Stage08〜テメェの音が聴きたい〜

 衣装部屋の読み取り機にドリカをかざす。「ピピッ」と機会音が鳴り、ウォールドアが開く。先程のアヤコの言葉がきかがかりだ。


「皆さん、アヤコさんの件は、一度忘れましょう」


「分かっているわ、さっさとドリライするわよ」


「すまん、集中する」


 巴の声掛けもあって、全員が集中力を取り戻す。今日は衣装を着て、ドリライをする。ネガティブな考えは厳禁だ。


「よっし!行くぜ」


 ウォールドアを抜けた先は、落下だった。ウソだろ! と言いたが、真実だ。落ちる速度は変わらず、スピードを上げる。


「おい!どうているんだぁぁ!」


返事のない機械に声を荒げても、勿論何も起きない。すると、瞬きした時には、制服から衣装に変わっていた。


「か変わった ?」


 服が脱げた感覚が全くない。袖部分を見ると、リクエストした、自分の好きな桃色があしらわれている。


 これがシーズン学園の共通衣装。白を基調としたジャケット、パンツのベルトは、桃色。衣装全体が動きやすい。


普段の練習服より、断然楽だ!


「着替えたようね」


「皆さん、とてもお似合いですよ」


 西園寺、巴も着替えが完了した。各々が好きな色に反映されている。リクエストによっては、靴をブーツにしたり、ヒールにするなど、共通衣装だけでも、バリエーションが豊富だ。


「あ!チームAですね〜ポップアップへ乗ってください〜」


「あの、貴方は?」


元気よく挨拶した、ショートカットの女性は一体誰だろう?彼女は俺たちに向けてこう言った。


「私はシーズン学園のステージスタッフのスタです!今後も皆さんと関わるので、よろしくです!」


「お、お願いします」


ステージの完全自動は難しい。まだ、アナログ的な手法が必要らしい。そもそも、ポップアップってなんだ。


「ポップアップはステージ床から、ポーンって登場する舞台装置ですよ!」


「あーあれか」


どの、舞台でも見かける、装置は、昔から親しわれているんだな。と再確認した。さて、説明も終わったことで、ドリライが始まる。


 ポップアップに乗った後、勢い良く床ぎ急上昇する。落ちる次は上がるのかよ!最下層から、ステージ上部の床へ上がった


「音楽お願いします」


 西園寺の合図に音楽が開始させる。以前と変わらないパフォーマンス。これで良い。良いのか、本当に…


(西園寺も、巴も自分のパートに集中している)


 俺も集中しないと、失敗する。二人のGENSOUは出ている。そして、俺は重大なことに気づいた。


(俺のGENSOUがない)


 西園寺と巴のGENSOUは出ている。だが、俺GENSOUが一切出ていない。観客は俺への夢を望んでないのか…


 甘かった。考えが、ドリライをすれば、夢を抱いてくれると…


 現実は上手くいかない。


 ダンスと自分を魅せることに注力している、西園寺は直ぐに、ドリライパフォーマンスに移せるだろう。


(やっばうめぇよ西園寺は…)


 集まったGENSOUが無数に舞う。その中で宝石を選ぶ様に、一つの夢を掴む。


すると、西園寺を中心にあったGENSOUが砕かれた。


 失敗か?とクラスメイトは見つめるが、これは違う。空中で舞っている。その数秒を西園寺は逃さない。


(宝石の中で踊っているのか?)


 そう、彼は砕かれた宝石の中で踊っていた。バレリーナの様に、おしとやかにだ。


 例え、砕かれた宝石でも、美しく見せている姿は、全員の視線を一発で奪う。


(クソッこんなじゃ終われねぇよ)


 西園寺のドリライパフォーマンスが終わった。周りを見ろ!俺に出来ることを探せ。


(曲が未完成になるより、何倍もマシなんだよ)


 一生出来ない曲が何年も続くなんて、ごめんだ。音楽の完成のために、俺は学園に入学したんだろう!


