Stage11〜ヘンテコドリライ〜

 長い入学式から翌日、まだ慣れないネクタイに苦戦して、ギリギリに家を出る。


 シーズン学園の授業は、基礎科目とドリライの授業もある。なので、午前は普通の高校と変わらない。


「では、此処の問題を赤沢」


「はーい」


 シーズン学園は学問も高い水準。乱暴そうな赤沢も顔色を変えずに黒板に答えをさらさらと書く。


「正解。だが、返事は伸ばすな」


 基礎科目の午前の授業が終わった後は、昼食。学内の食堂は、育ち盛りな学生を考えた豊富なメニューがある。そして、値段も格安だ。


 今日は、冷たいかき揚げそばにした。温かいそばも好きだが、どちらかと言うと冷たい方が好きだ


 理由はつゆは少なく、かき揚げが、つゆにひたひたにならず、最後まで、サクサクの食感だからだ。


「よっ!ハルキ昨日は災難だっなあ〜」


「早乙女さん隣、良いでしょうか?」


 蕎麦に手を付けようとした時、丁度一枝が隣の席に座る。一枝はカツ丼、二条はサラダを中心としたヘルシーなものだ。


「別にいい」


「ありがとございます、昨日は初日から大変でしたね」


「ほんとな〜白金先生厳しいぜ~」


 一枝達は俺への言葉を投げるが、苦ではなかった。逆に俺はドリライのアイディアが、思い浮かんで万々歳だ。


「案外いいぜ、バイトは」


「なんでだ ?」


「そうだな、俺のバイトはお客に食事のオーダーを取って、菓子を運ぶことが主な、内容だった」


 二人はすっかり、昼食を取ることを忘れて、耳を傾けている。ドリライとバイトは関係ない様で、すごく大事なことが詰まっていた。


  お客の気遣いや自分普段気にしていない、声のトーン表情は一対一の接客だからこそ、気にしなければならない。それが一日だけでもわかった。


「なるほどな確かにそれは、大事なことだな!ヒカル俺たちも校内バイトするか?」


「良いですね、早乙女さん意見ありがとう」


「いや、俺も一日しか、働いてない。それに今日の再試験で合格しないとかなりまずい」


 そう、今日は昨日のドリライの再試験だ。今回は俺一人でドリライをする。チームでは無いので、自分への注目が格段に上がる。昨日よりも難易度が上がっているのだ。


 実技試験でも一定のラインが無ければ、進級の成績の影響する。最初だから、仕方ない。そんな理由で俺は踏みとどまらない。


---------------------------------


 昼食を終えた後は、一枝と二条と別れ、俺は衣装部屋へ向かう。誰もいない。廊下。今日は自分の力を試される。


 前はクラスメイトで埋まっていた衣装部屋も、今日は俺一人の可視きり状態だ。


 読み取り機にドリカをかざす。ドリカが正常に読み取られると、ウォールドアが開かれる。


「行くか」

 

 再度自分に気合を入れて、拳を固く握る。足を前に一歩出す。その瞬間猛スピードの落下。

 

