熾烈! 矯正日誌!

宮藤才

第1話 終わりの始まり。序章。

 すべての歯列矯正患者に捧ぐ━━


 僕は矯正を始め現在十年目に差し掛かり、いわゆる保定期間、マウスピースで矯正のリバウンドを抑えている時期だ。


 で━━


 最初に言っておく。

僕は歯列矯正を失敗した。

 そしてもう一つ言っておく。

これはフィクションである。一応。

 

一口に失敗と言っても、何をどう失敗したの? そう疑問を抱く人も多いだろう。


 詳細はおいおい述べていくが、僕の場合は「拡大矯正」の失敗例であげられる症状がそのまま当てはまった。と言っても、それに気づいたのは、後戻りできないところに来てからだ。

 

 まず、歯列を広げ過ぎた為に、当然のことながら歯列全体が広がり、歯列、歯が頬の内側、口の中を圧迫している。イメージしにくい人は思い浮かべてほしい。

口の中の空間というのは、当然ながら限りがある。ええと、把握しにくいかな……狭い部屋に、目一杯大きな家具を詰め込む感覚、要は歯が内側のほっぺたを押しているような感触が常にある。

 

 不便なのは、食事の際に歯の外側とほっぺたの間に食べ物がやたらと挟まる事だ。

ほっぺたの内側、唇をやたら噛んでしまう。他いろいろ。

 

 さらに僕の場合、一番奥の歯が一本飛び抜けて外側、ほっぺの内側にあたり、本気で抜くべきか悩んだほどだ。


 その2。出っ歯になった。矯正を考える人は、一つその前にやってほしいことがある。100円均一で良いので、粘土と歯の代用品になるもの、割り箸を歯の長さ(歯根の長さをイメージして)に切ったもの、そんなものでも良いので、粘土で顎、割り箸を歯に見立てて、模型を作ってみて欲しい。さらにその土台、歯根の埋まるあたりに輪ゴムを巻く。矯正というのは粘土の土台に埋まる歯を、グリグリ動かす作業の様なものだからだ。


 何が言いたいのかというと、実際に歯を動かすと歯が浮いてくる。浮くというのは、歯の根が上がって来ると言うことだ。それは動かす距離に大きく関係している。模型でも試すとわかる。


 さらに拡大矯正。歯列の幅を広げようとすると、全体が外に開いていく。これも広げる幅に比例して振れ幅はあるが、広げるほど歯は外側に開く。イメージとしては、蕾が開いて花が咲くような感じだ。花なら良いが、歯が開くのはキツイ。

 そして歯根が露出する。ちなみに、医師にそれを訴えても治療中は「加齢ですね」もしくは「大丈夫です」「どうにもなりませんね」と片付けられることが多く、ある程度治療が進んだ時点で、そのことについての「承諾書」を書くことになる。あれ、承諾しないとどうなるのだろう?

 おっと、これは批判ではありません。ただの事実。

で、歯根が露出するとポケットが沢山できるので、お米などはやたら挟まる。歯列が広がってほっぺたの内側との隙間がないので、なおさら取り出しにくい。


 その3。前歯がかち合い口が閉まらない。平たく言うと前歯がぶつかり上下奥歯が接触しないので、噛みきれないものがある。例えば肉類。前歯がぶつかると、ある程度繊維を断つことは出来ても噛み切れない。上下の歯が噛み切る仕組みというのは電車の上り下り線がすれ違うようなものだから。ぶつかるというのは実質寸止めに近いので、繊維や薄い麺は噛み切れない。奥歯も前歯がぶつかり噛み合わないので、やはりある程度までしか噛めず、飲み込むことになる。


 その4。

 唇の下から左顎に掛けて、痺れが残っており、触れても紙一枚分隔てて触ってるような感覚になっている。


 おっと、ちょっと話が固くなったね。

さて、ここからは僕の体験談。


 すでに無事矯正治療が終わった方には心からのおめでとうを。


 現在治療中の方には、参考になれば良いな。


 これから治療を考えている人には、転ばぬ先に杖になりますよう……


 何より、楽しく読んでいただければ!


 【つづく】

  

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