三位一体のように育って来た男女は、いつまでも三人ではいられませんでした。ヴィルヘルムとエレノアは結ばれ、ヴィルヘルムの双子の弟であるリヒャルトの思いは宙に浮かんだまま、大陸全土を巻き込む戦争に入っていきます。戦争からエレノアのもとへ帰還したヴィルヘルムは本当にヴィルヘルムなのでしょうか?
戦後の動乱の中、ヴィルヘルム、リヒャルト、エレノア、それぞれの屈折した思いが克明に描かれていて、全てが明らかになってゆく五章~終章の怒涛の流れはどうしても読むのを止めたくない、そんな気持ちになってしまいました。
タグにある通り、バッドエンドのヒストリカルロマンスとなります。しかし最後まで読み終えた印象としては、このような悲しい結末にならざるを得なかったという腑に落ちる感覚がありました。少しだけ希望が残されていることも救いでした。
誰が一番悪いということもない、三人の決して元に戻ることはない関係性を緻密に積み上げているからこそ得られた読後感なのだと思いました。
この作品を読むと、まず第1次世界大戦前後の不穏なヨーロッパの雰囲気たっぷりの世界観に魅入られます。ヒロイン・エレノアは、そんな時代の荒波に運命を左右されつつも、傾きかけた婚家を切り盛りし、過去の栄光を忘れられない姑と幼い息子を守って、強く賢く生き抜いています。それだけでもエレノアに共感できるでしょう。
でも私が最も惹きつけられたのは、エレノアとヴィルヘルム、粗筋には登場しないもう1人の幼馴染の3人が愛に翻弄されるところです。そこには今流行りの溺愛とかスパダリとかは登場しません。むしろ切ない気持ちが溢れますが、重厚な世界観と相まってむしろそこがいいのです。
2024/10/10追記:完結を待ってこのレビューを更新します。結末はタグ通りですが、読者に余韻を残すようになっているのが特によかったです。