第25話・必死な人たち

 廉は両親に相談した所、両親同伴でニューラゲームの社員及び代表取締役と会うことになった。廉は両親同伴のせいでプロゲーマーの話が流れるのではないかとヒヤヒヤしていたところである。


 その実に30分後には廉の父隆盛が家に帰り、1時間後にはニューラゲームの社員と代表取締役が到着した。

 事が起こり始めるのはニューラゲームの二人を玄関で出迎えたときであった。


「社長。これ無理ですって。本人様私より可愛いですって……」


 ついてきた社員は女性で、また可愛らしい人ではあった。スラリとした長身に、栗色の髪をハーフアップにまとめた、人吉家にはない可憐さを持っていた。


「やるしか無いのだよ……なんとか彼女? ……をウニーカ・レーテに引き止めなくては……」


 社員と代表取締役はコソコソと話をしている。

 出迎えた廉はスーツ姿であった。小柄で、少女にしか見えない体躯にパンツルックのスーツを着用し、ネクタイまで締めていた。それが逆に可愛く見えてしまうのが廉の罪なところである。


「はじめまして、僕が人吉廉と申します。ウニーカ・レーテは非常に楽しいゲームでいつも遊ばせていただいています。お世話になります!」


 廉は礼儀正しく一礼し、家の中へ迎え入れる。当然そこには隆盛もいた。

 隆盛もまた、スーツを着こなし、ネクタイを締めている。体格が良いだけに少し威圧感の出る姿だ。


「息子がお世話になっております。父の、人吉隆盛と申します。こちら、名刺です」


 廉の父は建設業の現場監督としてデスクワークと現場仕事のどちらも行う。だからこそ名刺も当然持っていた。


「ご丁寧にありがとうございます。私、ニューラゲーム代表取締役の榊倫太郎と申します。こちら、私の名刺です」


 社会人同士のやり取りというものを廉は初めて間近で見た。

 廉はこれまでにも、隆盛から社会人同士のやり取りができる訓練は受けていた。だが、実践になるのはこれが初めてだ。


「同、社員の奏 麻衣かなで まいと申します」


 このときニューラゲームの榊は胸をなでおろしていた。一瞬見たとき廉を少女だと思ったのである。しかし、隆盛が息子と言ったことで、少なくとも男性であることは確認できた。

 同じ理由で奏も胸をなでおろしていた。少なくとも男性ならなんとかなるかもしれないと。でも、自分より可愛い相手に色仕掛けが通用するのかは以前不安なままだ。

 そう、ニューラゲームは必死だ。社員に色仕掛けをさせようとするくらい廉を必死に欲しがっている。


「名刺ありがとうございます。では、こちらにどうぞ。ちょうど家内がお茶を入れたところでして、よければ飲みながらお話しましょう」


 隆盛も楓も必死である。息子にようやく見つかった仕事。息子が騙されてもいけないし、良い仕事だった場合にはのがしてはいけない。

 そう、必死な人が朗らかな笑顔で集まっているのだ。

 そんなことを言いながら、ニューラゲームの二人は廉と隆盛に先導され、人吉家のリビングにたどり着く。


「粗茶ですが……」


 楓は、この時間にちょうどいい味が出るように神経を使ってお茶を入れていた。それも家族で飲むときには出さない高級茶葉で……。


「あ、どうもご丁寧に……。早速ですが、本当は郵送する予定だったのですがこちらが契約書になります」


 そう、まずは書面上のやり取りで証拠を残し信用を勝ち取るのがニューラゲームの考えだ。


「拝見させてもらいます」


 と、隆盛がその契約書の熟読を始める。

 隆盛は契約書を読み慣れていた。だからこそ、一言一句逃さない。

 それを息を飲んで見守るニューラゲームの二人。なぜ廉が読まないのかなど、ツッコんでいる余裕は二人にはなかった。

 しばらくすると隆盛は言った。


「本当にこの条件でよろしいのでしょうか?」


 それは、労働と言うにはあまりにゆるい内容だったのである。具体的に言うと一日一時間以上のウニーカ・レーテプレイ配信を行う限り、ニューラゲームは年間500万円を廉に支払うこと。そして、週に二日以上任意で休暇を取っていいことである。

 あまりに条件が良すぎたのだ。


「はい、レン様の配信活動は我が社のウニーカ・レーテの非常に強力な宣伝手段となっておりまして。それを続けてくれるのであれば、その条件で契約を行いたいと思っております」


 それに、実はそれだけではない。レンというプレイヤーが居ることによって、ウニーカ・レーテの生成AIは強力なプレイヤーのデータを得ることができる。AIの教導にもレンの存在は是非とも欲しいのである。


「そうですか!」


 隆盛は確信した。廉はいい仕事を見つけたと。だから、廉に契約書を渡した。


「廉、ここにサインだ。これはいい仕事だ! やったな!」


 そう言われて、廉は隆盛に背を押された。


「サインしてくれますか! ありがとうございます!」


 代表取締役が一番必死だった。なにせウニーカ・レーテこそニューラゲームのすべてをかけたゲームだったのだから……。

 こうして、廉はちょっと変わったプロゲーマーとしての道を進むことになる。他とは一線を画した、最強プレイヤーとして……。

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