4話「魔法の封印は今解かれる」

 国防軍所属の女軍人に新の男女平等主義という名のもとにおいて制裁を下すと、彼女は気絶したらしくその場から動く素振りは一切見せず、そのまま手の枷を外す為に電子カードキーを拝借させて頂いた。


 そして借りた電子カードキーで腕の拘束具を解除すると漸く余計な物が全て体から離れたとして身体や気分が軽やかなものへと変わるのだが、それでもこれだけ暴れると当然の如く騒ぎに気が付いた他の軍人達が次々と周囲を取り囲むようにして現れては全員がMADを起動させていた。


「全隊員に告ぐ! 狙いを人造人間に定めよ! これは警告攻撃である!」


 四方八方を軍人達が覆い尽くすと全員がMADを俺へと向けて今にも魔法攻撃を仕掛けてきそうな雰囲気が漂うが、どうやら向こうは生易しいようで警告攻撃から始めてくれるようである。


 つまり攻撃は行うが致命傷を与える気はないということだ。まったく随分と手抜きなことをしてくれると思うが、相手からしてみれば俺は人類悪そのも故に迂闊に戦闘行為が取れないのだろう。

 

「全員隊員! 警告攻撃を開始せよ!」


 軍人達の準備が整えられたのか腕を大きく振り上げて一人の男が命令を下すと、連中は一斉にMADから多種多様な魔法を発動させて攻撃を仕掛けてきたのだが、それは見方によれば中々どうして色鮮やかなもので美しいと思えてしまう。


 まさにそれは夜の大地に咲く色とりどりの無数の花々のように。

 俺に芸術の心得は皆無だと考えていたのだが、これはこれで新たな自分を知ることができたとして、国防軍の連中には感謝の念を捧げておかねばならないだろうな。


 ――だがしかし警告の意味を込めた魔法攻撃はやはりその程度の価値しかなく、軍人達から放たれた魔法は足元付近で着弾したり良くて耳を掠めたりという感じであり、あからさまに当てる気がない攻撃というのは普通にこちら側としては不愉快でもある。


「はっ! 了解しました!」


 けれど先程全員に命令を下していた男が無線で誰かと連絡を取り始めると、なにかしらの指令を無線越しで受けたのか声に張りを持たせて返事をしていた。

 そのあと男は矢継ぎ早に右手を唐突に上げると、


「半殺しならば可能だと上から許可が下りた! 全員直ちに人造人間を鎮圧せよ! 仲間の血を流させたことを後悔させてやれ!」


 そんな物騒な言葉を口にしながら鬼気迫る表情で全員に再度命令を下していた。

 だがそうなると十中八九の確率で無線の相手は彼の上官なのだろうが、国防軍の幹部共は等々俺を捕縛できるならば手段を選ばない気と見える。しかも半殺しというのが中々に賢い判断だと言えるな。


「だがまあ見るからにあの男が今回俺を護送する為だけに組まれた編成の隊長なのだろうな」


 そう呟きながら全員に命令を下していた男へと視線を向けると、奴は見るからに他の連中とは違い身に付けている勲章の数が多い上に、階級が少尉であることからまず間違いないだろう。


 そして少尉の階級を有する者が上からの命令を部下たちに伝えたことで、今度は警告ではなく致命傷を与える気満々の魔法攻撃が再度一斉に放たれる。しかし今度の魔法は明確に俺を半殺しにするという意志のもと放たれていることから、その美しさは先程の比ではなくやはり戦いというのはこうでなくてはならないだろう。


「ははっ、これはこれで楽しいかも知れんなぁ」


 数多の属性が絡み合う魔法が直ぐ目の前にまで迫るが、当然のように焦りや恐怖は微塵も感じられない。というよりも寧ろ気分が向上していく一方であり、五体が解放された自分に死角なんぞ皆無の状態である。ゆえに周囲から迫り来る魔法攻撃を躱すことは造作もないことだ。


「くそっ! 当たらねえぞ!」

「なにがどうなってやがる!? これだけの魔法を全て紙一重で躱しているというのか!?」


 明確に半殺しという意志のもとに放つ魔法攻撃が全て、いとも容易く避けられていることに軍人達は焦りの声を漏らして動揺している様子だ。


 だがそれも仕方のないことであり、体の自由を得られたことで移動に制限はなく、死角からの攻撃すらも気配のみで察知することが出来ると、まるでダンスを踊るかのように避けることが可能なのだ。


「チッうるさいわよ! しっかりと狙いなさいよ! ここで捕獲できなければ日本は終わのよ!」


 すると男達の言葉に一人の女性隊員が怒りを顕にすると、確かにここで俺という人造人間を捕獲できなければ日本は消し飛ぶことになるかも知れない。しかしそれはあくまでもやろうと思えば可能というだけで、今の気持ち的にそんな無駄な行為はしたくないのだ。


「やれやれ。無駄話をするのは別に構わないが、自分達が今なにを攻撃しているかぐらいは気づいた方がいいぞ?」


 ふとそんなことを頭の片隅で考えつつも人差し指を立たせて、軍人達に忠告という名の言葉を投げ掛けると一旦周りを見るように促した。

 すると軍人達は魔法攻撃を維持しながらも横目で周囲へと視線を向けると、


「な、なにっ!? これはどういうことだ!?」


 という声を誰かが口にすると同時に漸く事態の状況に気がついたようである。


 そう、実は攻撃を躱している振りをして的確に護送車へと魔法を着弾させるように誘導していたのだ。それは偏に最後の厄介物でもある魔法を封じる電波を無力化する為であり、連中は自らの手で車を破壊しては不利な状況を着実に作りあげていたということだ。


 しかしその事実に今更気が付いたとしても下手に攻撃の手を緩めることはできず、更に護送車へと魔法が次々に命中していくとやがて数台の車からは黒煙や火が立ち上がり始めて、その数秒に雷が落ちるが如く轟音を響かせながら護送車が爆発して連続で大破していく。


「ふむ、徐々にだが魔力が体内を循環していくのが分かる。どうやら大半の電波が壊れて無力化されたようだな」


 護送車の半分以上が炎上大破したことで次第に肌から蕁麻疹のようなものが消えていくと、それと同時に魔力回路が息を吹き返したように全身の末端へと魔力を流していく感覚が鮮明に伝わる。

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