第3-12話

 そこは通りになっており、大の男が両手を目いっぱい広げた程度の幅になっていた。


 それに連なる建物は民家と思われる建物が多く、もはや見慣れた石造りの四階建ての建物が多い。

 この街は恐らく、この様式がベーシックとなっているのだろう。アリッサ達は今のところ気が付いていないが、道路も舗装されており、道端にごみ等も見当たらない。スラム街とは思えない程、整備されていた。


 しかし、その中で一つの教会が目に付く。

 区画一帯に光こそ灯されていないが、割かし綺麗なこのスラムに一つ、目に余るぐらい寂びれた教会がそこにはあった。


「善聖教…。魔物、特に魔女を執拗に追う武闘派の教会ですね」


「私が知る善聖教はもっと栄えていたのだけれど…。教会に頼らずとも、個人個人が魔物に対抗できるようになったのかしら?」


 アリッサは昼に邂逅した冒険者を想起する。彼らの力の出所を確認してみたいとは思っていた。

 現代の人間に対して知らない事があるのは、アリッサはとても不安な事だと考えていた。もし対魔女に特化した一撃必殺魔女殺しでも開発されていようものなら、人間だらけのこんな街に滞在している場合ではないし、今後、人間を見かける度に裸足で逃げださなければならなくなる。


 相手の情報の更新を終えるまでは、極力、発見される事も、ましてや戦闘を行う事も避けたいとアリッサは考えていた。問題はどうやって情報を更新するかであったが。



「ご主人様、仮拠点にあの教会はどうでしょうか?」


 リリーが件の教会を右腕を伸ばして指差す。それに対してアリッサは苦々しい顔で返した。


「…見るからに廃教会だけど…。まだ使われていたら、どうするのよ?」


「では、私がこっそり中を見に行って参ります。夜中とはいえ、まだ使われている教会ならば住み込みの神父や修道女がいるかと」


「…じゃあ任せるわ」


 アリッサのその一言にリリーは礼をすると、すぐに飛んでいく。恐らくどこか隙間を見つけて侵入するのだろう。風通しの良さそうな教会なので、彼女のサイズならばいくらでも入り込める。


 アリッサはリリーが帰ってくるまで、どこかに隠れて過ごそうと考え始めたその時。ふと視線を感じ、勢い良く振り返った。


 アリッサ達がやって来た脇道。そこに建物に隠れ、半身を出してアリッサの事をじっと見ている者がいる。


 それは年端もいかぬ人間の少年であった。


 アリッサは意外な正体に驚きながらも、彼女が自分達の事を視認出来ているであろう事にも驚愕していた。

 鉱人ドワーフ独特のずんぐりむっくり体型ではない為、恐らく鉱人ドワーフ以外の人種だろう。


 にも関わらず、一度ならず二度までも正確に暗中にいるアリッサの姿を捉えるという事は、まず間違いなく暗視能力を持っていると見て間違いない。


 アリッサは観念して、少年へ近付く。

 どうせ完全な隠密行動も失敗に終わっているのだ。ならばいっその事、開き直って現地住民に、コンタクトを取ってみるのも有りなのではないか、と彼女は思った次第である。

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闇魔術の魔女 はらへりいぬ @haraheri_dog23

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