(巴のソロパートがまだ終わってない)


 なら、使える方法がまだ。ある!プランにない方法だが、クラスメイトは俺に夢を抱いていない。


 なら、俺が夢を抱かせてやる。


「「…!!」」


 気づいたか?別に俺はダンスも歌も、全部苦手じゃない。伊達に自分で作曲は出来るからな。


 ハモリやサブボーカルもできるんだよ!


 巴のドリライパフォーマンスは、自身の歌声を生かした物だ。俺がそれをもう一押しさせる。


「早乙女さんありがとうございます」


 小さく礼を言われた後、GENSOUに触れる。するお、ステージ中央に照らされていたライトは、巴に独占される。


 ステージ構造も一瞬だけ、オーケストラの風景に変換される。


 無数のライトの中で歌う姿は、正に歌姫だ。


 この一瞬だが、俺が何も出来ない奴。というレッテルは消えた。俺の力は今は、それしかない。


 誰か、夢を抱いてくれ!


 無数のGENSOUの中で、一つ桜がヒラヒラと俺へ向かっている。これは、俺自身のGENSOUだ!一体誰が?


 否、そんなことはいい。夢を叶える。

 

 一つだけのGENSOUを強く握る。夢越しに気持ちが伝わっている。実技試験とは、全く違う、感覚だ。ハッキリと分かる。


「テメェの音が聴きたい」


 音を聴きたい?コイツの夢は原曲や上手い、下手関係なく、俺の好きな様にドリライをしている姿を見たいのか?


 けど、俺は観客の気持ちを摘み取るしかねぇ!


「「「ギター!?」」」


 クラスメイトも大半が、驚いている。派手なパフォーマンスが多い中で、まさかのギターソロ。これしか思いつかなかった。


(クソゥ…俺の音はギターやハモリを即興でやることしか出来ねぇ!)


 エレキギターを即興で、奏でながら歌う。これは、ドリライなのか?と自分に問いかけてしまうほどに、ドタバタだった。


 白金先生の評価は勿論お察しがついている。


「早乙女ハルキ、貴方はパフォーマーの資格がない」


 わかっていた。俺はドリライでは無く、バンドのライブ。観客の夢を想像したが、課題に反している。


 しかし、その沈黙の中で一人の生徒が発言する。


「センセーコイツは、アタシの夢を叶えてくれた」


「何を願った?」


「コイツの音が聴きたい。そう願った」


 たった一つの願いを祈ったのは、なんと、アヤコだった。全員が以外な結果に、目を丸くしている。


「最初は何も出来ねーつまんねーって思ったよ」


 言葉が痛い。言っていることは、最もだ。現に後半のパートまで、誰も夢を抱かれなかったのは、事実だ。


「でも、即興のサブボーカルとハモリでコイツは音楽には、素人じゃないって、わかったから、願った」


 赤沢の夢は叶えた。その一言で、課題はクリアしている。だが、白金先生は、首を縦に振らない。


「赤沢の意見はわかった。だが、前半のGENSOUがないのは、事実だ」


 どうあがいても、事実は変わらない、入学初日にパフォーマーの基本がなかったのだ。もしかして、退学か?と考えた。しかし、白金先生は全く予想しない回答をする。


「よって、早乙女ハルキは一週間、学園内バイトをしてもらう」


「バ…バイトォ?」


 突如して、白金先生からのバイト宣告。何故、学園内で働く理由は、数時間後に理解した。


----------------------------------

【シーズン学園指定衣装】

入学した者に与えられる衣装。デザインの根本は同じだが、白や服のデザインは多少のリクエストが可能。


【GENSOU その2】

GENSOUは観客がパフォーマーに夢を抱かないと出ない。また、パフォーマーも全力で夢を叶える意思がないと、上記と同じ現象になる。

入学試験は、あらかじめ課題があったので、GENSOUは出る確率は高い。


【衣装部屋】

衣装部屋の着替えは正に早着替え、瞬きすれば、あら不思議、衣装の着替えが完了する。


【スタ】

シーズン学園専属、ドリライのサポートスタッフ。主に裏方仕事をしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る