5話「風の刃は四肢をも切り落とす」

 国防軍の連中が自らの手で護送車を破壊していくと結果として、俺の魔力の流れを封じていた特殊な電波の流れが止まることとなり魔力回路が息を吹き返した。

 

「全身から魔力が漲るこの感じ……うむ、悪くはないな。寧ろ心地よいという感覚すらある。やはり魔術師にとって魔力とは永遠に切り離すことのできない仲ということか」


 右手を広げては握り締めるという行為を繰り返して体内を循環していく魔力を明確に認識する事が出来ると、そのまま今度は右手を軍人たちの方へと向けて手のひらに魔力を集約させると直径30センチほどの風のみで形成された球体を生み出して放出する。


「くっ! 人造人間から魔法攻撃が来るぞ!」

「全員備えろ!」

「はっ! たかが風の塊ごとき俺が吹き飛ばしてやるぜ!」


 すると軍人たちは魔法攻撃というのに対して警戒心を高まらせると、一斉に攻撃を迎撃する体制を整えて受けて立つ姿勢を強く見せてきた。


「ふっ、そう警戒してないでくれよ。こっちはまだ本調子ではないのだからな」


 けれどこれは単純な腕試しという行為そのものであり、魔力回路が復活した際の練習とでも言えば差し支えはないだろう。しかしこんな単純な魔法は些か花がないと思われるかも知れないが、あまり連中を相手にして自らの手のうちを見せたくないという気持ちもあるのだ。


 そして手のひらから放出された風の球体が勢いよく軍人達のもとへと一直線に進んでいくと、


「攻撃目標を風の塊へと変更した方がいいぞ!」

「おらおら! 俺の風魔法の方が数千倍は強いぜぇぇっ!」

「……いや待て。なんだかあの魔法様子がおかしくないか?」


 連中は何か異様な雰囲気を察知したのか攻撃を俺から切り替えるような言動が見受けられた。

 

「ほう、流石は国防軍だな。訓練で養われた勘は健在ということか。しかしどうする? お前たちにこれを回避する術はあるのか?」


 軍人たちの直感は遠からずも一応当たりはしていて、それに対して賛辞の拍手を送ると共に指を鳴らす。


 そうすると球体は一気に肥大化して風船が割れるような音を周囲に響かせて爆発すると、そこから無数の風の刃が飛散するように至る方へと飛んでいき連中を次々と切り裂いていく。

 そう、まるでそれは現代に蘇りし鎌鼬のようにだ。


「うあぁぁぁぁ!?」

「ぐあぁぁつ!?」

「があぁあぁあっ!?」


 それから風の刃を諸に受けた男や女たちの悲鳴が所狭しと聞こえてくるのだが、その声を聞くにどうやら魔力量の調整を少しだけ間違えたようで申し訳ない。


 やはり魔力を封じられていたが故に若干ではあるが感覚がまだ鈍化しているようだ。

 本来ならば絣傷程度の怪我を負わせるつもりが目の前には、腕や足を切断された軍人たちが地面に這い蹲る姿が多く見受けられるのだ。


 まあそれでも別に命を失うということはなさそうで、俺からしてみれば死ななければ結果はどうでもいい。だがこれはこれで逆に好都合とも言えるだろう。


 幾ら訓練された人間だとしても所詮は心を持つ生き物だ。

 ならば腕や足が無くなりさえすれば多少なりとも戦意を喪失させる事は可能である。


「い”や”ぁ”あ”あ”ぁ”! 私の腕がぁぁぁあ!」


 一人の女が血まみれになりながら自身の切り落とされた腕を見て発狂に近い叫び声を上げると、恐怖というのは電波するよう連鎖していき瞬く間に周りからは男女混合の悲痛な声が鳴り渡る。


 しかしただの風魔法で部隊の半分が一気に撃破できるということは、この国は他国の精鋭部隊に攻め込まれたら秒で鎮圧されるのではないだろうか。

 些か不安が残るところではあるが、それは今の俺には関係のない事だとも言える。


 まあそれでもこの部隊はただの護送部隊であることから、他の戦闘部隊と比べると天と地のさほどの実力差があるだろうけどな。

 だがそう考えると同じ物差しで比較すること自体が可哀想なことなのかも知れない。


 それと付け加えて言うのであれば俺は他の連中と違い、MADを使用しなくとも魔法の行使が可能なのだ。これは人造人間ゆえに特別という……訳でもないのだが何故か生まれながらに全ての属性と発動術式を飛ばして魔法が扱えるのだ。


 これは流石に研究所の職員ですらも頭を抱えていたが、答えは未だにでていなくて説明はできない。あとは補足を付け足すのであれば発動術式とはMAD側が自動で演算処理を行い、魔法を即座に発動出来る状態にまでする機能のことだ。


 つまりMAD無しでは魔術師はただの一般人と同等の価値ということである。

 

「き、貴様! 自分が一体なにをしているのか理解しているのか! これは立派な違反行為だぞ!」


 すると少尉の男が今更ながらに怒りを孕んだ声で何かを言い出していたが、どうやらその態度を見るに風の刃からは運良く逃れることができたらしい。こういう男は悪運が強いという相場があるのだが……いやはや現実で目の当たりにできるとはな。


「ああ、当然理解しているとも」


 そう冷静に返事をすると共にこの場を早々に立ち去るべく足を進ませ始める。

 全ては自由を得るために必要なことであるのだ。

 だがそうなると背後からは男がまだ何か言いたいことがあるらしく、


「こんなことをして唯で済むと思っているのか! お前の仲間がどうなるか分かってやってんだろうなぁ!?」


 まるで怒声を撒き散らすようにして脅しとも捉えられる言葉を口にしていた。


「……ふっ、そんなことは些細な問題ですらない。ゆえにそれは脅しの言葉とはならないぞ?」


 男の荒んだ口調とは対照的に落ち着いた声で全てを否定していくと事実、俺が軍人を負傷させたことで同胞達に迷惑が掛かることは何一つない。


 何故ならここを離れたら日本政府管轄の魔導省へと向かい、そこで話し合いという名の交渉を予定しているからである。

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人類史上もっとも最強で厄災の魔術師~自由気ままに魔法学院にて青春を謳歌する~ R666 @R666

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