第16話 神の使い
その少年はそう、なんというのだろう、不思議な色を纏う者だった。
レンセンブルク侯爵はその戦いの中で、相手の状態を色で見ることが出来るようになっていた。
会った瞬間、透明感のある金色が見えた。
赤や蒼。
体調や気持ちで色は変化をする。
そう金色は初めての色。
無論、一度も見ていない。
エールを冷やすときも、変化無し。
戦闘時は遠すぎて判らなかったが、その日ひたすら腹の探り合いと、浴びせ倒し。
いやまあ酔い潰そうとしたが駄目だった。
ギルドマスターの家へと赴き宿泊をさせて貰う。
翌朝、氾濫の後始末を行うつもりだった。
だが彼に、教会の者が絡み始める。
「あなたというお方は、一晩待たせるとは何を考えているのです?」
「彼に用事だったのか、すまんな。私はアドリアヌ=レンセンブルクと申すものだが、彼に何用かね」
「アドリアヌ=レンセンブルク? 申し訳ありません、侯爵様では?」
「ああ、そうだ。彼はこの町を救った英雄。ついつい話し込んでしまった」
教会の者達はかなり怒っていたが、オロオロし始める。
「何用かは、命令を出された司教様。オーシエ=ヒローゲ様にお聞きならないと。私たちでは判りかねます」
それを聞いて、ふむと考える。
「よしでは、わしも行こう」
「俺も行くぞ」
「じゃあ行こう」
結局侯爵とギルドマスター、俺の三人が乗り、教会の人ははみ出して、走って帰ることになった。
「遅いぞ何処まで行っておったぁ」
司教様はお怒りだった。
開口一番、教会の人間のくせに怒鳴るという。
「アドリアヌ=レンセンブルクと申すものだが、彼に何用かね?」
「ああ、貴様…… なっなぜ侯爵様が?」
「わしらが、彼と話しておったのに、急用らしいからな」
「そうでございましたか。ええと、君、浄化魔法を使えるというのを聞いたのだが、他国かどこかの、司教とかかね?」
ちょっとまあ、色々言ったので、まあ良いかと思い始めた。
「他国では無く、他の世界だ」
「他の世界?」
「ああ。この世界の神にたのまれてな、世界の修復をしに来た」
無難な言い回しだろう。
だが、教会の者からすると、聞き捨てならない言葉。
「神にたのまれただと? それなら何か証明をしろ」
糞女神、馬鹿野郎見ているなら出てこいや。
そう願ったが、奴は出てこなかった。
「ふむまあよいだろう。この非礼、後悔をするな」
そう言って、このオッサンの魔力回路を封じてみた。
そう、体を動かすにも魔力は働く、封じれば体に変化が出るはず。
そう魔力枯渇は死活問題。
すぐに、頭痛、吐き気、発熱、目眩。
その辺りの症状が出始めて、倦怠感や呼吸困難まで出始める。
「ぐっなにをした」
「証明。魔法を使って見ろ」
オッサンは何かをやっているようだが、当然魔法は使えない。
「なぜだ、貴様治せ」
「なおせだと? 自分で治せよ。専門家なんだろ?」
後ろから、ぼそっとおっそろしと、声が聞こえる。
普通の治療魔法などでは治らない。
その内、症状がひどくなってきたのだろう。
体内に残っていた魔力が欠乏を始める。
「ガッぐわ、たす、たすけて」
横とかにいる、牧師さん達に手を伸ばす。
だがオロオロするばかり。
その内、体細胞が壊れ始めたのか、到る所から血が流れ始める。
「たす…… 助けて」
とうとう倒れ込む。
「お願いでございます、お助けください」
牧師さんや、修道女さんが流石にオロオロしつつ、お願いをして来た。
「私には、絡んでこないように」
そう言って彼を治す。
キュイーンという感じで細胞が動き始める。
おもしろい。
「用事も済んだし帰りましょうか」
そう言って、帰り始める。
馬車の手綱はギルドマスターが握った。
ギルドの入り口に繋いでおくと、いつの間にか馬車は無くなっていた。
教会の人が連れて帰ったのだろう。
「ふむさて、礼をせんとな。準男爵辺りでよろしいかな?」
「それって、どういうものなんです?」
まあ兵団に入っていただいてもいいが、そうでは無くて、冒険者をしていて、必要なときに動いてもらえればよい。
「ではそれで」
「それなら後日、
「はい」
そうしてなんとか、貴族になった。
まだまだ先は長そうだが。
それの他に、金貨も貰ったので、多少懐は潤った。
家を借りる足しになったよ。ベルトーネさんの献身が大きい。
三人で暮らし、金を貯める。
「これからどうされます?」
「なんか爵位を貰ったから、自由には移動できないのだろうなあ」
そう大きな内乱とか、戦争とかそんなものでも起こらないとこれから先に手柄を立てられない。
まあ適度に頑張ろう。
そう思って、まったりと暮らし始める。
だが不運に惹かれてか、騒ぎはすぐそこまでやって来ていた。
不運だけど、快楽と無双を武器に、異世界を生きていく。 久遠 れんり @recmiya
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