第14話 非常識

「では、私から商業ギルドの方に話をしますね」

 こんな事は得意な話し。


「じゃあ、ベルトーネさんにお願いします」

「だめ。さんはいらないからベルトーネね」

「ベルトーネ、たのんだよ」

「はい」


 私は浮かれていた。

 昨日も帰っていなかったし心配もさせたのだろう。

 説明をするが、無論お父さんは許してくれず喧嘩をする。

 ずっと怖かったお父さん。


 ボディブロー一発で沈むなど、不甲斐ない。

 私は荷物をまとめて、呆然とするお母さんに挨拶をして家を出た。


「ねえ、あれって、やばくない」

 名も知らぬ冒険者達が、町から一〇キロほど離れた所で、森からあふれてくるモンスターを見つける。


 普段は、仲良くしないモンスター達が大量にいる。

 魔素の溜でもできると発生する湧きという現象。

 土地で、何かの原因で魔素が濃くなる。


 すると短期間でモンスター達は増殖をする。

 地球で言う、蝗害こうがいと呼ばれるバッタの大発生。

 それがこちらでは、モンスターがそんな状態になる。


 数年に一度どこかで発生をするが、今回は此処で起こったようだ。


「やばい、ギルドへ急ごう」

 彼らは、あわてて町へ戻る。


 ギルドから、領主へと連絡が行く。

 近くの農民達は助かるのを期待するしかない。


 流石のベルトーネも、浮かれていられず走り回る。


「なに、モンスターの氾濫だと、兵達を全員討伐に向かわせろ」

 辺境伯アドリアヌ=レンセンブルク侯爵が叫ぶ。


「場所はアーレンスの東」

 領都は、アーレンスと言うらしい。

 今居る町はアントンの町。


「聞け野郎共、モンスターの固まりは、町の東方だ。行くぞ」

 ギルドマスターが吠える。


「何があったんだ?」

 オレは事情が分からない。

 ただいつもとは違い、ギルド内もバタバタしている。

「モンスターの湧きみたいね」

「湧き?」

「うん。理由はよく判らないけれど、数年に一度起こるの」

 ヴァレリーなどは町を離れないから、他の情報を知らない。

 この町の付近では、数年に一度起こるのだろう。


 冒険者達と、領兵たち。


 固まりになって外に出る。

 基本は、出迎えるパターンらしい。


 町は門が閉じられ俺達は外。

 ひどい話だ。


 二時間ほどぼーっとしていると、畑を踏み潰し、遠くから黒い絨毯がやって来る。


 徐々に多くなる震動。

 俺達はユキをもふっていたが、ユキが落ち着かなくなる。


 ご主人落ち着いていないで、何か来てますぜ。

 とまあ、落ち着かない感じでキョロキョロし始める。


「あれかあ、すごいな。麦がもうだめだ」

 俺は麦の方が気になる。


 だが周囲は、弓を持った者達が走って行く。

 町の外壁の上にも、びっしりと領兵達がいる。


 弓を構えていないのは、魔法使いか?

 魔法使いでも、とんがり帽子はかぶってくれていない。


 

 辺境伯、アドリアヌ=レンセンブルク侯爵は以外と武闘派で、町の城壁の上に来ていた。

 領都にある屋敷から、命令を出すだけの腰抜けとは違う様だ。

 命令を出す頭としてはどうかと思うが、そう言うタイプらしい。


「多いな」

「そうですな、近年でもかなり大規模な湧きのようです」

 家宰のセバース=エドモンドまで隣にいた。


 服の上からだとよく分からないが、二人とも鍛錬は行っている。


「よし、距離に入ったな、放てぇ」

 侯爵から命令が出る。


 一斉に矢と魔法が飛んで行く。


 普通の矢もあるが、当たると燃える矢や妙に威力のある矢がある。

「あれはね、矢に魔法を乗せているのよ。すごいわね」

 ヴァレリーが教えてくれる。


 彼女も背中に弓を背負っていらのだが、なぜかオレの横で見ている。


 俺達の周りだけ、人が居ない。

 俺が怖がられているのか、ユキが怖いのか?


 結構な攻撃だが、モンスターが多く効いている感じがしない。

「ええい、もっと射かけろ」

 門の上で叫ぶ声が聞こえる。


 だが、冒険者達と領兵がじりじりと下がり始める。

 矢の在庫が途切れてきたようだ。


 それに、距離も近くなり、盾持ち達が構えるがみんな足が震えている。


「ねえ、ヨシュート、やばくない?」

 ヴァレリーがしがみついてくる。

「うーん。行くか? お前は此処にいてくれ。ユキも一緒にいろ」

 頭をなでてから、前に出る。


「ヨシュート頑張って」

 ヴァレリーにとって、確信はないがヨシュートなら、あのモンスターでも大丈夫だと奇妙な自身があった。

 それは、根拠のないモノではあるが、彼と繋がる度に感じるなにか。


 彼はきっと、普通の人間ではないと本能的に理解していた。


 ヨシュートが前に出ると、それに気が付いた冒険者達が道を空ける。


 アイツだ、アルーに踏まれても大丈夫な奴。

 こそこそと、みんなが離れていく。


 ヨシュートは、さっきの光景を意識し直す。


 降りそそぐ火の矢。

 領兵達は、まだ頑張って弓を放っているが、その後ろで膨大な魔力が渦巻き始める。


 そして、それは静かに放たれた。


 壁の上から侯爵は見た。


 冒険者達の先頭。

 領兵達の後ろで、急激に炎の固まりが発生をして、直径三メートルを超えたくらいで、それはゆっくりとモンスターの方へ飛んでいく。


 奴らの頭上、三〇メートル位で、急にはじけた。

 その炎は、モンスターに対して降りそそぎ、すべてを焼き尽くす。


 見た感じは、さっきの攻撃のようだが質が違う。


「なんだあれは? 人の魔法なのか?」

 先ほど炎が放たれた所には、少年が一人。

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