真っ暗な世界で少女に語る物語

ゆめうめいろ

真っ暗な世界で少女に語る物語

 「久々に来たけど今日はまた一段と世界が真っ暗に感じるねぇ。ま、もう誰もいないんだから当然か。」




 白髪ので赤い目をした少女はあっけらかんと岩の上で寝転がりながら言い放った。


 


 「それでこんな真夜中にお姉さんはなんでこんな森にいるの?」


 


 近くの切り株に腰掛けていたお姉さんと呼ばれている女はそれを聞くとどこか動揺していた




 「え?あれ?なんで……なんだろう。なんで私……ここに?」




 「ま、なんでもいいけどさ。とりあえず今晩はここにいなよ。ここの安全は私が保証するよ。なんてったって私の結界があるからね。そう壊れることはないよ。」


 「結界……?」


 


 女は不思議そうな表情で尋ねた。


 


 「そそ、かっこいいでしょ結界。……あれ?さてはその顔信じてないな?」


 「いやそういうわけじゃないんだけど日常生活で聞かない単語だし壊れることはないっていうのが新鮮で……」


 


 そういうと少女は満足そうに笑みを浮かべ近くで花を摘み始めた。 


 それからしばらくは会話のない、だけど気まずくもない時間が続いた。


 


(なんだろうこの知っているような感覚……不思議だ)




 先にこの沈黙を破ったのは少女だった。




 「そうだお姉さん、お姉さんの昔話でもしてよ。私長いこと一人だし本なんてほとんど読んじゃったからさ。」


 「昔話?私の?」


 「そうそう。事実は小説よりも奇なりっていうじゃない?別に難しく考えなくてもいいよ。お姉さんの今までに感じてきたことを教えてよ」


 


 女は少し考えてからぽつりぽつりと話し始めた。


 


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 そうだね……私の過去……星宮沙羅ほしみやさらの過去……




 まあ、いつどこで生まれて……みたいなの聞かされてもつまらないと思うから少し成長したところから話そうか。


 幼少期。


 私は親に愛されて育った。 


 いや、親どころじゃなくって近所からも親族からも。


 しかも盲目的なわけじゃなく。


 私に普通の愛情を注いでくれた。


 


 朝起きたらおいしい朝食


 散歩をしてたら近所の人から「沙羅ちゃん、えらいねぇ」っていわれてみかんをもらって


 家に帰ったらおかあさんに貰ったみかんでデザートを作ってもらって一緒に食べる


 おばあちゃんの家にいったら文字の読み方をやさしく教えてもらってほめてもらって


 夜には家族全員で楽しく食卓を囲んで9時になったら家族全員で寝る




 こんな毎日だった。


 もちろん楽しかった。


 幼少期の記憶なんて本来大人になったらほとんど本来なら消えてるらしいけど全然消えてない。


 なんなら二週間とか前のことよりも強く思い出せる。


 


 ―――ただこの日常は私が7歳になったとき……私の小学校の入学とともに終わった。


 小学校に入ってから私の生活はがらりと変わった。


 


 朝起きたらパン一枚の朝食


 登校していても近所の人からはまず褒められることはなくなり


 家に帰ったら母親と父親がけんかしている


 おばあちゃんの家に行ったら長い時間小学生が解くのにしては明らかに難しい勉強を教えてもらい


 夜には家族バラバラでご飯を各自で調達しバラバラな時間にバラバラの場所で寝る


 


 こんな毎日になった。


 


 どうやら親は私を私立の小学校に行かせるために結構無理をしていたらしい。


 そのせいで家族の仲に大きな亀裂が入ってしまった。


 おばあちゃんはそんな現状を知らず私が学校の勉強についていけてるか不安がって勉強の量を増やし厳しくなってしまい、おばあちゃんの家へは週に一回くらいのペースだったのが毎日行くように変わった。


 近所の人に関して何も悪くない。


 ただ私が成長しただけだ。


 ただ、自分の周りがこれだけ激変するとほめられないようになるという変化すら私の心を削った。




 こうして私は家ではなく学校へと心の拠り所が移っていった。


 


 幸い私はおばあちゃんのおかげで勉強ができるほうだったし、友人もたくさんではなくともある程度は作ることができた。


 おばあちゃんの家に行くぎりぎりまで友達と遊んでおばあちゃんとの勉強が終わった後は夜遅くまで小学生ながら遊んで帰ってくるという生活を送っていた。


 そしてこの生活を続けたまま私は中学校へと上がった。


 


