夏の祖谷旅行

大田康湖

夏の祖谷旅行

 徳島県の祖谷いや地方には、かずらの木を編んで作った吊り橋があり、「祖谷のかずら橋」と呼ばれている。私が中学生の時、「祖谷のかずら橋」という歌を合唱部で歌ったことから、長年実物を見たいと思っていたのだ。私のパートはメゾソプラノだった。

 コロナ禍も一段落し、観光事業も復興してきたので、私の体が動くうちに行ってこようと、夏休みを利用して一泊二日の旅行に行ってきた。私にとっては四国に行くのも初めてである。

 新幹線と特急を使って最寄りの大歩危おおぼけ駅に降りると、ミニかずら橋と子泣きじじいの像が出迎えてくれた。実は子泣きじじいのルーツはこの地方なのだという。

 夏休み前の平日ということで観光客は少ないと思ったが、外国人が結構来ていた。


 かずら橋へ行くバスに乗ると、女の子の声で車内放送が流れてきて驚いた。温泉むすめの「祖谷メグリ」がかずら橋までの区間の車内放送を担当しているのだ。

 「かずら橋」でバスを降りると、入口で入場料を払って渡る。かずら橋は一方通行という決まりで、向こう岸には大型バスなども止まれるドライブインがある。かずら橋の隣には普通の橋もあり、団体客などはこの橋を渡って、かずら橋の入口に向かう。橋の下には祖谷川が流れ、どこからかカジカガエルの鳴き声が聞こえてくる。

 「祖谷のかずら橋」の上で「祖谷のかずら橋」を歌うのが長年の夢だったが、橋の上は外国人の団体客が押し寄せ大混雑である。おまけに途中で怖くなったのか逆走してくる人もいる。私はかずらを掴んで向こう岸に渡るので精一杯だった。


 かずら橋を渡った後、バスに乗って大歩危峽に行き、吉野川の遊覧船に乗った。吉野川ではラフティング中のゴムボートの人たちが挨拶してくれた。


 夜は温泉の出るホテルに泊まった。こちらには団体客は来ておらず、大浴場もほぼ独り占め、食事もおいしかった。特に阿波牛の焼き肉が絶品だった。


 翌日はかずら橋の先、奥祖谷に向かった。川沿いの狭い道路を上り下りするバスに揺られ、祖谷の昔の暮らしや平家の落人伝説についてまとめた東祖谷歴史民族資料館を見学した。こちらにも小さなかずら橋があるのだが、バスも少ないのであきらめて大歩危駅に戻り、横浜に帰宅した。

 個人的には四国に来たからには関東では手に入らない「カール」も入手したかったのだが、大歩危駅前の商店で「うすあじ」を発見して確保した。チーズ味がなかったのは残念だ。

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