第30話・帰路
一方、その頃の榊と奏はニューラゲーム社に帰る最中だった。
「どうだね? 君の色仕掛けは……?」
榊はつばを飲み、緊張しながら尋ねる。そう、ウニーカ・レーテは社運をかけたゲームだ。AI開発費にも多量の資金を投入したし、声優などにもかなりの額を払っている。そのせいで今、ニューラゲームは貧乏だった……。
「最初は無理だと思ったんですけど、全然イケそうです」
そう、奏の色仕掛けは廉に刺さっていた。なにせ彼女いない歴イコール年齢の二十代の男なのだから。
そんなモノ、女性からしたらちょろいものである。
「そうか……。良かった……。で、君自身はどうなのかね? 彼との交際には前向きか?」
榊としては社員にそこまで無理は言いたくないのである。できれば交際に前向きな女性を廉にあてがいたい。
「前向きですよ。あんなかわいい子ですし、それに趣味も合います。正直なんでこれまで交際相手が居なかったのかですね……」
それは廉の場合、男性に言い寄られる事が多かったからである。なにせ美少女にしか見えないのであるから。
「確かに、あの外見とは予想外だった」
そう榊も、プロゲーマーとして雇う相手の外見がアレだとは思わなかったのである。しかし、榊は同時に胸をなでおろしていた。
「本当ですね……」
奏でが言って、一拍時間が流れた。
「しかし、プロゲーマーとの契約はこれでいいのだろうか。そもそもゲーム会社が直接雇うものなのだろうか……」
榊はプロゲーマーというものの存在は知っていた。だが、その契約面などの裏側は全く理解していなかった。これまでEスポーツ業界に関連してこなかったツケである。
「どうなんでしょうね……」
榊が知らなければ当然奏も知らなかった。
「不安になってきた……。年俸も安いし、これは将来的に契約更新をして、年俸は上げるべきだな……」
そう年俸500万はプロゲーマーとしては安すぎる。それは榊も理解していたから、これから廉の年俸は上げられる予定だ。
「廉さんって、そんなに伸びるんですか?」
奏はまだそこまで廉の配信を見ていなかった。
「伸びるとも。我が社の広告塔になること間違いなしだ! ウニーカ・レーテに興味がなかろうが、あの神プレイとポンコツな死に様のギャップはストリーマー界で世界を狙える!」
そう、廉の放送は感心する部分も、笑える部分もあるのだ。それは間違いなくスター性だ。榊は廉の可能性を強く感じていた。
「そうなんですか……じゃあ、動画サイトの方でも収益化とか狙えますね」
奏にとって廉が優良物件であることが決定した。なにせ、可愛い上に稼いでくれる旦那に成長するのだ。
お互い二十代。まだまだ生活が苦しいお年頃である。
「するだろうな。その際、かなりの金額を稼ぎ出すと思っている。いや、そうでなくては困る。彼が我が社の広告塔となってくれねば、我が社は苦境に立たされる」
そのくらい、資産を削ってなんとか作ったのがウニーカ・レーテなのだ。
そもそも、無限に続くゲームなどウニーカ・レーテが初だ。そして、自由度の高さもウニーカ・レーテの売りである。
「そんなに、彼に期待しているんですね……」
奏は榊の本気を知った。そう、廉はそのくらいニューラゲームに求められている。もはや、何があってもニューラゲームが廉を手放すわけはないのだ。
「そうだとも、彼は我が社の希望だ。そもそもTVCMもほとんど打てていないのだ。ストリーマーは大切だ」
そう、ニューラゲームは資産を削りすぎた。そのせいで、広告活動がほとんど行えていない。その中での廉の放送開始はまさに天の助けに思えた。
「ちなみに、今日デバグを一緒にやってもらう約束をしました」
奏はもう、廉を自分の恋人にしてしまえると思っている。
「何!? 奏くん! でかした! それをストリーミングしてもらうのも大切かもしれない! なにせ、デバッガーも不足してる……」
そう、廉のせいでデバグ作業が大変なのだ。しかし、それでも廉という超特級プレイヤーのデータも逃せない。
「やっぱり正しい判断でしたか……。それから、家に今度遊びに行く約束もしてますよ」
奏は、榊にどれほど廉を惹きつけられているかをアピールしていた。それが、もしかしたら給料の話につながるかもしれなかったから。
「更にでかした! その調子で男女の仲を深めてくれたまえ」
これはニューラゲームの社内恋愛になる。ニューラゲームは社内恋愛自由だ。なぜなら、そもそも趣味の合う同士が集まってできたような会社だからだ。
「そこまで廉さんに期待しているなら、今後も遊んでくれるといいですね」
「うむ、可能な限り次の作品ができるまでの間は少なくとも遊んでもらわねば……」
ニューラゲームという会社はもともとはAIを作る会社の一部だった。その中で趣味の合う一部の人間がそのノウハウを持った状態で独立し、ゲーム会社となった歴史を持つ。
だから、ウニーカ・レーテの実態はAIだ。ゲームを作るAIをニューラゲームが開発し、そのAIが作ったゲームをプレイヤーは遊んでいるのだ。これは普通にゲームを作るよりもとても難しいことだった……。
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