 学校の名前は変われどメンバ―自体はほとんど全員知っていたし何か問題が起こることもなかった。


 ただこの学校で私はきっと私の生涯でも一番となるような親・友・を作った。




 中学一年の春。


 たまたま横の席になったのが彼女だった。


 最初彼女の印象は『地味』の一言だった。


 しかし彼女は私をほめてくれた。


 彼女は私が一人で夜にご飯を食べていると言ったら家へ私を呼んで彼女の家族と一緒にご飯を食べさせてくれた。


 そしてそれを彼女の家族も優しく受け入れてくれた。


  


 こうして私はもう一つの居場所を得た。




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 「…………なんというか……大変だったんだねお姉さん」


 「いやいや、もう慣れちゃえばへっちゃらだよ。それに私の家族はいなくなって相当経つんですし」


 


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 そのまま私たちは高校生になった。


 三年たっても私たちは仲良かったし学校で落ちこぼれることもなく楽しい学生生活を送っていた。


 


 そんなある日だったあのニュースが流れたのは




 その日は彼女と二人で参考書を買いに本屋へ行っていた。


 その参考書はやめたほうがいい。


 この単語帳は評判がいい。


 そんなことを言っていたことを覚えている。




 適当な参考書と文房具をもって会計を終わらせたとき周りがスマホを見ながら何やら騒がしくなっていることに気づいた。


 そのときは別に何とも思ってなかった。


 ちょうどレジが雑誌が置いてあるようなところにあって若い人が多かったからどこかのアイドルグループで誰かが脱退したのかなくらいに思っていた。


 何度も考えたけどこの時に何が起こったのか調べるとまではいかずとも周りの話に少しは耳を傾けるべきだったと思う。


 


 それからしばらくして明らかに周りが切迫したような雰囲気が変わった。


 そうなるとさすがに私たちも無関心ではいられなくなって何が起こっているのかを調べた。




 調べて最初に目に入ってきたのは水だった。


 大量の水だった。


 水が降ってきていた。


 だけど雨じゃない。


 雨なんかよりもっと質量をもったゼリーのような大きさが100m×100mくらいの塊。


 それが世界各地に降ってきていた。


 


 最初はみんなフェイクニュースだと思ってふざけ倒しているようだった。


 というより現実感がなかったんだと思う。 


 水の塊が上からゆっくりと重力を無視したように降りてきて建物や人が押しつぶされていく。


 そんな状況誰が信じれるというのだろうか。


 こんな災害見たことも聞いたこともない。


 


 だけどそんなのはすぐ消え去った。




 ワシントン  


 モスクワ 


 ソウル


 東京


 リオ


 


 世界各国のシェルターごと地盤すら削っている投稿があちこちで拡散されてフェイクではないことが半ば確実になってきたころにようやく世界各国から声明が発表されていた。


 


 急に切迫した雰囲気になったのはこれが原因だったようだ。


 


 ようやく私たちは自分たちの置かれている状況を理解しとりあえず外に出た。




 そして私たちはどう行動するれば良いか話し合った。


 もちろん私は家族を頼ることなんてできない。


 このころには表面上は家族を成せていたがほとんど会話なんてない形だけの家族だった。


 それにそもそもどこが安全なのかすらわからないのだ。


 何も建設的な意見なんか出てこなかった




 そんな中私たちの頭上に例の水が現れた。


 


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 「それで?どうなったの?」


 「……まぁお察しの通りだよ。」




 女は目を伏せて切り株から降りて地面に転がった。


 


 「私だけが生き残った。二人で必死に逃げたけどどうしても水から逃れられず彼女は私を突き飛ばした。」


 


 女は自分の義足を見ながら言った。


 


 「どんな漫画みたいな展開だよって何回も思った。でも、それ以上に思い出すんだよ。透明な水に彼女の赤い血が水に混ざった様子が。」


 


 少女は女に近寄ってさっきまで座られていた切り株へ座った。


 


 「そしてあなたが最後の人類になったと」


 「私以外にもう生きてなかったんだ……まあ君……神様が言うんだったらそうなんだろうね。そして私ももう死んじゃったのか。」


 


 女は泣き笑いのような表情をしながら言った。




 「あ、私の正体気づいてたんだ。いやーまあ神様って言っても下っ端なんだけどね。しかもやってること死神も同然だし。」


 「それで……私は何で死んだの神様?よく覚えてなくって。」




 少女神様は頭をかいた。


 


 「うーんと……よし!どうせ隠しててもいいことないし教えてあげるか。あなたはついさっき自殺しにこの森に来ました。長いこと一人で憔悴してたのかな?そしてお姉さんは知らなかったみたいだけどここって少し前にここに水の塊が降ってきていて地面が濡れてたんだよ。それで道を踏み外してこの切り株に頭ぶつけたってわけ。」


