Stage09〜お饅頭のように〜

 実力審査のドリライでパフォーマーの基礎、GENSOUが出されず、その刑で俺は、担任の白金先生から、校内バイトを言い渡された。


「オーナーから貴方のことは伝えている。地図の場所へ向かえ」


「わかりました」


 入学して早々、何故バイトをするのか、全く説明がないまま、地図に載っている場所へ向かう。学園内は非常に広く、いくつかのステージ、大きな学食など、移動するだけでも大変だ。


「ここか?」


 到着した先は「四季」という場所だった。洋風な建物の多い、学園と裏腹に此処は、和風な建物だ。外観からして、飲食店のようだ。


「あぁ!新しいアルバイトの早乙女くんね!」


「はい、早乙女は俺です」


「私はオーナーの黒田サヤカです。よろしくね」


 出入り口で迎え知られた、割烹着姿の女性。ふわりとほほ笑む姿は、優しい雰囲気でホッとした。人生初のアルバイトに怖い人なら、どうしようと思った。


「はい、これ制服だよ」


 バックヤードに案内されて、クリーニング済みの制服が渡される。和風モダンだろうか、店内と制服はマッチしている。


「ありがとうございます、このアルバイトって伝統なんですか?」


「伝統…白金先生の担任なら、確かに伝統ね、アルバイトの理由も早乙女くんなら、見つけられるわ」


 つまり、これは俺がアルバイトで理由を探さない限り、アルバイトは終わらない。一体何を俺に教えたいんだ ?


「今日は入学式だったから、お客様も少ないし、大丈夫だから」


「が、頑張ります」


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 早速制服に着替え、まずは店内の掃除。テーブル席に拭き掃除、床など。綺麗にする。

 

 この店は主に和菓子の販売やイートンで、飲食ができ、学生から教師も利用するみたいだ。


「いらっしゃい~」


「サヤちゃ〜ん春の饅頭ある?」


「あるよ〜すぐ出すね〜」


 外で掃き掃除をしていた黒田さんは、元気に応対する。店内から外を覘くとなんと、伊集院が来店していた。俺の姿に気づくと軽く手を振られる。


「やっ!入学初日からバイトか〜相変わらずユウちゃんは厳しいね〜」


「おかげさまで…」


 伊集院さんは縁台に腰掛ける。白金先生や黒田さんの呼び方から、二人とは親しい関係なのだろう。


「あの時の君がまさか、この学園にね~入学おめでとう」


「ありがとうございます」


 そう、俺はシーズン学園に入学はできた。伊集院さんのドリライで自分の固定概念が変わった。でも、今は素直に喜べない。


「学園には、入学した。けど、今の君は、悩みがあってここに居る訳だ」


 伊集院さんは、ズバリと言い当てた。まさにその通りだ。自分の音楽を完成するために学園に入学した。


 けど、ドリライは楽しい。なのに、実技試験で観客は、俺のドリライを後半以外は、望まれなかった。


「どうすれば良いかわからなくて」


 俺が足でまといなのは、とっくに知っている。入学試験のときから、西園寺や巴の実力を見て、自分はサポートに回るべきだ。


 それでも、自分の好きな様にドリライをするのが、怖いのだ。


 今回は勢いで何とかなった。しかし、次はどうなか分からない。


「早乙女く〜んこれお願い」


「今行きます!」


 すっかり喋り込んでしまった。急いで黒田さんの元に向かう。キッチンには、既に盆に乗せられた茶と桜色の饅頭が準備されていた。


「はい、これ春のお茶と春のお饅頭ね、伊集院さんと食べてね」


「いいんですか?」


 思わず聞いてしまった。美味しそうな饅頭と湯気が立っている緑茶は見ているだけでも、食欲がそそる。


「大丈夫よ〜お店の味を知るのも大事!少し休憩しましょう」


 なるほど、店の味を知ることもバイトの一環か、もし、客に質問されても味を知っていれば、説明もできる。


「では、お言葉に甘えます」


 盆を持ち外へ移動する。落とさないように両手で持ち移動する。


 初めてお客に食材を運ぶので、手が震えている。ファミレスの店員は大量食器を大量に持つ姿が思い浮かび。敬意を表した。


「お待たせしました」


「きたきた〜これが無いと春が始まったことに感じないんだよね〜」


 盆を縁台の中央に置くと、伊集院ははじける笑顔が飛ぶ。伊集院さんは「いただきます!」と手を合わせて、饅頭を手に取り、頬張る。

 

俺も手を合わせた後、饅頭を一口齧る。


「ん〜うまい」


「おいしい」


「でしょ〜このあんこと !ほんのり、香る桜が甘すぎないのがいいんだよ〜」


 確かにおいしい。周りの桜並木を見ながら、食べる饅頭は伊集院が言う通り、春が来たと感じる代物だ。


「さて、話の続きだ。君は何に悩んでいるのかな?」


「今日実技試験があったんです。その時後半までGENSOUが出なかったんです」


 今日の実技試験の出来事を伊集院さんは、時折は時折うなずき聞いてくれた。


 否定もせず、肯定もしない。しかし、思うままに伝えた。


「早乙女くんは自分を出すことを怖がっているね」


「それ、アヤコにも言われました」


「アヤコ…あぁ !赤沢アヤコさんね、あの子なら見抜けそうだからね」


 やっぱり、自分単体の力を付けないと、この先は難しいのだろうか、クラス全員のドリライはの個人の力は俺より遥か上だ。


 そんな中で、俺はドリライをして良いのか?すると、伊集院さんは饅頭を掴む。


「最初は不安が多い。けど、このお饅頭のように誰かが望んでいるのなら、最後までステージに立つべきだ」


 誰かが望んでいるのなら、その言葉に俺は深く胸に刺さった。


 入学試験の時のドリライは、ただ、夢を観客に与えていた。そうすれば、喜ぶと思っていた。


 でも、実技試験は誰も夢を抱かなかった。


 俺は観客を夢に抱かせるには、力が足りない。


 どんな、物だってそうだ。食べ物なら、食べないと「美味しい」 「不味い」の選別が付かない。


 パフォーマーもそうだ。サポート以外にも自分の良さを引き出すものを魅せないと観客に夢を持たせられない。


 まずは自分の良さを引き出すために、何をすべきか考えよう。その答えが観客に夢を持たせらると信じるしかない。


 音楽の完成はそこから始まる。


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【黒田サヤカ】

和風喫茶四季を経営している。白金とは縁が長い。

優しい性格の彼女は生徒に慕われている。


【和喫茶四季】

和菓子やスイーツのメニューは豊富。放課後は学生や教員で賑わう。季節限定の饅頭は伊集院のお気に入り。


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今回はハルキくんにバイトしてもらいました。作者もバイトをして行きましたが、色んな学びがあるんでよすね〜勿論ミスも沢山ありましたが‥

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