第27話・ハニー・トラップ

「廉ー設備いれるぞー! まず父さんがPC持ってきた!」


 ゲーミングPCは総じて重い。それを現場仕事でたまに力仕事をする隆盛が持ってきた。

 それによって、一旦二人のいい雰囲気は中断された。


「あ、父さんありがとう! 机の下に置いてくれる?」


 そう言って、廉は父を自室に招き入れた。

 ちなみに廉の自室はゲーム機材などを除くとどちらかといえば少女趣味だ。ぬいぐるみなどが置いてある。


「あぁ! ここだな!」


 ゲーム用の重たいPCをひょいひょいと置いてしまうあたり隆盛は怪力である。


「ありがとう!」

「応!」


 なんて、仲の良い親子である。


「廉さん、普段はどうやってゲームしてるんですか?」


 奏はそんなときでも廉とのコミニュケーションを忘れない。


「ベッドに寝てログインしてますよ!」


 廉は元気に答えた。するとすかさず隆盛が廉の耳元に口を近づけて言った。


「頑張れ」


 そう、隆盛は廉に彼女ができるのも歓迎だ。これにて二人は廉の父、隆盛公認となった。


「うん」


 廉も彼女ができるかもしれないと胸がドキドキである。なお身長は、奏の方が高いが、そこは廉も諦めている。自分より背の低い成人は居ないと。なにせ身長144センチである。

 一方奏は、身長は163と少し高めだ。


「それじゃあ、もっと快適なログイン空間になりますよ! VRゲーミングベッドも持ってきたので!」


 VRゲーミングベッド。VR機材は基本的にヘッドギアを装着してログインするが、ゲーミングベッドだと何も装着する必要がない。寝転がればそのままログイン可能な、ゲーマーの憧れである。また人体工学にも基づいていて、ゲーム中完全な脱力状態になり、体力のすべてをゲームに注ぐことができる。


「それ本当ですか!? ほしかったんですよー!」


 廉も当然それに憧れていた。そう、これから完成するのはウニーカ・レーテというゲームに最も向いた、最強のゲーム環境だ。


「いやぁ、すみません手伝ってもらっちゃって!」


 少し遅れて榊がやってくる。ゲーミングベッドのいち部分を抱えて。


「いえいえ、息子のためですから!」


 廉は本当にいい父を持ったものである。大切なときに仕事からでも帰ってきてくれるし、力仕事も引き受けてくれる。


「いやぁ、親子仲良好なんですねぇ!」


 そう言いながら、榊はゲーミングベッドの梱包を解いていった。


「残り持ってきますね!」


 隆盛はそう言って、階段を降りていく。


「うわぁ! すごいすごい!」


 自分の家にゲーミングベッドが出来上がっていく様子を見て興奮しないゲーマーは居ない。


「ちなみに、ニューラゲーム社でもデバグ環境これですよ!」


 ニューラゲームはちゃんと社員を大事にする会社である。ただし、退社時間は自由だ。デバグ中に楽しくなってきたなら、思う存分遊んでいい。


「なんかそう言われると遊びに行きたくなっちゃいますね!」


 ニューラゲームと廉の家はそんなに遠くないのである。車で30分ほどだ。また、電車の駅からも近い。


「あ、じゃあ代表に頼んで廉さんの社員証作ってもらいますね!」


 そう、そんなのニューラゲームにはお安い御用だ。それで廉がウニーカ・レーテにとどまってくれるのであれば……。


「ヤッター!」


 廉は子どものようにはしゃいだ。嬉しすぎてちょっとおかしくなっているのだ。


「じゃあ、しばし二人でー!」


 そう言って榊も階段を降りていった。


「ふふっ、また二人になっちゃいましたね!」


 また奏は廉の心臓に悪いことを言う。そう廉は二人きりになると緊張するのだ。


「そ、そうですね……」


 カチコチになりながら廉はなんとか答えた。


「そういえば、かわいいお部屋ですね。私、たまに廉さんのお部屋に遊びに来てもいいですか?」


 奏自身これは攻めたなと思っていた。しかし、廉はもう奏とお付き合いしたい一心になっていたのである。


「い、いいですよ!」


 そんな、自分の部屋に遊びに来るなんて脈ありだぞ。なんて浮かれポンチキな廉の心内にはすでにファンファーレが鳴り響いていた。


「ありがとうございます! じゃあ、たまに遊びに来ちゃいますね! 一応ゲーム機材2台分あるからここでウニーカ・レーテもできますね!」


 奏は悪い女になった。ここまで言われてときめかない男は居ない。廉ももちろんときめいたのである。


「で、できますね! 僕ぅ、全然プレイとか、ベッドの方でいいんで!」


 廉はもうダメだった。まんまとニューラゲームの色仕掛けに引っかかったのである。


「ふふっ、じゃあよろしくお願いします! 次来るときは仕事中の私じゃないので、廉くんって呼んでいいですか?」

「はい!」


 こうして廉はウニーカ・レーテから離れる気もなかったが、離れられなくなったのであった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 しばらくして、ニューラゲームの二人が帰ったあと、廉は咆哮した。


「うひょおおおおお! ほおおおおお! ぽっぽおおおおお!」


 そう、彼女ができそうになって嬉しさで頭がバグり散らかしたのである。


「どうしたの廉ちゃん!?」


 それを母親に少し心配されたが、事情を話すとわかってもらえた。

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