今書かれるてしかるべき物語

一つの「作り話」をめぐって、四人の語り手が「当たり前」について、考えるお話。
これは、今、書かれなければならない作品だと思います。
その点だけでも、これは素晴らしい。
そのうえ、本当にとても丁寧に描かれていて、褒めることばを探すのに苦労します。
同じ場面を何度も描いているのですが、視点を変えながら、ときに新しい情報を付け加えながら進む描写は大変読みやすく、作品世界に私をひきこみます。
この作品が秀逸なのは、二話目の語り手、竹原の話でしょう。
彼はどうしようもないやつなのですが、彼の視点で語られる教室の描写は一話目の山岸の語りとは異なり、それゆえに、周囲の人間も〈共犯者〉であることがはっきりと描かれます。竹原は本当にどうしようもないやつですが、彼がそのどうしようもなさを発揮してしまったのはたまたまで、この教室には竹原と同じようなやつがたくさんいるのです。そして、このどうしようもないやつらは、別に目に見えて悪人的な行動を取るわけではない。ある意味、ごく「当たり前」の人々なのです。
「作り話」のあと、竹原がまだ心のなかにもやもやとした怒りを抱えているのがリアルです。そのあとに親との会話を通じ、また葵先生の「謝罪」のことばのあとに、少し成長しているのがとても素敵でした。
この竹原の〈共犯者〉となってしまった河島――「あの時、表立って竹原君を止めることはできませんでした」――と独白する語り手が最後を締めるのですが、この部分をしっかりと描けているのも素晴らしいと思います。
ぜひとも読んでほしい一作です。