第31話・切り抜き

 レンはゲーム内で視聴者とふれあいをしながら奏を待っていた。


レンちゃんで抜き隊:切り抜き第一弾アップロードしました。


 切り抜き師も収益化はまだで、レンも収益化はまだだった。要するに二人はこれから長い付き合いになるのである。


「あ、はーい。見てみますね!」


 ウニーカ・レーテのゲーム内ではブラウザを立ち上げることができる。動画サイトへのアクセスもそこから可能だ。

 レンは自分の切り抜きを視聴者と同時視聴することにした。


「ええっと……レンちゃんで抜き隊……っと!」


 検索すると、すぐにそのチャンネルが出てきて、切り抜き動画が一本だけ上がっている。

 レンはそれをクリックして再生した。

 かっこいいロックな曲調に合わせて戦う自分の姿がまるでPVのように映し出された。それはどっちかと言うと超絶プレイをしている所で、レンは胸をなでおろす。しかし、次の瞬間様相が変わった。

 レイドボス戦後のパタリと倒れるシーンが映し出され、画面が暗くなってRENDIEDと赤文字で書かれているのだ。


「ここ抜かないでっていったじゃあああん!」


 そう、超絶プレイとポンコツ死亡シーンの温度差で笑わせるのはレンの切り抜きなら当たり前だ。むしろそこがレンの魅力である。


スノウ:いやあそこ抜くなとか無理よ

レンちゃんで抜き隊:ですです、あぁ言うのがレンさんの魅力ですもん!

エビる:俺らの世界一位は戦闘とは無関係なポンコツで死ぬ

おるとロス:超絶プレイは本気で上手いのにそこがなぁ面白いよね

アルバこぁ:さすが芸人


「芸人じゃないよ!」


 そう、レンの自認は激ウマプレイヤーなのである。しかし、笑いの神が上手いだけのレンを許してくれない。


『その旅は武器も持たない小さき者から始まった』


 今度はケルト調の音楽に変わり、そしてナレーションが入った。そう、切り抜き動画というより、レンのPVのような動画になっていたのだ。

 それ自体がクォリティが高く、一本の動画としての完成度を誇っていた。


「え!? このナレーション誰の声!?」


 レンが驚くように、それはまるでプロのナレーターの声だったのだ。


レンちゃんで抜き隊:あ、自分です

ネギ侍:才能が無駄遣いされてる

カラノ・ボトル:凝ってるぅ


 驚くほど趣向を凝らした切り抜き動画は疾走感に溢れ、壮大な旅の幕開けを予感させるだけ予感させた。

 動画の中のレンは、狼を飛び越え、華麗に相打ちを誘った。そして、崖から落ちていった。


スノウ:思えばここから芸人だったwwww

エビる:寸前までめっちゃ上手かったのにwwww

アリ酢:え? 草……


 そして浮かび上がるRENDIEDの文字。いちいち死亡シーンに、死亡したことをわかりやすいように強調している。


「やめてえええええ! こんなのって無いよ! 僕、ちゃんと上手いプレイヤーなのに!!」


おるとロス:上手いプレイヤーではある。ただし、笑いの神に愛されてる

アルバこぁ:いつも予想外の死に方するんだよなぁwwww


 切り抜き動画同時視聴は草が生え散らかした。

 続いてレンが狼に追いかけられるシーンが映し出される。敵の攻撃をキャンセルするたびにスローモーションになり、まるでアニメでも見ているかのようだった。

 そうレンちゃんで抜き隊は、かなり実力派の動画編集者だったのである。

 そして、群狼:森の主戦。それも武器を持っていない状態で行われた、レンの初期の戦いである。

 華麗にすり抜け、距離を取ると、カット編集が入った。そして次のシーンはレンがよそ見をしていて木に激突しているシーンだった。


『へぶっ!』

「なんでこんなところまで抜くのおおおお! カッコ悪いじゃん! かっこいい所抜いてよ!!!」


 レンは不満だった。しかし視聴者は……。


†黒酢†:これこれ、これが我らのレンちゃん

スノウ:このPONがなきゃレンちゃんじゃない!

レンちゃんで抜き隊:魅力的ですよね~


 そう、レンの魅力とはそのギャップにあると思っているのだ。普段は自分たちの手の届かないトッププレイヤー。しかし戦闘と関係ない所でポンコツ具合をさらす、可愛らしさ親しみやすさ。そういったところがレンの魅力だった。

 切り抜きポイントはいっぱいあった。

 それこそ無数に。

 次のシーンは自分で投げた小石にあたって亡霊騎士に首を斬られるシーンだった。


「もおおおおお! なんでこんなのばっかりいいい!」


 それも笑いの神が微笑んだかのように、普通はあり得ない死に方をしたシーンだった。


アルバこぁ:芸人性にもどんどん磨きがかかっていきますなぁ

おるとロス:この先どんな笑いの神様のほほえみがあることやら。


 笑いの神はいつもニタニタと笑みを浮かべながらレンを見ている。世界一位なのにいらぬものに目をツケられてしまったものである。


「もおおおお! こんなのばっかり切り抜いて! かっこいいところも抜いてよ!」


 レンはそのじつ、美味しいと思っていた。この切り抜きは間違いなく視聴者の目に留まるだろうと……。そして、願わくばウニーカ・レーテをプレイしたことない人にも見て欲しいと思っていた。


レンちゃんで抜き隊:レンちゃんはいつも撮れ高がいっぱいなんですよね。抜いてて楽しいです!


「ダメだ、僕は変な切り抜き師に目をつけられちまった……」


 そう言いながらも、切り抜きを同時視聴しながらレンは奏を待ち続けたのである。

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