第28話・次の街へ

 その後、レンはゲームにログインするとすぐに配信をつけて冒険者ギルドへと向かった。

 冒険者ギルドの所属である以上、街同士を移動するときには届け出を出さなくていけない。だからフィーストやセカンディルで冒険者登録をしなかった部分があるのだ。

 他にもフィーストやセカンディルの敵はレンには弱すぎるというのもあったが……。


「レンさん、こんにちは。今日はどうされましたか?」


 レイドボスを三人で討伐したメンバーはもはやサーディルの冒険者ギルドのエースである。中でも、最大の貢献をしたレンはサーディルの冒険者としては強力すぎるという評価を受けていた。


「拠点をサーディルから、フォーセルに移そうと思うんです……」


 レンは言った。そもそもここまでレベルが上ってしまうと、レンにとってはサーディル周辺の敵が弱くなってしまうのだ。

 ウニーカ・レーテが供給する、エネミーというリソース。それにだって限りがある、可能な限り最前線の街へ行けば行くほどそのリソースには余剰がある。


「そうだったんですね。レンさんは強い冒険者ですし、早くフォーセルに行っちゃうんだろうなって思ってました。かしこまりました、では冒険者証をお預かりします」


 冒険者証、基本的に無くすことができないアイテムである。インベントリの別枠に保存されていて、こういった問いかけをされたときにだけ取り出すことができる。


「はい」


 そう答えると、インベントリの別枠から冒険者証が出現する。


「ではこちらに、サーディルの踏破印を押しますね!」


 踏破印、すべての街に存在する印である。それを押される事によって、サーディルからフォーセルへの推薦状としての役割を持つ。


「ありがとうございます!」


 レンの進行速度は異常だった。それだけにデバグ作業を行っているニューラゲーム社員に負担をかけている部分もあった。だが、それ以上にデバグ作業を行っている人たちも、ウニーカ・レーテが好きなのだ。

 どこまで行っても果の無いこのゲームが……。


「フォーセルへ行ってもお元気で……」


 受付嬢は少しさびしそうにした。

 このゲームの厄介なところは、NPC一人一人がまるで生きている人間のようなところだ。ついついNPCであることを忘れそうになる。


「ええ、短い間ですがお世話になりました……」


 だから別れが寂しくなる。そしてその寂しさも物語の一つの要素だ。ウニーカ・レーテのストーリーは基本的にヒューマンドラマだ。出会いや別れ、NPCを信じたり敗れたり。そんなゲームなのである。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 レンはフォーセルに向かう道を一人走っていた。

 ウニーカ・レーテの徒歩移動には三種類ある。まず歩き、これは敏捷値が反映されないゆったりとした移動だ。そして走り、これは敏捷値が反映され、レンはこの段階でかなりの速度が出る。そして、疾走。これはスタミナを消費しつつ走る、徒歩最速の移動法だ。一般的にこの疾走までが制御できる範囲の敏捷値がゲームプレイに推奨される。


スノウ:フォーセルはええ

エビる:流石についていけないですね……

ネギ侍:そのレベルは普通はサーディルでちょうどいいくらい……

アルバこぁ:これでフォーセルがちょうどいいのが世界一位

朝神:この状態でフォーセルとか普通はシンプル無茶


 そう、レンはそのあまりの強さにゲームの適正レベルを無視しなくてはいけないのだ。


「そうかなぁ、このくらいだと結構余裕にフォーセルで活動できるよ……。レイドボスもソロだったら時間はかかったけどもうちょっと余裕の討伐ができたし……」


 レンにとって二人は火力の補助としてみれば優秀だったが指示を出さなくてはいけない分足かせだったのである。


†黒酢†:フォーセルでは何するの?


 レンが走るのは街道ではない。最短距離だ。もちろん途中敵と遭遇するが、それは瞬殺しながら走る。

 するとちょうどその時赤い膜がかかっているエリアに差し掛かった。

 膜にはこうあった。


『この先デバグ作業中。進行不能バグを発見した場合チャットに\supportと打ち込んでください。プレイヤー様方には大変ご迷惑をおかけします』


 話をすればなんとやらである。レンはフォーセルにはデバグデートで行くつもりだ。そして、この膜を超えた先にはフォーセルのエリアがある。


「ここに書いてあるとおり、デバグ。ニューラゲームの人と仲良くなったんだよ。それで、デバグを手伝いながら色々できたらなぁって思ってるんだ!」


 そう言って、レンは膜を通過した。

 その先は風景が変わり、まるで水晶に囲まれた大地であった。


エビる:うわぁ、βとぜんぜん違う……。

アリ酢:きれい……


 太陽の光は地面で乱反射し、いろいろなところに虹色のひだまりが存在する。その光景は美しく、そして普通に走ることはできなかった。


「よっ、ほっ!」


 レンはその凸凹の大地をまるで障害物競走でもするかのように軽々と飛び跳ねる。


スノウ:待て待て、移動が人外!

エビる:レンさんですから……


「攻撃を避ける要領だよ! ほれっ! ほいっと! こんなふうに!」


 凸凹の大地なのに全く移動速度が落ちない。レンは異常だった……。

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