第7話 エピローグ

「神父様」

 背後から呼掛けられて、新堂は振り返った。

「琴音──。躓かないように気を付けて」

 慌てて駆け寄り、琴音の手を取る。

 彼女は二十歳となった。

 元々可愛らしい顔立ちの少女だったが、成人して増々美しくなり、近所でも評判だ。

 そんな若くて美しい女性を娶るとはと、当初はやっかみもあったが、今では皆が、教会の再建と同じくらいに祝福してくれている。

「ここ、ぽこぽこと小さなコブが沢山あるわよね。大きな石も乗ってて……なんだかお墓みたいだわ」

「よく分かったね」

 新堂はふわりと優しい笑みを浮かべると、懐かしそうに目を細めた。

「幼い頃、よく双子の兄と一緒に、お墓を作って遊んだんだ。アヴェ・マリア歌いながらね」

「これ、やっぱりお墓なの?」

 琴音が眉間に皺を寄せる。

 新堂はくすくすと笑った。

「子供の遊びだよ」

 

 そう。遊びだ。

 最初は虫だったかな。

 次は小鳥。

 それから猫や犬も埋まってる。

 死体がない時は作ったな。

 毒団子にロープ。そしてナイフ。

 今日はどれを使いましょうか。

 

 要領の悪い兄はいつも母に叱られ、悪魔の子だと罵られて、お仕置き部屋に入れられていた。

 

 ──どうしてばれたのかな? 文哉。

 

 拓哉の顔ったらなかったな。

 そう、僕が教えてやったんだよ。

 しかしもうすべては闇の中だ。

 火事に紛れて殺してやろうと思ったが、勝手に死んでくれた。


「あっ」

「琴音!」

 琴音は躓きかけ、しかし、直ぐに手を伸ばした新堂の胸の中に転がり込んだ。

 捲れ上がった袖から新堂の腕がのぞく。

 そこには八年前、双子の兄・拓哉にナイフで切り付けられた傷が残っていた。

「大丈夫?」

「はい。ごめんなさい」

 琴音は新堂を見上げると、しゅんとした。

 そんな琴音の髪を優しく撫でると、新堂はそっと琴音に口づける。

 唇が離れると、琴音は恥ずかしそうに新堂の胸に顔を埋めた。

 そんな琴音を抱きしめると、新堂は琴音に囁いた。

「無理をしないで。安定期とは言え、油断は出来ないからね?」

「はい」

「いい子だ。忘れちゃいけないよ。君のお腹には、2つの命が宿ってるのだから──」


 

 そう。

 選ばれた遺伝子を持ち、新たな物語を紡ぐ。



 可愛い悪魔の子供たちが──。




 ── 了 ──

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審判【完結済】 桜坂詠恋 @e_ousaka

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