。若い女を抱いた時、ふと路地裏の彼女が頭をよぎった。死んだばかりの妻ではなく、何十年も前に関係を断ち切られた彼女を重ねると云うのは、自分でも随分と非情な話だと思う。それまで朧げだった記憶は、刻一刻と鮮明になっていき、私は思わず筆をとった。

 だからこれは、妻への贖罪の気持ちなのである。私はこの物語を書きながら気がついてしまったのだ。私があのまま作家を続けられたのは、紛れもなく、彼女との記憶に無意識に縋った結果なのであると。ここまで生きてこられたのも、妻を養うことができたのも、新しく住み心地の良い家を建てることができたのも、四人の子供たちを育て上げることができたのも、全てあのひと時の夢があったからできたことなのだ。



この物語を私を愛した二人の女性へ、そして私の小説を愛した友へと、捧ぐ。

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路地裏 瀬川葉都季 @haduki_segawa

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