第6話 朗読の最終頁あるいは未来への栞
(ゆっくり扉が開く音)
(たん、たん、ゆっくりと足音)
お、おはようございます……先輩……
お願いですから、何も言わないでください!
落語の勢いで突っ走ってしまったの後悔してるんですから!
今さらですが私の中で整理して、話す時間をください!
シットダウンプリーズ!
(真下でパイプ椅子に座る音)
それじゃ、私も座ります。
(左隣にパイプ椅子に座る音)
本読みながらでもいいですか?
その方が落ち着いて喋れるんで
またポツポツとした喋りになりますがご容赦ください。
(本のページをめくる音)
今読んでるのは
千夜一夜物語ですね。既読です
有名なお話です
暴虐な王様に殺されそうな王妃さまが
毎日面白いお話をして処刑をまぬがれる物語です
アリババとかアラジンとか魔法のじゅうたんとか
よく聞くのは、その中で話をした物語らしいです。
(本のページをめくる音)
もう、先輩にもおわかりでしょう
私が朗読をはじめた理由です
私と先輩のやりとりって
こんな風に本を読みながらポツポツ話すか
私が強引に絡んでいくパターンばかりじゃないですか
もう少し可愛さを出したいとか、思うところがあったんです
ですが素で行くには自分の理性が邪魔をします。
(本のページをめくる音)
それで物語を朗読する形でなら、違う自分を出せると思ったんです
結果は、ご存知のとおりです。
自分で書いたお話はえっちな方向に暴走するし!
私も語るうちにテンションあがって変なことするし!
最終的には告白してしまうありさまですよ!
(本をパタンと畳む音)
(半ギレ)
ええい! 白状します!
この朗読を通じて先輩に告白させるつもりでした!
ちょっとセクシーな姿を見せれば、先輩なんてちょろいもんだと思ってましたが!
後輩に見合わぬ包容力を見せれば、先輩なんて即バブバブだと思ってましたが!
耳元からの甘いささやきで、先輩なんて即堕ち2コマの薄い本だと思ってましたが!
ですが? それが何か? 問題ありますか!?
(消え入りそうな声で)
しかたないじゃないですか好きなんですから
(咳払い)
(パイプ椅子に座り直す音)
(再び本のページをめくる音)
千夜一夜物語の話に戻るんですが
王様に殺される民を守るため王妃様は結婚するんです。
目的ありきの結婚ですね。
ですが最終的には子供を設けて幸せに暮らします。
話を続けていくうちに、王妃様も王様のことが好きになったんでしょう。
(本のページをめくる音)
今ならすこしわかる気がします。
思ったより、うれしいんですよ。
自分の話に、反応してもらえるのって
自分の一挙一動に、相手はどんな顔をするんだろうって
思った通りの反応なら楽しいし、違った反応でも面白いです
(本のページをめくる音)
物語の場合は特に、自分の中から出てきたものですから
自分自身を喜んでもらえたような気持ちになれるんです。
とっておきの内容でいい反応されたら、思わずニッコリです。
思わぬ表情が見れたら、胸の奥はドキドキです。
そんな風にして、王妃様も王様を好きになったんだろうと思います
(本のページをめくる音)
私の場合は、えっちなネタで弾けた面もあるのですが
いい反応する先輩が悪いんですよ。えっち
……うぅぅ、改めて考えると、はずかしいものがありますね
そんなイロモノ寄りな私でも気持ちはエスカレートする一方です。
暴走した結果、千夜どころか五日もたない有様です
我ながらどうなんだろうと思ってしまうのですが
(本のページをめくる音)
まぁ、その辺は私も悪かったんです!
ゼロからスタートの王妃様と違って
最初からマックスの私がハンデ戦を仕掛けたんですから
こうなるのも仕方ないじゃありませんか!
条件の違いを思えば健闘、むしろ勝利と言っていいのでは!?
(本のページをめくろうとしてやめる音)
(ため息)
言えることもなくなってしまいました
そろそろ観念することにします
(立ち上がる音)
(歩み寄る足音)
(近くでささやき)
大好きですよ、先輩
こんな私と、一緒にいてくれる先輩が大好きです
私の変な話に、最後までつきあってくれる先輩が大好きです
私の変な話に、細かく反応してくれる先輩が愛おしいです
朗読で先輩をふりむかせようと思いましたが
大好きなあまり、暴走したえっちな話ばかりになりました。
そんな私ですが、先輩に好きになってもらえると嬉しいです。
朗読だって、先輩が喜んでくれるなら、続けます。
もう少し、くらいなら、えっちなささやきもサービスしますよ?
(耳にリップ音)
大好きですよ、先輩。
先輩のためなら、眠るまでお話をささやいてあげます。
先輩のためなら、何日だってお話をささやきます。
そうですね。当面は千日を目指しましょうか
目標達成できたら契約更新をお願いします。
その時に物語と同じエンディングを望んでくれたら最高なのですが
今はこれで我慢しますね。
(ぎゅっと抱きしめる音)
一生に一度の機会なので
全力で甘くささやいてはおりますが
また変な話をすると思います、私なので
ですが、これからも聞いてもらえると嬉しいです。
また変な話をしてー、と笑い合える関係でありたいです。
(手を緩めて、離れる足音)
……と、まぁ
私がはじめた物語ですので
ここでひとまずの幕は引こうと思います。
後に続く、先輩の言葉が色よいものであり
また明日から変な話ができることを祈っています。
大好きですよ、先輩
(本をパタンと閉じる音)
(終)
可愛い後輩が癒しの物語を朗読するらしいんだが、どう考えてもいやらしいの方な気がする 片銀太郎 @akio44
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