 


 女は納得したような表情をした。


 


 「なるほど。どおりでここだけ周りにほとんど木がなかったわけだ」


 「水に関しては小規模も小規模なのだったから気づかなくても無理はないよ。」


 「人類の最後の一人になれるくらい水の塊からは何年も逃げ続けてたのに最後の最後は結局水の塊かぁ。なんというか、運命というか。」


 


 言っている内容とは反対にその表情はどこかせいせいとしていた。


 


 「いやー本当は死因教えたくなかったんだけどね。死んだときって魂に大きな負担がかかっちゃうしできるだけ自分で思い出すのが精神衛生上もいいんだよ。だから最初は何でここにいるかとか聞いてたわけだし。今回は思い出すのに時間かかっちゃいそうだったから過去について話してもらってできるだけ自分のことを思い出させてから最後に私がぶっちゃけて思い出させたけど」


 「魂に負担がかかるって言ってもどうせ転生することももはやできないし関係ないんじゃ?」


 


 そういうと少女は少し考えるような表情をして


 「…………お姉さん。実はさ、簡単に言うとラストワン賞ってことでお姉さんに何か特典がもらえるんだけどどれが欲しい?」


 そんなことを聞いた。


 


 「ラストワン賞……名前が不謹慎とかそういう次元じゃないね。いまさら何もらってもどうしようもないけど何ができるの?」


 


 待ってましたかと言わんばかりに少女は笑った。


 


 「まずその一『異世界転生』


  とはいえ特殊なスキルで無双するとかいうわけでもないし記憶を保持しているわけでもないし何か特殊な世界なわけでもない。地球と似たような世界に転生できるだけ。」


 「……転生って言っても記憶ないんじゃそれはただの魂のリサイクルであって私じゃないからなぁ。とりあえずパス。」


 「その二『私と同じ神になる』


  これは言葉の通り神になれる。」


 「神……あんまりかなぁ。もう長い間逃げ回っちゃって疲れちゃったんだよね本当に。労働とかもうする気力なんかないよ。」


 「……その三――――『記憶をもって過去に戻る』」


 「過去?」


 「そう。お姉さんが一番幸福だったころの幼少期でも亡くなった女の人を救う直前でもいつだろうといいよ。何ならあの災害を防ぐために赤ちゃんのころに戻ってなにか勉強を始めてもいい。」


 「えーっと…………ちょっと待った!3つ目とそれ以外リターンの差がおかしい。」


 「そらそうだよ。3つ目関しては私が今考えたんだから」


 


 おかしな状況に過去一動揺していた。


 そもそも死んだことを思い出したのすら最近なのだ。


 


 「……どれか選べるのならもちろん三つ目を選ぶよ。それで生まれるときに戻って家族の仲を元どおりにして彼女も助ける。……でもどうして私に特例みたいなことしてくれるの?」


 「うーん……まぁ同情したってことにしてくれればいいよ。」


 


 それだけ言うと少女は女の手を握った。


 


 「それじゃ行くよ。ちゃんと手握っててね」


 「え……ちょっとまって!」


 「何?どうしたの?」


 「私の話を聞いてくれてありがとう。なんというか……昔に戻ったような気分になってつい話こんじゃった。」


 「…………それじゃ行くよ―――」


 


 そして森にいるのは一人になった。


 


 「今晩は久・し・ぶ・り・に・に二人で過ごせると思ったんだけどなぁ……神になってくれるのが一番よかったんだけど拒否されちゃったし……理・沙・ち・ゃ・んはどんな未来?過去?を手に入れたんだろう。今から帰ってみてこよ―――」


 「―――そうはさせませんよ」


 


 振り返るとそこには若い青い髪をした女性がいた。


 


 「何とてつもないことやらかしてるんですか。始末書くの私なんですからね?」


 「いやーメルナ、ごめんごめん。」


 


 メルナと呼ばれた女は死んだ目をしながらため息をついた。


 


 「それで?あの女性は誰なんです?」


 「誰……まぁ親友だよ。昔のね。」


 


 そういうと少・女・は自分の顔を鏡で見た。


 


 「うーん……やっぱりこの顔じゃなくて元の顔のほうがよかったかな?」


 「とりあえず戻って仕事しますよ。このもう終わってしまった世界だけがすべてじゃないんですからね。」


 


 少女はメルナを睨んだ。 


 


 「いーや、終わりじゃない。あの世界はこれから始まるんだよ。」


 「……きれいごと行ってないで働きますよ。」


 「やだーーーーーー」

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