Stage10〜長い一日の終わり〜
春の饅頭をぺろりと平らげ、緑茶を飲む。甘い物を食べた後に飲む緑茶は、少し苦味があって、とても合う。
「ハルキくん美味しかた?」
キッチンから黒田さんが来る。もちろん饅頭の味はとても美味しかった。あんこは甘すぎず、皮はもっちりとしていて、ほんのりと香る桜は絶品だ。
「はい、とても」
「よかった〜それと、伊集院くんゆっくりしても大丈夫?」
伊集院さんは学園長だが、ゆっくりしている暇はありそうだが、そんなことはなかった。スマホを取り出し、時間を見ると顔をしかめた。
「あーよくないね、アキトから鬼メッセージ来てる」
伊集院さんは名残惜しそうに腰を上げて、財布から代金を取り出し、黒田さんに渡す。
「サヤちゃんいつもありがとう、代金ね」
「こちらもありがとう、朝日奈君にもよろしくね」
「もちろん!じゃまたね~」
軽く手を振って去る伊集院さんを見送る。このやり取り前にもやったような、まぁ良いか。
結局タイミング見逃して、ペンダントのことも聞けなかった。また会った時には渡そう。
「さて、早乙女くん、今はおやつ時だから、頑張ってね」
「はい!」
それから、黒田さんの予想通り、お客の来店が増えた。最初は盆を持つ手が震えていたが、数をこなすことで、震えはいつの間にかなくなっていた。
「春の饅頭とほうじ茶お待たせしました」
「ありがとう~新人さん頑張ってね~」
「ありがとうございます」
何かと、お客は慌ただしい動作を、何も言わず見守ってくれるので、今の所はミスはない。
運んだ菓子を美味しそうに食べているお客を見ると、自分が作ったわけでもないのに、嬉しいく感じた。
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辺りもすっかり空がオレンジ色に染まり始めてきた。閉店の十八時も近くなり、人通りも減ってきた。
そして、十八時を知らせる鐘が校内中に響き渡る。
「早乙女くん、お疲れ様~初めてなのにがんばったね」
「黒田さんが助けてくれたお陰です」
四季の営業時間が終了し、無事に終わったことに胸を撫で下ろす。最初は心配だらけだったが、周りの人達のおかけだ。
「早乙女くんが頑張っていたからよ」
「そうですか?」
「うん、最初はぎこちなかったけど、途中からお客さんの対応とてもよかったわ。声のトーンや配膳は完璧よ」
「そう思ってくれると、嬉しいです」
バイトはとても、有意義だった。どうすれば、お客に聞こえやすい声で話せば良いか、お客の手に取りやすいように菓子を置く気遣い。
普段は考えてないことを多く学ぶ良い機会だった。
「校内バイト、有意義になりました。お客を喜ばせる気遣いはドリライと変わらないことを知れました。」
俺はドリライの道を目指すが、色んな視点を見ることで、パフォーマンスが湧いてくる。素直な気持ちを述べると、黒田さんは嬉しそうにほほ笑む。
「もう、一日で気づくなんて、なかなかね!白金先生に良い報告ができそう!」
もしかすと、この視野の広がりが、白金先生からの課題だったのだろうか、でも、一日じゃとても足りない。もっと、このバイトで学びを得たい。
知ることで、俺のドリライの解像度は、もっと上がるかもしれない。
「あの、バイト続けてもいいですか?」
「もちろん、意欲がある子は大歓迎よ!なら…」
黒田さんは、快く了解してくれた。すると、スマホを取り出し、画面を見せる。何かのアプリだろうか?
「これ校内バイトのアプリね、シフトと給与もアプリでできるから」
「すごいですね、ハイテクだ」
シーズン学園専用バイトアプリ。こんな物まで、力を入れるとは、やっぱり力の入れ方が違うな。
「今日は本当にお疲れさま、またアプリで連絡するかよろしくね」
「はい。今日はありがとうございます」
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「ただいま」
「おかえり遅かったわね」
家に着くと既に姉さんは帰宅していた。普通なら、お昼過ぎに終わる式が、俺の帰宅は十九時前、言われて当然だろう。
「初日からバイトしてた」
鞄を床に置き、ソファにどかりと座る。ソファのクッションが、俺の疲れを吸収する。制服に着替えるのが、面倒に感じてしまう。
「バイト?あぁ校内バイトね」
姉さんは夕飯の支度をしながら、話を流す。俺は知らなかったが、姉さんは知っていたらしい。
「知ってたの?」
「パンフレットに書いてあるでしょ」
姉さんは呆れた様子で、ため息をこぼす。俺は入学することで、頭がいっぱいだった。入学後のことなんて、まるで考えていなかったかな。
「そうだっけ?姉さんこれ、バイト先からもらった」
重い腰を上げて、鞄から今日の成果を出す。そう。初バイトで得た報酬はこれだ。高らかに物の入っている箱を姉さんに渡す。
「四季の饅頭ね、後でいただきましょう」
姉さんは春饅頭を見ると、嬉しそうに目を細めた。姉さん饅頭好きだったのか?
それにしても、長い一日だった。実技試験をして、バイトして、大変だった。けど、まだ入学一日目明日も頑張ろう。
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