第16話 ローブの男。

 僕と男の戦闘が幕を開けた。


 彼は歴戦の猛者を彷彿とさせるような動きを見せながら、完璧な間合いで僕を攻める。その速度は言わずもがな、僕に反撃の隙を与えない。


 五分くらい耐えのターンを過ごしているので、僕のそろそろ攻撃をしてみたい所ではある。尤も、工夫しないとまた簡単に防がれるのだろうけど。


 かと言って、このまま耐え凌いでいても埒が開かない。ここは一度冷静になって、高火力をぶっ放す。


 でも街に被害とか出したら嫌なので、狙いは慎重に。あ、ちょ、待って。動いて狙いが定まらない。右に行わ、左に行くわ、おい上下まで動くな面倒臭い。


 もういい。


「散れ────【黒鎖】!!」


 僕は頭で構築したイメージを元に、魔法を発動させる。本で読んだ通りなら、魔法はイメージさえあれば作れる(原理でいうなら。ただし、その本の端書きでは現状不可表記)らしいので、試してみる。


 想像するのは他者を縛る黒い鎖。簡単には砕けない、牢屋を彷彿とさせるようなもの。辺り一面から現れ、対象を拘束する鎖。


 結果は好調。一瞬のラグはあったものの、ほぼほぼイメージ通りに魔法が発動した。


「なんだぃ?これは」


 第一ステップ完了。


 男の身動きを封じることができた。彼は必死に鎖から脱出しようともがくが、全身を捉えた鎖は簡単に崩れない。


 さて、次だ。フィールドに高火力魔法を放った時、一番被害が少ない場所はどこだろうか?下?横?いや、上だ。


 僕は【筋力強化】を足に発動。そのまま男を上空に蹴り上げる。


 鎖が地面から絶えず伸び続け、空中で男を縛る。まぁこれも魔力操作の賜物ではあるのだけれど。


 第二ステップも終了。あとは撃つだけ。


「これはまずいかもなぁ……」


 僕は上空に右手を突き上げる。


「万能殲滅────【リガド】」


 右手から光の一閃が放たれ、拘束された男に直撃した……ように思われた。


 残念なことに男は一つのダメージも受けておらず、全身に【魔力障壁】らしきものを纏っている。


「これ、防がれるんだ?」


 想定外すぎる。


「【リガド】が使用されることは想定内だったんだぁ。だからあの方がこの護符をねぇ、くれたんだぁ。防げるか心配だったけどぉ、大丈夫なみたいだねぇ」


 どうやら、ドラゴンを倒した時に【リガド】をしっかりと見られていたらしい。でも妙だな。


 万能属性は【最強の一端】を介し、全属性の魔力を混ぜることで初めて形を成す。


 万能属性を防ぐことは、その仕組みに辿り着くと同義。普通ならあり得ない筈だ。もしかしたら、僕の他に転生者の類が……?あの方というのがもしや?


 まぁ、いい。状況はなにも良くないが、今はそれを考えるよりもあいつを倒すことを考えよう。


「良い魔法だけどさぁ、自分の武器まで破壊しちゃぁ意味ないよなぁ!!」


「やべ」


 完全に見落とした。【リガド】が【黒鎖】を破壊し、男が攻撃を再開する可能性を。


 男の蹴りが直撃し、体が大きく吹き飛んだ。フィールドの壁に直撃し、背中に激痛が走る。


「しくじったな」


「あ、そうだ……俺のことぉ、思い出したぁ?」


「え?」


 そういえば、そんな事を言っていたな。


 今の様子を見てなんで思い出せたと思ったんだ?頭おかしいんじゃないのか?