「やっぱ慣れねぇー !!」


  二回目でも心臓にわるい。断末魔は空しく響き渡る。その最中、一度瞬きをすれば、衣装の着替えが完了だ。 


「はぁ、着替えなんとかならないのか」


 思わず、ため息を零す。しかし、今は気にしている場合ではない。ステージ下へ歩くと、既にスタさんが待っていた。


「早乙女くん、昨日振りです。今日は緊張していますか ?」


「スタさん、今日は大丈夫です」


 実力が一日で変わるのは、難しい。しかし、大丈夫と言える理由は、ドリライがやっぱり好きに変わりないからだ。


 あの空間でいられる時が、音楽を身体で感じられる瞬間だからだ。


「そうですか、頑張ってくださいね!」


「はい」


 ポップアップに押し上げられ一日振りのステージに立つ。ライトが眩しい。


 視線も俺一人だ。でも。やるしかない。今は俺の持っているものを魅せる。


「曲お願いします」


 白金先生に合図を出し、曲が開始される。何回も練習した曲。ドリライは入学試験を含めると、三回目。ステージの緊張感はもうない。


『振り付けも指先まで意識する』


 姉さんにも散々言われた振り付けは、出来ているつもりでいた。けど、精細な部分を見ると、俺はできていない。細かい動作はいつでも見られている。


 遠いステージを理由に自分の振り付けに意識を向けていなかった。


 だから、今日は、昨日のバイトの気づきを生かす。間近で見られているからこそ、普段以上に自分の動作に丁寧さを振り入れる。


 今日は全力は丁寧に精彩に踊り切る。


『表情も、もっと豊かに表現する』


 ステージはモニターで投影されており、表情は遠くの人にも見える。けど、俺はまだ、表現しきれなかった。曖昧な笑顔ではなく。


 誰でもわかる様に表情で、今自分は楽しいんって。伝えろ。


 どうか、俺に夢を見てくれ、そう願ってドリライを続ける。


 すると、目の間には桜の花びらが目の前に広がっていた。入学試験とは、比べ物にならない量のGENSOUだ。


 ありがとう。今は、この瞬間に感謝を込める。ドリライは観てくる人の夢を叶えるもの。


 俺が何を魅せられるのか、沢山見せないと分からない。失敗はそこから考えよう。


  GENSOUを無数の内、一つ掴むGENSOU越しに伝わる。叶えてほしい夢がひしひと。


『かわいい姿が見せろ』


 か、かわいい?無理難題な夢に戸惑うも、叶えるしかない。今自分で思いつく、かわいいはこれだ!


「ボール?」


「いや、なんか甘い匂いがするな?」


 ステージに飛んでいる、桜色の丸い物体は、会場中に甘い香りに包まれる。


「なるほど、春の饅頭か、ふふっ」


 白金先生が笑っている。その理由は、俺のドリライパフォーマンスが、四季の春の饅頭がステージ中に舞っているからだ。


「ハハッハー!!これが貴様の可愛いか、良い答えだ」


 これは俺の想像力が乏しいせいだ。またヘンテコドリライパフォーマンスをしてしまった。でも、あの高笑いは気持ちがよさそうだ。


「あまったるい匂いだな、腹減ったー」


「学園内にある。和菓子屋だよ」


「早乙女ハルキは独特な考えだな」


 赤沢たちもドリライパフォーマンスに興味津々だ。赤沢は褒めているのか、貶しているのか、わからない。


 春の饅頭は美味しい、あの桜色に真ん丸な形の饅頭は俺の「かわいい」の答えだ。


---------------------------------


「マジで、バイトやってんじゃん」


「赤沢!?皆も何で ?」


 無事に再試験の合格貰った後、直ぐに黒田さんにシフト希望を出しので、今日もバイトだ。そんな中、顔見知りの全員が集合だ。


「早乙女さん再試験おつかれさまでした」


「アンタのせいだからね、饅頭が食べたいって思わせるなんて」


「西園寺さんも食べたいのですね!」


 来店理由はドリライパフォーマンスだったのか、あんなヘンテコパフォーマンスでも、興味が引けて素直に嬉しい。


 和気藹々とみんなが席に座る中、赤沢は一向に席に座らない。表情は不満そうだ。


「なんだよ、赤沢」


「アヤコって呼ばねぇの?」


「はぁ ?」


 不満な理由は呼び方かよ、昨日は入学直後で知らなかったが、今日は最初の授業で知ったから、苗字呼びに変えただけだろう。


「昨日は苗字知らなかったんだよ」


「別にアヤコでいいぜ?お前のドリライおもしれぇから」


 しかし、赤‥アヤコは名前呼びを希望の様だ。本人が言うなら、呼ぶが理由が面白いからか、変わった理由だ。


「そっか、じゃあ改めて、よろしくアヤコ」


「応!ハルキよろしく」


 昨日はピリついていた関係も今日で、こうして握手できる仲になった。やっぱりドリライは楽しい。もっと、ドリライをしたい。そう改めて感じた。


--------------------------------


【早乙女ハルキ その2】

バイトを経て、実力試験の合格を貰った。実力テストでも再テストがあるのが、シーズン学園だと痛感。しかし、それを乗り越えた。

クラスからは、ヘンテコドリライパフォーマンスと言われ続けている。


【白金ユウ その2】

普段は高笑いなどはしない。しかし、感情が昂ると普段より表情豊かになる。黒田の店の菓子は好物。


---------------------------------

今回も観ていただきありがとございます!これで、第二章が終わりました。キャラクターが動かせて嬉しいです。アヤコちゃんが可愛くてしょうがないです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢が叶うライブ〜ドリライ!Stage On !〜 @kisaragi0409

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