第26話・二十代の男の娘

 その後、スペースを確認すべく奏と廉は廉の自室に向かった。所謂子供部屋である。なにせ子供部屋女児さんなのであるから……。


「本名も廉さんなんですねぇ……」


 廉とは中性的な名前である。それを奏はイメージにぴったりだと思っていた。


「はい! そうなんですよ! ところで、ここなんですけど設備入ります?」


 廉は、内心ドキドキしていた。少女のような見た目をしていても男。今、自室に女性が居るのだ。それもかなり綺麗な、そして見慣れない大人の魅力を持ったお姉さんがである。


「全然入りますよ! ちょっとお部屋狭くなっちゃうかもですけど、より快適にウニーカ・レーテが遊べますからね!」


 奏も内心ドキドキである。なにせ、これからこの美少女に見える男の娘に色仕掛けをしなくてはいけないのだ。それと同時に廉を可愛いと思う気持ちもあった。

 なにせ廉は、誰がどう見てもかわいいのである。だが男だ。


「じゃあ、搬入手伝いますね! 僕もこう見えて男ですから!」


 自分が幼女にしか見えないことを廉は自覚していた。


「いいんです、代表に任せましょう! 今、伝えますね!」


 奏は大人の面を強調するように心がけている。だが強調しきれないのも奏だ。どちらかと言うと社内ではちょっとポンコツな方だった。

 奏はすぐに榊に電話をかける。


「代表、廉さんの部屋、設備入ります!」


 榊はすぐに電話に出て、返事をした。


『了解。じゃあ、運び込むから二人で雑談でもしてて』


 そう、ここからが奏の仕事だ。廉と恋愛関係に持ち込むことである。

 可愛いものが好きじゃない女性は……どちらかといえば少ない。よって奏も可愛いものが好きだった。つまり、廉の外見は好きだった。


「廉さん……いきなりなんですけど彼女さんとかっています?」


 ここで居たら色仕掛けは通じない。


「全然居ないですよ。ほら、僕こんなじゃないですか……」


 廉は思った。これ、ワンチャンあるぞと。そう、廉は女性経験の乏しさから女性に飢えていたのだ。そこに来て、人吉家には無い大人の女性の魅力。廉は20代の男の子が爆発していた。


「そうなんですか!? こんなにかわいいのに……」


 雑談は奏の思っている異常に順調に進んだ。外見が美少女だったから、自分程度の色香は通じないと思っていた。だが、案外通じたのだ。


「かわッ! ……それが問題なんですよ。異性として見てもらえないので」


 大人の女性からかけられるかわいいの言葉。廉の心臓は一瞬ドクンと跳ねた。


「すっごく可愛いですよ! しかも、ウニーカ・レーテが趣味なんて」


 そう、ニューラゲームの社員は多くがウニーカ・レーテをプレイしている。デバグしている間にハマってしまったのが多数なのだ。

 なにせ、ゲーム自体がゲームを作るのだから。だから、デバグ中も進化し続けるAIに魅了されているのだ。


「あはは、ゲームしか趣味のない男です……」


 廉は女性とそういう会話なんてしたことがない。同性と思われて生理の話をされたりなら経験があるが……。


「私と一緒の趣味ですよ!」


 奏は思っていた。これ、いけんじゃね……と。そうイケるのである。


「そ、そうなんですか? よかったら今度一緒にプレイでも……」


 廉は積極的になった。男として頑張ったのである。しかしこれが廉の精一杯。ヘタレである。


「ええ、もちろん! ふふっ、世界一位とプレイできるなんて、私この会社入ってよかった……」


 2つの意味で奏は大興奮していた。世界一位とウニーカ・レーテができること。そして、こんなにかわいい男の娘を自分のモノにできるかもしれないということ。

 そう奏は廉のようなかわいい彼氏はまんざらでもないのだ。


「そんな言ってもらえるなんて……僕もウニーカ・レーテやってて良かったです」


 廉も浮かれポンチになっていた。だって奏は大人っぽさもあるし、可愛らしさもあるのだ。そう、ニューラゲームのアイドルだったのである。


「私の仕事って基本最前線エリアのデバグなんですよ。そのためにかなりレベルの高いキャラクターを持ってます。今の生成最前線ってフォーセルなんですけどまだデバグ終わってなくて……」


 基本的にプレイヤーの最も進んだ人からみて次の街までがゲームの生成されている範囲だ。そう、ウニーカ・レーテは決して終わらない。どこまででも物語は紡がれていく。


「あ、じゃあ後でフォーセル行きますよ! 一緒にデバグしましょう!」


 そう、廉はそろそろフォーセルに行く予定だ。すると次の街が生成され始めてしまう。


「じゃあ、終わってないデバグ範囲一緒にやってもらってもいいですか?」


 廉はもう、大興奮だった。ゲーム内とはいえこれはデートといってもいいのではないかと思っていた。


「全然いいですよ! やりましょうやりましょう! デバグなんてやったこと無いから楽しみです!」


 奏はもうしめしめと思っていた。このまま彼氏にしてしまえば、廉はウニーカ・レーテに留まる理由が増えるのだ。


「嬉しいです! でも、廉さんが攻略早すぎてデバグ大変なんですけどね……」


 なんて意地悪を言ってみる余裕もできていた。このままなら彼氏にできると、手応えを感じていた。ニューラゲームは廉を攻略中なのである。


「すみません……」


 廉はそこでしょんぼりとした……。


「ふふっ、全然いいんですよ! 私、それがお仕事なんですから!」


 押したり引いたりと廉はもはや奏の手のひらの上だったのである。

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