第35話 素敵な居場所のエピローグ
宿にチェックインを済ませたサクラノさんは、村を色々と見て回っていた。とはいえ狭い村なので、すぐに見るものがなくなって宿に戻ってきた。彼女は「のどかで良いところですね」と言ってくれて、それは素直に嬉しいよ。嬉しいけど、この子……僕を殺しに来たわけじゃないよね?
サクラノさんは暇を潰したいらしく、僕に積極的に絡んでくる。宿の前でコボルトたちがリバーシで遊んでいたのが気になっていたらしく、彼女もリバーシで遊びたいみたいだ。やれやれ、どうしたものかな?
「んー今はカウンターから離れるわけにはいきませんからねー」
なんて、やんわり断ろうかと思っていたら話を聞いたケーモさんが「店番代わりますよー」って気を利かせてくれる。うーん、逃げ場がないねー。仕方ない……やるか! 相手が主人公だからって、びびっていても仕方ないしな!
「……それじゃ、やりましょうか!」
「やりましょう!」
宿の外に出ると、クロとシロがリバーシで遊んでいた。その様子をジャムが腕を組んで眺めている。皆、楽しそうだね。僕も混ぜてよー。
「どっちが勝ってるの?」
盤面を覗きながら聞いてみる。見た感じ、シロが全ての角をとっている。おぉー、やるなあ。
『シロっちが優勢だよー。もうすぐ決着つくんじゃね?』
「ほうほう」
ジャムに相槌を打っていると、どこからともなくミーミーがやって来た。撫でてほしそうだったから、たくさん撫でてやる。わしゃわしゃ! もふもふ! わしゃわしゃー! お前の毛並みは気持ち良いねー!
ミーミーの相手をしているうちに、クロとシロの決着がついた。勝ったのはシロ! おーおめでと!
『クソッ負けた。つええなあ』
『し、勝負ありっす……! やった!』
悔しがるクロの前で、シロとジャムがハイタッチをしている。嬉しそうだねえ。なぜか僕も嬉しくなっちゃう。シロたちとは、よく一緒に物を作ったりするし、どうしても贔屓しちゃうのかもねー。
クロたちに席を代わってもらって、僕はサクラノさんと対面する。
「じゃ、サクラノさん。僕が先行をもらっても良いかな?」
「はい、どうぞー」
「「よろしくお願いします」」
サクラノさんとゲームを始める。僕が先に打ち、彼女が後から打つ。ゲームを続けながら彼女は「ジョーさん、リバーシ強いでしょう?」と聞いてくる。ま、それなりにね。自信はあるよ。僕に勝てるかなー?
「皆とかなり遊んでますからねー。リバーシなら、僕はそこらの相手には負けませんよ」
「……ジョーさんは皆さんに慕われてますよね。魔物さんたちの言葉は分かりませんけど雰囲気で分かります」
「分かりますか?」
「ええ、私は人を見る目には自信があるので!」
サクラノさんは楽しそうに笑う。可愛らしい表情だね。褒めてもらって嬉しいけれど、でも手加減はしないぞー!
リバーシは一進一退で進んでいく。まあ、そういうゲームだっていうのはあるけど、それにしても、僕と彼女の実力は同じくらいじゃないだろうか。なかなか角を取らせてくれない。僕も角は与えないんだけどね。やるじゃない! 序盤、中盤、終盤、隙がないね。でも僕は負けないよ!
盤面が全て埋まり、その結果……僕が僅差で勝利!
よっし! 僕の勝ちだ! どんなもんだい!
サクラノさんは悔しそうに盤面を眺めている。はははっ気分が良いもんだね。どんなゲームでだって相手を任すのは爽快だよ!
