春陽
愛楽
春陽
カーテンの隙間から漏れた光がきみの桃色の頬を照らす。
しわのよった眉間も、長いまつ毛も、ペンを持つ白い手も何もかもが愛おしい。
「やっぱ、ここの問題わかんねぇ」
勉強中の親友、
「あと、もうちょいだろ、頑張れよ」
「
普段は面倒なだけの勉強も彼が目の前にいる時だけは特別に感じる。不満そうにこちらを見る、そんな姿すらも愛おしい。
◇
高校二年の新学期、隣の下駄箱に靴を入れる誰かとぶつかった。
「あ、すみません……」
「や、こっちこそ……」
同じタイミングで教室に向かうんだ、少し気まずいな、なんて思いながら足を進める。
なんとなく前を向くのが気まずくて窓を見ると、満開の桜の咲く中庭が見えた。
「なぁ、名前は?」
「えっと、俺?」
声をかけられるなんて思ってもみなくて驚きながら返事をすると、俺の反応が面白かったのか笑いながら答えてくれた。
「君しかいないでしょ」
「そんなに笑うなよ……、俺、
「ごめん、俺は
その瞬間、挨拶をする真の暖かい春のような笑顔に俺は目を奪われた。
◇
「おい、慶。おーい、けーいー!」
「うわ、どうした?」
真の声で意識を引き戻される。
「どうしたんだよ、ぼーっとして。」
「んーん、なんでも、……で、なに?」
「ここがわかんなくってさ、……」
幸せな白昼夢を見ていた。
「ここは、……」
「うぉー! わかった、慶はやっぱすげーな!」
笑顔で瞳を輝かせながら、俺を見る真を愛おしく感じる。
窓の外を見ると日が暮れ始めていた。
「そろそろ帰るか。」
「え、もうそんな時間かー、もう少し教えてもらいたかったんだけどな」
「また、明日にな」
夕陽に照らされながら真と帰路に着く。楽しそうに笑いながら他愛もない話をする真。光を浴びて真の髪の毛がきらきらと光る。なぜだか、この世界に真だけが存在しているように思えた。
ずっとこうしていたいけれど、それは叶わないだろう。俺たちはこれから、進路を決めて、高校を卒業して、大学に行ったり、就職したり、俺たちの世界はもっと広がっていく。俺たちは、ずっと一緒にはいられない。この世界には、終わらないものなどなく、それは俺たちだって同じだ。だからこそ、今この瞬間を、暖かなこの空間を、目の前にいる真の春のように暖かな笑顔を、少しでも多く目に焼き付けておきたいと思う。
願わくばいつまでもあなたに光が射しますように。
春陽 愛楽 @airarara
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