胸がないと勝ってない

夢月亜蓮

オカルトぺったんこサークル

第1話

『ぷるんぷるんぽよんぽよん、せーのおっぱーーい♡!!』


 メイン講義ビルの廊下はがやがやと賑わっていた。3限が終わったばっかりのころなので、休みに入った学生はざわざわとあっちこっちへ歩いている。急ぎ足で通り過ぎる黒髪の美人やカラオケの話をしている友達の集まりが普段の大学の景色だ。


『さー皆さん!今週はどんなおっぱいをご覧になりましたか??たゆんたゆんの爆乳美少女?それともデカオパギャル?!もみたーい!』


 片耳イヤホンから『世界を制覇するおっぱい』を流しながら、どしどしと足を運び、部屋509室を探していた。突然、何かが肩に軽くぶつかっていた。


「あっ!すみません!」

「いいえ、いいえ、こちらこそ」

「509室はどこかわかる?探してて見つかなくて、へへ」


 イヤホンを外して、下を向く。上目遣いをしながら、そう呟いてきたのはかわいいロリ型の女の子。ツヤツヤとした瑠璃るり色の青っぽくショートカットの髪は陶器のような白い肌と天真爛漫な幼さがまだ残る綺麗な顔と美しく際だっていた。


 にこにことした笑顔は彼女が着ていたジャストサイズベージュ色のペーパーヤーンシャツと白いサテンスカートにとても似合っていた。天使の雰囲気は胸がないことで一段と純粋に見える。


 柑橘のほのかな香りが鼻腔にさわることで心内のどきどきをおさめがら、声をなんとか絞り出す。


「509室?俺も探しているんだけど」

「え?もしかしてお兄さんはオカルト研究会の人なの?」


 彼女が小首を傾げて、問いかけた。


「いや、まだ入ってないかな。なんとかSNSでオカルト研究会を見つけてて、面白そうので、今日のイベントに行こうかなって、今は509室探しているだけ。」

「あー、なるほど〜。青と同じだ。青もインスタでそれを見つけてきて、いい運動になりそうなーって来ているけど509室は全然見つけないけどねー」

「運動になりそう?心霊スポット巡りだよ」

「お化けが来たら、ささっと逃げ出し、いっぱい走れるから!」

「…そうか、イベントはそろそろ始まる時だな。遅刻したくないのではやく見つけないとやばいかも」

「同感だ!青が一人で遅刻したら、気を使って部屋に入れないし……一緒に行ってもいい?遅刻したら一人じゃないし…後は…青は結構方向音痴ので一人で見つけられる自信がない」

「いいよ、二人の方が効率的だね」


 銀色の可愛いらしい腕時計を見ながら、提案をした彼女は赤面してすぐに、ずらりと隣に並んで歩き始めた。


「ん~、そういえば、自己紹介はまだよね?あたしは社会学部一年生の岩崎青いわさきあおですー、よろしくお願いします!」


 青はぺこりと軽く頭を下げる。瑠璃色の髪からシャンプーの香りがする。


「同じく一年生で統計学部。立川瞬たちかわしゅんと申します、よろしくお願いします」

「ぷぷ、なんかちょっとかたくない?同い年だからタメ口でいいよ!」


 弄りっぽい声色でツッコミをした。


「突然だから、そんなに他人にタメ口とか、すぐに友達になれるものかなって、ちょっと慣れてない、悪い?」

「ん?いや、全然大丈夫よ。そうかな、青は昔からすぐ友達になるタイプ!後は…なぜかいつでも知らない人にぶつかるタイプ…」


 人がどんどんいなくなる廊下を進みながら会話をしてた。彼女はもう一回腕時計を確認してからこっちに向かって言葉を紡ぐ。


「なんか、立川さんは結構背高いね、羨ましい…」

「ん?俺は174ぐらいかな?青さんからすると高く感じられるのはめっちゃわかるけど」

「ひどーい!来週から一緒に部員になるかもしれない人にそれ言いちゃダメだよ!」


 やれ放しのはいられないのでちょっといじってみたら、青さんのほのかに赤く染められた柔らかそうな頬はめっちゃかわいかった。



 しばらく歩くと埃の匂いが漂う薄暗い窓や人がいない廊下の最後にたどり着く。あたりを見回しても、古い掃除品や学際に使われていたかもしれない旗や看板が散らかっていた。


「あれ?あそこは508室だから、509室はこの辺りだと思ったけど、いなさそうね」

「うん、青もそう思ってたけど、もしかしてオカルト研究会だから部屋もオカルトって感じなんじゃない?部屋ぐらい見つけないと入部する資格がないとか」

「それはそれなり面倒くさいのでせめて、イベントの日は何とかの印をつけてほしいな」


 途方に暮れた二人なので、踵を返して戻ろうとしたとたん、パタンと、奥にある、ちょっと錆びついた灰色の物置の中から音が響き渡る。


 突然の出来事に青さんはぎょっとした。


「…」

「…」

「あの、立川さん、今、物置から音がしたじゃない?」

「俺もそう思ってたが、普通に考えたら、そんなわけがない」


 そう呟いやきながら、視線を物置に集中させる。パタンと、もう一回物が落ちる音が辺りを響き渡る。しかし、今回、から女の子の声がした。


「痛っ!」


「…」

「…」


 青さんは動揺を隠しきれない青ざめた表情で冷や汗をかきながらボソボソと囁く。



「ねー、立川さん、今、物置が喋ったよ」

「ああ、聞こえたよ」


 静まりかえった物置はしばらく間をあいて、突然、ガチャンと扉は勢いよく開いた。


「キャーーーー」


 青さんはびっくりした猫かのように、飛び上がり、ぐいっと腕を掴んできた。胸がないとはいえ、服の上から伝わる女の子らしい柔らかさやぬくもりは頭の中を真っ白にした。


「痛っ!まじで痛っけど…ん?」


 から、頭を抱えた葡萄染えびぞめぽい紫色の短めなボブをしたおてん娘系の小柄な女の子が出てきた。視線が合うとぽかんと呆れた顔から色がどんどんなくなっていた。

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