痛みの王
大将
王との謁見
深夜勤へ向かう前に風呂へ入る。何気ない毎日のルーティンに地獄への扉は開かれていた。
いつものように頭と身体を同時に洗う。シャワー代を節約する為だ。
垂れてくる泡から目を守りながら右下腹部に手が触れた瞬間。
ゴリ――。
まさにそんな音と一緒に不快感が現れた。
初めは催したのかと思って放置する。風呂から出たらトイレへ行こうと適当に考えていたのだ。
だが風呂から出る頃には、もう不快感は消え去っていた。
まぁいいか。その内出したくなるだろ――。
何て思いながら動画サイトを開き仕事前のゆっくり出来る時を楽しむ。
だが風呂から出て十分もしない内に再びあの不快感は現れた。
スマホを観ながらトイレに向かい用をたす。
これでスッキリ!何て思っていたが不快感は消えない。むしろ妙な痛みが増えていた。
固いモノが残っているような腸の痛みと不快感。
まぁ大丈夫だろう――。
何て思い動画をまた観てから数分もしない時だ。
痛い……痛いぞ!
不快感は消え去り痛みだけが増幅する。まるで右下腹部の臓器を握られ微振動を起こされているような感覚。
ただの便秘じゃない!
そう思った時にはもう遅い。楽な体勢が無い状態に、四つん這いになる他手段が無かった。
隣の部屋で眠る妹に助けを求める。
頼む……家族を呼んでくれッ!!
もちろん妹も家族だ。だがもはや語彙力は消し飛び、少年マンガなら必殺技が打てそうな程の迫力で叫ぶ。
妹が呼んできてくれたのは母親。夜中だった為、既に夢の中にいたようだ。
だがあまりの息子の事態に慌てはしなかったが救急車へ連絡してくれた。
容態を聞いて駆け付けてくれる事になったが、もう自分には待つ余裕も話す余裕も無かった。楽な体勢が無い。これが何より辛い。
外で待つ為にゆっくりと二階から降りる。だが歩く振動だけで微振動が強震動へと変わる。いや、狂震動と言っても過言ではない。
やがて救急車が到着すると救急隊が玄関で四つん這いになる俺に語りかける。
「大丈夫ですか?どうされました?」
救急隊の優しい声に安堵する。
だが口に出た言葉は、まさに本能から絞り出された叫びだった。
「なんか、なんかもう、痛いんですぅぅぅぅ!!」
家族は爆笑。救急隊の人も半笑いになる悲痛な叫び。
まともに説明出来ない俺は、夜間病院へと運ばれた。
それからはあっという間だった。
駆け付けた医者。鮮やかなピンクの血尿。
エコー検査で見つかる白い影。
それは世界三大激痛と呼ばれる、尿管結石だったのだ。
痛みの王 大将 @suruku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます