第2話 再燃

 ◇◇◇



「また……全滅……? なんで?」


 ノートパソコンの画面に映る、変わり果てたルイズたちの姿に、私は思わず声を漏らした。指先は震え、目からは温かい涙があふれ出すが、体は絶望感で凍りつくようだった。


「こんなの、絶対に違う。こんな結末、私は望んでいないのに……」


 絶望が私を包み込む。物語の中のルイズたちは、私の分身のような存在。彼女たちが傷つき、倒れていく姿は、まるで私自身の未来を暗示しているかのようだった(そうだよ、どうせ、お前は何も達成できずに死ぬんだよ?)。


「ルイズ、みんな、お願いだから……生き残って」


 祈るような気持ちで、私はキーボードを叩き始めた。彼女たちの運命は、私の指先に委ねられている。私は、彼女たちを、そして私自身を、この絶望から救い出さなければならない。


「絶対に、諦めない。私は、あなたの物語を書き続ける」


 私は物語の世界へ足掻いた。それは、現実の苦しみから逃れる唯一方法であり、私に許された娯楽。妄想が私の最大のエンタメ? と思うと、時に悔しくて悔しくてたまらない……反骨の力も、SMAという病魔が奪っていく気がする。それでも、彼女達と共に生きたいのだ。


 病室の白壁には、点滴のチューブやモニターのコードが蜘蛛の巣のように張り巡らされ、無機質な機械音が静寂を破る。しかし、小説を書いてる時だけ、私の心は自由を感じた。今、ルイズたちと共に、どこまでも広がる青い空を飛んでいる。


「私は、まだ諦めない。絶対に」


 幼い頃、私はバレエを習い、舞台の上でスポットライトを浴びることを夢見ていた。しかし、9歳の時にSMAと診断され、その夢は脆くも崩れ去った。脚光を浴びる代わりに、点滴や注射と自己否定表現を浴びる体。


 病気は容赦なく進行し、次第に歩くことも困難になった。小学校高学年で車椅子生活となり、友達との時間も限られていく。それでも、私は笑顔を絶やさなかった。みんなと同じように学校生活を楽しみたい、そう強く願っていたから。


 しかし、現実は残酷で、体育の授業には全く参加できず、修学旅行も諦めざるを得なかった。クラスメイトとの間に見えない、なにか巨大な圧力を持つ壁を感じ、孤独感が募っていく。


 両親は、私の病気を受け止めながらも、常に葛藤していた。父は現実的な道を歩んでほしいと願い、母は私の夢を応援してくれた。母が図書館で一冊のファンタジー小説借りてきてくれた。タイトルは「天空防衛セレスティア」パイロットの少女は空を駆け、奇跡の歯車を廻していく。


「物語の世界は、なんて素晴らしいんだろう! 

 こんなに幸せで自由な世界があるんだ!  

 私だって、全てを叶えられるんだ!


 !!」


 物語の世界に没頭するうちに、私は現実の苦しみを忘れ、心から楽しむことができた。そして、自分でも物語を書いてみたいと思うのは自然な流れ。


 物語を書くことは、私にとって、生きる希望となった。物語を通して、私は自分自身の感情や考えを表現し、世界と繋がれるかの様な喜びを感じた。そして、いつか、私の物語を多くの人に読んでもらい、希望を与えたいと願うようになった。


星影せいえいのグランバーズ」は、そんな私の願いを込めた物語。ルイズたちは、私の分身であり、希望の象徴。彼女たちが諦めない限り、私も諦めない(でいられるの?)。


「さあ、一緒に、この物語を終わらせよう」


 私は、再びキーボードに手を伸ばした。

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