第15話 不思議な少年

「秘技クラスター爆弾」

 大きな炎はイメージ通りに細分化をして、一頭一頭を燃やし尽くす。


 モンスターと、麦の焼ける不思議な匂いが周囲に立ちこめる。


 細かい奴らは焼けたようだが、大きな奴らはもう少し打ち込まないと駄目なようだ。


 その威力に、こちら側みんなが驚いている。


 きっと宮廷魔道士でも無理だろうと考える。

 実際会ったことはないが、冒険者なり魔法兵なり程度というものがある。

 人の扱える魔法。

 それをどう考えても超えている。


 それを繰り返し発動。

 そうそれを非常識という。

 熱さのせいか、ヨシュートの周りから、人が離れて行っていた。

 ヴァレリーはそれを見ながら、ついユキの首を絞め、怒ったユキに腕を噛まれる。

 食いちぎるほどではないが、牙が四本ほど刺さり、血が流れ出す。


「ごめんね」

 頭をなでるが、ご機嫌は悪いようだ。


 布で縛り血を止める。


 結局、極大ともいえる魔法は、向こうからモンスターが来なくなるまで続けられた。


 その後、兵達は、村などをチェックしに行く。

 森から出たモンスター達は、基本同心円状に広がり、満遍なく被害を及ぼす。

 そのため、町が安全になったなら、掃討戦に移る。


 ヨシュートは、ユキに噛まれて血を流し、青い顔をしているヴァレリーを治療する。


 その姿は、迂闊と言えば迂闊。

 周囲全員が見守る中、治癒魔法に浄化をあっさりと使う。


 血が流れていた腕が治り、布に滲んだ血が消滅。

 教会の、上位治療師にもできない。

 そう人はそれを非常識という。


 アルーに踏まれても大丈夫な奴。

 大規模殲滅魔法を平気で何発も打てる奴。

 司教クラスでも無理そうな治療魔法を使う変な奴。

 ベルトーネさんを手なずけてしまった最悪な奴。


 まあまあ、評価はまとめると変な奴という事でまとまった。


「御報告いたします。例の者。ギルドにて『変な奴』と呼ばれております」

 辺境伯、アドリアヌ=レンセンブルク侯爵は、家宰のセバース=エドモンドと共にギルドにいた。町の門に近く、何かのときに命令が出しやすい。


「『変な奴』? ヨシュートのことですか?」

 ティミオは、変な奴というキーワードでつい答えてしまう。


「知っているのかね」

「ええまあ、と言ってもよくは知りませんが」

 そこで一瞬悩んだ。

 神の使いという事は聞いている。

 だが、それを言って良いものか?


 奴の非常識さで、使いという事は確信をしている。

 普通の人間に同じ事は、絶対にできない。

 奴はきっと、エンシェントドラゴンも笑いながら殴り飛ばすに違いない。


 そう思い、ふとおかしくなる。

「ギルドマスターどうしたね」

「いや、神の使いのくせに、結構人間味があって…… あっいや」

 口を押さえる。


 だが、その時、ベルトーネがお茶を持って来ており聞いてしまう。

「それで、だからあんな」

 その言葉を聞いて、家宰のセバースが反応する。


「彼と親しいのかね」

「えっ。ええまあ」

「何か彼についての情報があるのかね?」

 流石に、エッチが上手とは言えないし困ってしまう。


「その…… 彼に愛されると、この世界から溶けていなくなる感覚がします」

 結局ばらした。


「ふむ。神の使いねえ」

 レンセンブルク侯爵は、よく分かっていないようだが、それが本当なら、教会ともめるだろう。

 セバースは少し困り始める。


「今の情報は広めないように」

「「はい」」


「だが会わぬ訳にはいかんな。彼は我が領の救世主。いなければもっと被害が大きかったであろう」

「それはそうですな」


 せっかく内緒の話をしたのに、教会は知っていた。

 町の危機、正門前で、浄化と治療。

 目立たないわけがない。


「その者、冒険者だと? 連れてこい」

 神の御業を使えるなど、許せん。


 教会に入り下働き後、教えを請い修行をする。

 その秘伝ともいえる技をひょいひょい使われてはかなわん。

 それもあっという間に怪我が消え、汚れが浄化されただと。


 そんな事が広まれば、数回必要な私が手を抜いていると思われる。

 一回、最低でも金貨一枚くらいからのお布施をいただく。


 それを無料で、ポンポンと施すなど許せん。


 言う事で、町の司教オーシエ=ヒローゲの命令により、牧師さんや、修道女さん達が攫いにきた。

 目立つなと言うので、わざわざ馬車まで借りて。


 場所は、ギルドの前。

 入ろうとした所を捕まる。

 ユキが目印にされたようだ。


「あなたが、ヨシュートと申すものですね」

 声をかけてきたのは、二〇代後半。

 自分すら律しているような厳しい感じの女性。

 頭から、足まで真っ黒。

 この世界、下っ端教会関係者は、何物にも染まらないという事で、黒を着るようだ。武闘系なら返り血が目立たないとかもありそうだが。


「そうですが、今領主様が呼んでいるらしくて、あちらの約束が先ですのでよろしいでしょうか?」

「領主様が? すっ少しお待ちください」

 馬車に顔を突っ込み相談中。


「そうですわね。それでは、ヨシュートとやらそちらを優先することを許可します」

 しっくりこないが、許されたようだ。


 だが、教会関係者は、ずっと待つことになる。


「そなたが、ヨシュート殿か」

 レンセンブルク侯爵は腹を割って話したいらしく、酒場を所望する。

 そのため、マムの店へと移動。

 ドンちゃんと宴会から、ギルドマスターの家へと雪崩れ込む。

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