「もう一回ぃ、殺しかければ気づくかもってぇぇ!!」


 男は更に追い討ちとばかりに僕の体を蹴る。


 痛い。全身に激痛が走る。


 今までの人生でここまでの痛みは経験していないかもしれない。いや、でも、僕は一度死にかけて……


「まだぁ、思い出さないのかぁ?その前に死んじまうよぉ!?」


 こんな時まで不気味な喋り方の男だ。ん?待てよ……死にかけの状況、この喋り方。僕は……知っている。


 決して良い思い出では無い。けれど、絶対に僕はこいつと出会っている。忘れてしまっている、何処かで。


「……教えてくれ。なんで……さっきお前は、俺を見て幸運だって…言ったんだ?」


 僕は息切れで、ましてや肺が痛む中、彼に問う。


 男の魔力反応が強大になっていく。


「強いてぇ言うならぁ……取り逃したガキをぉ、今度こそ始末するできるからかなぁあ!」


 男が勢いよく、背中に隠していた剣でこちらを薙ぐ。禍々しいオーラを纏うそれは、多分即死効果とかを持っているのだろう。


 変に対抗してそこから即死を喰らったりしても厄介なので、ここは一旦避けておく。


 一発避けるのもしんどい。


 【完全修復】を発動するのは可能だが、それに使う魔力は意外に多い。【リガド】との並行使用は危険だ。


 このまま戦闘を、続けるしかない。


 男の剣が空を斬り、地を叩く。


 フィールドの硬い床が一瞬にして砕け、ジワジワと死んでいくのがわかる。やっぱり即死が付与されていた。


「やっぱりこいつじゃ避けられるかぁ……君、状況把握は一人前らしいしねぇ。なら、これはどうかなぁ!!」


 男は怒号を鳴らし、周囲一体に魔力で再生した光の剣を散りばめた。それらは僕を囲み、剣先を向ける。


 ん?

 光の剣、不気味な口調、取り逃したガキ。

 思い出した。こいつ、こいつの正体が!!


「あの時、僕を殺しかけた……正体不明の男は、お前か!?」


「大正解ぃ!!ご褒美に、殺してあげるよぉ!!」


 光の剣が一斉に攻撃を始める。


 全てが別の攻撃を繰り出してくるものの、防御策は万全で薙ぎ払うことも可能だ。


 【魔力障壁】に直撃しても多少の傷しかついていないことを見るに、光の剣自体にそこまでの攻撃威力はないと見た。


 以前のように不意打ちでなければ脅威でも無さそうだ。負傷箇所さえ無ければ特に。


「……っ!?」


 とか思ってたら、男が即死付与付き剣で切り掛かってくる。こっちの方が厄介だ。


 剣の攻撃は【魔力障壁】で防げても、そこに付与されている即死がジワジワと内側に染み込んでくる。


 なので【魔力障壁】に剣先一つでも当たったならば、一旦これを構築し直さなければならない訳だ。


 あぁ!!めんどくさい!!


 光の剣の攻撃を防いでいたら、男の居場所を見失って、何処からか即死が飛んでくる。一回いっかい神経を巡らさなきゃならないし、倒す前に脳が破裂する。


 短期決戦だ……十分以内に奴を落とす。


 とは言ったけどさ、僕の最強奥義【リガド】が護符ってので防がれている今、一撃必殺は望めない。どうやっても時間がかかる。


 幸いなことに、万能属性魔力を使った魔法全てが防がれるのではないらしいので、足止めとかはできる。


 それにしても【リガド】封印護符とか、僕特攻すぎない?


「何をよそ見してるんだぁい?」


 はい飛んできました、即死剣。


 で、反応が遅れたので【魔力障壁】に掠りました。一旦解除して再構築のやり直しです。


 これも結構神経を使うからやりたくないんだよね。一瞬で解除からの再構築の流れが出来れば良いんだけど、失敗すれば光の剣が直撃する。


 今のところ一回も当たってないからいいけど。ま、今回もパッパと作り直して、素早く形成を逆転させるとしよう。


 僕は手筈通り【魔力障壁】を解除し、それを再構築させ……痛っ!!え、僕攻撃された!?


 背中を貫く鋭い痛み。腹部に視線を移せば、そこには細長い刃先が飛び出している。血が、流れていく。


 やられた……のか?即死剣で?


 いや、待てよ。よく見たら、即死剣の刃と妙に違う箇所がある。だとすれば、これは第三者からの攻撃!?一体誰が?


「よぉーくやってくれたよ……」


 男が笑みを浮かべ近づく。


 誰だ、一体誰が!?


「……セノア」


 セノア……どうして、君が……?

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女装メイドのお気に召すままに。── 現実世界のメイドさん、異世界の女装メイドに転生する。ところで、メイドが最強になってもいいですか?── 大石或和 @yakiri_dayo

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