「う、ううー! もう一回! もう一回お願いします! ジョーさん!」
「ふっふっふー! 良いですよ。何回でも僕が勝ちますけどー」
「言いましたね。次は絶対に勝ちますから!」
というわけで、もう一戦。周りのコボルトたちが続々と集まってくる。皆が注目する中、接戦の末に再び僕が勝利した。有言実行! あそこまで言って負けるのは恥ずかしいからね。ふう……無事に勝ててよかったあ。
「負けましたあ。ほんとに強いですねジョーさん」
「いやあ、なんのなんの」
「「ありがとうございました」」
村の皆が集まる中、二連勝できたのは、めちゃくちゃ気持ち良い! 僕とサクラノさんの試合が終わり、そこへ「今度は俺が」と入ってきたのはジンだ。あの、兄さん。暇なので? それは、ここに居る皆にも、僕自信にも言えるのだけれど、まあ皆が楽しそうなら良いか!
僕が観戦している間、ジンは僕の自慢ばかりしていた。前々から彼は僕を評価していたけど、ダークとの一件があってから、もはやブラコン……兄馬鹿ってくらいに僕のことを自慢するようになった。むず痒いですよ。兄さん。
ジンは、僕と一緒に、皆から認められようと頑張っている節があった。のだけれど、最近はそういう感情を吹っ切れたというか、純粋に自慢の弟を紹介したがっているように感じられる。自慢の弟か……照れるじゃないか。ま、悪い気持ちはしないかな。
その後も、サクラノさんと色んな人が、代わる代わる勝負していた。楽しい時間はゆったりと進んでいき、日は沈んで、また新しい朝が来る。サクラノさんはウィードの町へ向かうということで、チェックアウトの後、僕は宿の前で彼女を見送る。最初は驚いたし、ちょっと怖かったけど、彼女は楽しい人だった。また、村に来てほしいよ。
「サクラノさん。フェンリル村はどうでした?」
そう聞くと彼女は楽しそうに笑う。裏表の無さそうな、素敵な笑顔。見ていて、こっちも楽しくなってくる。そういう素敵な力が彼女にはあるんだろうね。
「ええ、素敵な村でした。また、来たいと思うくらいに」
「次来る時は、もっと素敵になってますよ。ぜひ、もう一度お越しください」
「一度と言わず、二度でも三度でも、いつかまた」
サクラノさんは僕を見つめていた。顔に何かついてる? 見つめられると、ちょっと怖い。いや、照れの感情のほうが大きいかな?
「ジョーさん」
「はい、何でしょう」
「あなたはここの皆さんを愛していますし、ここの皆さんもあなたを愛しています。私には分かりますよ。ここも、ここの皆さんも全て素敵だって」
「へへ……嬉しいこと言ってくれますね」
「お世辞で言ってるわけじゃないですよ。私が思ったままを言っているんですから!」
凄く嬉しい。僕だけじゃなく、皆と、この場所を素敵だと言ってもらえたのが、嬉しくてたまらない。彼女が何度でも訪れたくなってくれるような、そんな場所であり続けてほしい。そのために、僕も頑張らないと!
「じゃあ……また!」
「はい、また……会いましょう!」
僕とサクラノさんはお互いに手を振って別れた。彼女の出発を、この場所に居合わせた皆が見送る。結局、僕とサクラノさんがお互いの身の上を明かすことはなかった。もしかしたら、彼女は転生者ではないという可能性もないわけではない。まあ、十中八九は転生者で主人公ポジションだと思うけど、別にそれを確かめる必要はないさ。村で素敵な出会いがあって、爽やかな別れがあった。それだけで良い。それだけで嬉しいよ。
青空の下、僕はのんびり、伸びをする。これからもこの世界で色んな出会いがあるんだろうね。良い思い出になるような、そんな出会いをたくさんしたい。
村はもっと発展していくだろうし、交易路も近い未来に完成すると思う。僕たちの未来は明るい。晴れやかな気分で草原を吹き抜ける風を感じた。
数日後、村に手紙が届いた。差出人を確認するとジンと関わりのある、とても偉い方からだった。その内容を確認すると、僕たちがこの場所を仕切っていくことを支持する内容だった。兄さん、僕たちはブラッド家から認められずとも、たくさん認められてますよ。
今日もフェンリル村には爽やかな風が吹いている。さあ、これからも皆との日々を大切にしていこう!
悪役貴族は魔物使い~死亡ルートは嫌なので実家から離れて平和に暮らしたい。外れジョブの力を使って、もふもふたちと辺境開拓スローライフ~ あげあげぱん @ageage2023
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