第29話・フォーセル

 レンはフォーセルの街にたどり着いた。この間わずか数分である。よって、奏もまだニューラゲーム本社に戻っていない頃だ。

 レンのやるべきことは、まずは冒険者ギルドでの登録だった。

 フォーセルにはフォーセルの受付嬢が居る。レンはそこのカウンターに行ったのだった。


「こんにちは、本日はどのようなご要件でしょうか?」


 街道もフォーセルからは完全な安全を保証できない。非戦闘員はこのフォーセルで生まれて育つか、冒険者を護衛として雇って移動しなければならない。


「拠点移動のお願いです。サーディルから来ました」


 冒険者の拠点を決めるにはその街の冒険者登録の試験を受けるか、前の街の踏破印をもらうかである。


「踏破印はお持ちでしょうか?」


 結局、踏破印ほど簡単な手続きもない。だから基本的に拠点移動は踏破印が主流だ。


「はい」


 そう言うと、レンのインベントリから冒険者証が出現する。そこにはサーディルで押してもらった踏破印が輝いていた。


「冒険者レンさんですね。確かにサーディルの踏破印を確認しました。その他の踏破印が確認できないのでサーディルでの冒険者登録でしょうか?」


 フィースト、セカンディルにも同じく踏破印が存在する。レンはスキップしてしまったためにそれらの踏破印は冒険者証に無い。


「はい」


 手続きは結構簡単だ。でも手続きをしているという実感は湧いてくる設計になっている。ゲームへの没入感のためである。


「かしこまりました。では、フォーセルへようこそ」


 その後である。受付嬢は急に表情を失った。そして、平坦な口調で言う。


「当エリアはデバグ作業中です。進行不能なバグが存在する可能性があります。その際はチャットウィンドウに\supportと入力してください」


 そう、これはデバグ作業が完了していないエリアで繰り返し聞くことになるセリフだ。\supportというのを忘れてしまうと、バグからの救出が受けられなくなってしまう。

 その後、受付嬢は表情を取り戻し笑顔でいった。


「フィフセレマに移動されるまでどうか末永いお付き合いを……」


 これは、冒険者がロストしないことを願う言葉だが、レンには不要だ。プレイヤーはロストしない。


「こちらこそ、しばらくお世話になります」


 しかし、レンはそう答えた。ウニーカ・レーテのNPCはAI制御であるため心があるものとして接したほうがいいのである。

 これにて、レンのフォーセルへの拠点移動は完了となる。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 それからレンはNPC冒険者の武器を見せてもらって回った。鍛冶屋には二種類の傾向がある。火入れの上手い刃の切れ味で勝負する鍛冶屋と、機能を向上させるセレーションなどで勝負する鍛冶屋だ。レンが探すのは常に前者。だが、この街では火入れの上手い鍛冶屋もセレーションなどを施していた。


 基本的に鍛冶屋の技術は次の街へ進むごとに進化する。その中で一本の武器を使い続けられるように、進化錬成という要素が存在するのだ。


スノウ:武器どうするの?

朝神:流石に進化錬成怠ったりはしないと思うけど……

†黒酢†:流石にサーディルの武器じゃ無茶だと思うけど……


 そう、基本的に前の街で作られた武器はその地のレイドボスには通用しない。


「進化錬成するよ! それと、フォーセルの敵は肉質が硬いみたいだね……。切れ味じゃ戦えないみたい。だから、セレーションが一旦必要かな」


 セレーションは刃をキザギザにしてノコギリのように敵を切り裂く機能を与える。肉質の硬い敵は、大鎌の大敵だ。よって、レンはこのエリアが苦手ということになる。それでもレンならなんとかするのであるが……。

 ともあれ、レンは一つの鍛冶屋に目をつけていた。進化錬成素材はサーディルのレイドボスの剣で事足りる。防御力を更に犠牲にし、攻撃力を上げる素材だ。余計にレン向けの大鎌が出来上がる。


ネギ侍:流石に進化錬成なしは無理かぁ

アリ酢:でも、もっと防御力犠牲にしそう……

カラノ・ボトル:世界一位怖い……


 そう、世界一位にとっては防御系ステータスは死にステータスなのだ。


「フォーセルの敵が多分、今の死神の大鎌じゃあちょっと心もとないかなぁ……。今日デバグ手伝うって言ってあるから、それまでに進化錬成を済ませちゃおう!」


 レンはそう言って、鍛冶屋に向かうのだった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 鍛冶屋は相変わらずドワーフの店主だった。そしてぶっきらぼうなのも相変わらずだ。


「店主さん、進化錬成を頼みたいのですが……」


 火入れの上手い店は大体こうなのだとレンは少しおもしろく思った。


「つええ冒険者かどうか、それが問題だ。素材を出しな……」


 こういった店は強い冒険者しか相手にしない。弱い冒険者には丈夫な鉄の棒で十分だと思っている。


「これです……」


 レンは素材を取り出した。するとその瞬間に鍛冶屋の店主の目が変わる。


「おぉ……おおおお! こいつは、サーディルの……。よしきた! お前さんに最高の武器を錬成してやる!」


 そう、鍛冶屋の店主はそう言って奥に引っ込もうとした。


「すみません、それが使えない間代わりの武器が欲しいんですが……」


 すると、店主はレンに詰め寄ってきた。


「お? 大鎌はねぇぞ? 何が欲しい?」


 相変わらずレンは大鎌かレイピアである。


「レイピアなんか……」


 すると、店主はカウンターの横に飾ってあるレイピアを差し出した。


「こいつを貸してやる。なぁに、代金はいい! 俺とお前の仲だ!」

「どんな仲ですか!?」

「水クセェな! 強い冒険者と鍛冶屋の親父の仲に決まってらぁ!」


 そう、こういった店の店主は強い冒険者と見ると、見境なく仲良くなろうとするのだった……。

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