第2話

「部長、新しいメンバー連れてきました」


 迷う子羊を導く天使の如く告げたのは葡萄染《えびぞめ》っぽい紫色の短めなボブをしていたおてん娘系の小柄な女の子。幼さが残る顔立ちに落ち着いている澄んだ瞳から神秘的な空気が漂っていた。


 すらりとしたデニムパンツは上半身の黒バギーシャツとは印象がとてもかわいい。


「ね、立川さん?これは本当にあってるよね?なんか最近流行っているぶっ◯けとかそういうやつじゃないよね?」

「これはオカルト研究会のはずだ…って最近流行ってるの何!?どこで手に入れたのその情報!」

「どこで…ネットの友達が教えてくれたんだよ!ネットだから信頼できるかなって思って…にしてもこの部屋の雰囲気は結構怖くない?青はこいうところ苦手」


 ぎょろぎょろ、あっちこっちを気にする青さんはびくびくしていた。


 ここは先程見つけていたかった、オカルト研究会309号室だ。廊下の最後にある物置をくぐって、なぜかこの部屋があった。


 壁は普通の部屋よりどこか古い印象を与えるモノクローム灰色だ。灯りは普段の教室と違って、淡い光が漂う中世ヨーロッパ風の蝋燭ろうそくシャンデリアが天井から垂れ下がっていた。


 部屋の真ん中には黒い、石で作られたテーブルか台が置かれていた。その周りに、台に向けたままの赤色のソファーが4つ置かれていた。


「おお!玲奈れいなちゃんありがとう!ここからはあたしに任せてね。ん?何この子!めっちゃかわいいじゃないか!髪色もめっちゃ綺麗じゃないか!!!!あああああ!え?名前なんて言うの?触ってもいいですか?髪食べてもいいですか??」


 まるで無防備の鹿に襲いかかる獅子の如く悦楽に満ちていた、口からよだれがたれている表情でじわじわと青さんに近づけていたピンク髪のギャルは部長らしい。


「!?」


 びくっと青さんは俺の後ろに下がって、身を隠した。


 いい匂い!


「部長。それはセクハラです。やめてください。」

「おっとと、失礼しました。えーと、まずは自己紹介かな?はじめまして、あたしはこのオカルト研究会サークルの部長、名前は桜田彩さくらたあや、よろしくお願いします。」


 すっと通った鼻筋からスベスベな肌をした麗しい容貌。目を強調させるアイライナーとちょどいいほどに整っていたギャルメイクは長いサラサラとしたピンク色髪と相性抜群。



 ぎりぎり臀部を隠せるぐらいの短めなデニムショートパンツから伸びる肉感に富む長い美脚は雪よりなめらかに白くて、身にまとっている黒Tシャツも美しく際だっていた。


 しかし、軽く頭を下げる桜田さんはがっかりするぐらい谷間おっぱいがなかった。


 色気たっぷりの淑やかな声から年上の雰囲気が漂ったが、アニメに出てるお姉さんキャラとは違って、胸という概念がまるで知らないぐらいにフラットだ。


「こっちは副部長の紫藤玲奈しとうれいなです。」


 桜田はぽつりと隣に立っていたおてんば娘を指し紹介してくれた。


「俺は一年生の立川瞬です。SNSで今日にイベントがあるのを見て、気になったので来ました、よろしくお願いします」


 礼儀正しく自己紹介をすると、後ろに隠れていた青さんがぐずぐずと肩の上から顔を出して、部長の桜田さんや副部長の紫藤さんを見つめていた。


「岩崎青です。立川と同じ一年生です。オカルト研究会が楽しそうなので来てみました。よろしくお願いします。あの…失礼かもしれないけどこの部屋はちょっと寒くないですか?」

「青ちゃんだよね。えーと、そう言われてもこの部屋にはエアコンがついてないから、温度というかよりこれは心霊の仕業だな。最近あいつらは融通がきかないでごめんね。」

「ん?」


 ちょっと変な台詞を言い張った気がしたけど気のせいか。いくら心霊スポットが好きからというと、心霊が本当に存在するわけがないだ。


「部長そろそろ時間です」

「そうですね?じゃそろそろ始めようかな。紫藤ちゃん準備頼むね。立川さん、石崎さん、適当に座っててね。今からオカルトの面白さを見せてやるよ〜」


 すっと告げる桜田さんは華奢な両腕を天井に向かって掲げる。隣に立っていた紫藤さんは部屋の隅っこにあったぼろぼろな棚から黒曜石っぽい宝石を取り出し、黒台の上に優しく置いとくと。


「部長、準備ができました。どうぞ、式をお進みください。」

「今日は中々いいの召喚ができそうだから楽しみだね。行くよー。闇から私に傅きなさい、異能力、阿部真底召喚コーリング


 呪文が響くなり台の上に置かれた、手のひらの大きさをした丸い宝石がすらすらと黒から朱へ変わっていく。


「なっ?!」


 宝石がゆっくりと天井へと、透ける朱色に化けていた。ほどなく朱い光が薄暗い部屋を包みこんでいた。


「?!」


 隣に座っていた青さんがぎゅっと腕に捕まって、度肝を抜かれた顔で目の前に広がっているシーンを見ていた。


 突然。カチンの音のついでに、宝石がさらに眩しくて、そして一拍を置くと宝石が姿を変貌した。


 台の上に姿をした何かがいた。


「おおお!紫藤ちゃん!見て!めっちゃいい心霊を召喚できた!いえーい!よっし!早めに写真に収まるのだ!」

「はい部長、かしこまりました。この状況を予想していましたので、予め、このカメラを準備しました。はい、チーズ…」

「いいね、さすが副部長紫藤ちゃん!って何してるの!写真はあたしじゃないわよ!心霊を撮ってよ!全く!」

「おっと失礼しました。あっ電源切れました…」

「………なにいいいい!?!せっかくすごいの召喚できたのに!」



 横に目をやると、青さんがぽっかんともはや意識が飛んでいたにしか見えない表情で台を見ていた。


 それは無理もない。なぜなら、台の上には……美少女がいたのだった。


 燃えさかる炎のような紅蓮のウィーブかかった髪に神様手作りとしか思わない完璧な女体。


 儚い淡い光がそのスレンダーな体をそっと包み、身に纏う白いチャイナドレスから…そうだ…待ちくびれたよな…だ!


 そうだ!丁寧に刺繍が施されたきらびやかなチャイナドレスの上からでもわかる。雲より柔らかそうな爆乳が存在感を訴えていた。


「あらあら……召喚してくれたのはあなたかしら?」


 おっぱいが…ちがう…が魂を見据えるような目でそう聞き出した。


「っ?!」


 心が矢に抜かれたかの如く、胸の奥が息苦しくて、心拍数が危険なレベルまで上昇していた。綺麗。これは夢なのかな?


「心霊ちゃん〜?ちがうよ!そのあなたを召喚してくれたのはこのあたしだよ!うわー!でもめっちゃかわいいいい!ちなみに…脇なめてもいいですか?」

「部長、落ち着いてください。」


 これが…心霊か…




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

胸がないと勝ってない 夢月亜蓮 @aobutakuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