第32話・待ち人来る

 そして、待ち人来たるであった。

 ウニーカ・レーテでは、ログインするときキャラクターのポップエリアが街ごとに決められている。レンが居たのはその近くであったため、奏とはログイン後すぐに出会うことができたのであった。


「あ、レンさん!」


 レンのキャラクターはリアルの自分のイメージから作られている。そう、美少女は美少女アバターを作るときにも有利なのだ。

 奏のキャラクターは白銀の鎧を纏う大柄な騎士であった。デバグの都合上、今は死ににくい装備を着用しているのである。


「あ、えっと……メイさん! こんにちは!」


 奏のゲーム内キャラクターの名前はメイである。レンは急いでそっちで呼んだのであった。


「はい! ところで今は放送中ですか?」


 奏……改メイはたずねる。


「はい。問題あれば、放送枠閉じますけど……」


 レンはどっちがいいのかわからなかった。デバグ作業を映すほうがいいのか、映さないほうがいいのか。


「あ、そのまま放送しててくださいね! 代表に、ウニーカ・レーテのデバグは楽しいことを宣伝しろって言われてますから!」


 大柄な騎士から可愛らしいお姉さんの声がする光景は少しシュールだった。しかしそんなことは関係ないほどレンの心臓は高鳴っていた。なにせ、彼女になってくれるかもしれない人と一緒にいるのだ。


「じゃあ、このまま行きましょうか!」


 そう言うと、メイは歩き出した。

 レンはそれについていく。


「はい!」


 と返事をして……。


「基本的にこのゲームの新規生成エリアってバグが起こってることはこれまでなかったんです。でも、AIが誤作動を起こす危険はいつでもあるからデバグはやめられないって感じですね。基本的には、手分けして長時間一箇所のエリアで遊ぶだけです。ほとんど遊んでるんですよ、私達」


 そう、ウニーカ・レーテのデバッガーは仕事をしているという感覚が無い。超高レベルキャラクターで遊んでいるという印象だ。

 ただし、レベルが高いとはいえどんなエリアでも死の危険をなくせないのがウニーカ・レーテというゲームである。逆に言えば、理論上Lv1でこのフォーセルの敵を倒すこともできる。ただし理論上の話で、それはレンでも厳しい。流石に敏捷が足りなすぎるのだ、


「じゃあ、僕は今日、メイさんと遊べばいいですか?」


 そんな話をしているうちにレンたちは街の外へ出ていた。


「そんな感じです! フォーセル産の武器はありますか?」


 メイはレンがこの場所をちゃんと攻略できる準備があるかを心配した。


「もちろん……へぶっ!」


 しかし、それを怠るレンでもなければ、ポンコツを怠るレンでもない。フォーセルの街の外は街道でもない限り、足場が不安定だ。会話に気を取られていたレンは足元のクリスタルにつまづき、HPを減らしたのであった。


「ふふっ、本当にここまで来るような人なんですか!?」


 メイは少し笑ってしまった。だってきれいに顔面から地面にダイブしたのだ。


「いてて……本当はそこそこプレイには自信あるんですけどね、会話に気を取られちゃいまして……」


 正直にレンは言った。頭をポリポリとかきながら。

 内心では、使えるなと思っていた。この勢いの転倒だとおそらく死神の大鎌を使っていればHPを1に調整できると。


「じゃあ、これからは気をつけてくださいね。戦闘関係ないところで死んじゃうのが一番格好悪いですから!」


 メイはレンの心に致命攻撃を決めていた。


「うぁ……はい……」


 レンはこれまでそんな死に方を何回もしてきたのだ。所謂一番格好悪い死に方である。


「ちなみに、サーディルではどんなことしたんですか?」


 エネミーが現れるのはもう少し先だ。二人は雑談しながら進んでいく。メイの移動速度に合わせてゆっくりと。


「亡霊騎士でちょっとレベリングして、レイドボス倒しましたよ!」


 そう、それが規格外なのである。


「え!? レイドボスってまだ参加できるプレイヤー少ないですよね?」


 サーディルでレイドボスに参加できるプレイヤーなどレンが居なくなってしまったからエビるだけである。


「なので、NPC入れて三人だけで討伐したんですよ! それで踏破印もらった感じです!」


 踏破印を貰う方法はいくつかある。レイドボスを倒すのはその中の一つの方法だ。他にもフォーセルのデバグが終わると、フォーセルからスカウトが来る場合もある。その場合、サーディルでは踏破印がもらえる。


「さ!? 三人ですか!? 三人で倒せるバランスじゃないはずなんですけどね……」


 レイドボスは基本的に10人以上の大型パーティー……レイドが必要となる。それを三人で倒すだけでも十分人外なのだ。


「あはは……それなりに上手いですから! 戦闘は任せてください!」


 今はレンの主力武器の大鎌ではなくレイピアだ。それでもレンは決して弱かったりしない。


「じゃあ、敵が出てきたらお願いします」


 メイは若干引きぎみだった。自分もプレイしたからわかる、サーディルのレイドボスがいかに強いのか……。


「任せてください!」


 しかしその表情は鎧に隠れて見えないのであった。

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その男の娘配信者、プロゲーマーなのに芸人と呼ばれる―世界最強プレイヤーに笑いの神は微笑む― 本埜 詩織 @nnge_mer2

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