夏に、さいかい。
豆ははこ
煩い、さいかい。
「デートしてください!」
蝉の声よりも
近所迷惑!
多分、道路に立ってるんだ。
大家さん家族は、一階に。
アイツの声が煩いと思われたら、困る。
一階の
一階の庭は大家さんの愛犬のお城。
私はまだ飼えてないけど、完全室内飼いの生きものは飼えるし、駅からも近い。
独身や夫婦だけの住人ばかりで割と気楽。家賃も相場に照らして高くない。
安くはないけど。
こんないいマンション、追い出されたくない。
何よりも、たまになでさせてもらえるくらいに仲よくなったのに。
柴犬のマルちゃん。
茶色の毛色がさいこう。
だから、早くアイツを黙らせないと。
「顔見せてください!」
だから。
煩い!
おりる前に、眉毛。
顔、洗ってない。
洗ったら化粧水、美容液。日焼け止めも……。
アンタみたいな二十代前半つるつるお肌じゃないんだよ、こっちは。
前の夏。
飲み屋で出会って、意気投合。
なんとなく、したくなった。
ちゃんと、きをつけた。
それっきり。
月のものは、無事にきた。
よくある話。のはずだった。
今年の春。
新入社員と、主任さん。
あ、私が主任さんね。
うちの会社、主任と言う名の係長。
三十前半、しかも女。
色々言われたけど、それなりに実績上げたし。
「再会できたら、プロポーズしようと思ってました」
真顔で言うな。
やめなさい、煩い、やめろ。
かわいいですよね。
誰かが、言っていた。
確かに、ベッドの上ではかわいかった。
えくぼを褒めたら、照れてたし。
でも。
夏に出会って、春に再会。
だったら、夏に別れてもいいはずだ。
だから。
なんとか、見せられる顔と服になって。
階段をおりて、怒鳴りつける。
「煩い!」
とりあえず、叫ぶ。
「……あらあら、ごめんなさいね」
しまった。
大家さん、マルちゃんとのお散歩帰りだった。
「違います、マルちゃんは煩くないんです!」
煩いのは、そいつです。
「(マルちゃんは)かわいいんです!」
「ありがとう」
……なんだって?
「かわいいって、また言ってくれましたね」
違う。
かわいいのは、マルちゃん!
そう言ってやるつもりだったのに。
「あらあら、マルちゃん。お兄さんのこと、好きなのね」
なんてことだ。
マルちゃんの、懐きかた。
コイツ、犬好きだ。
「実家で飼ってます。柴犬」
なんだって!
夏に出会って。
春に、再会。
だったら、夏に再開しても、いいはずだ。
そうだよ。
……犬好きは、好きだよ。
夏に、さいかい。 豆ははこ @mahako
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます