24-3
彼女は目頭を押さえる。
「リアン!?」
「大丈夫…ちょっと立ち眩みしただけ…」
「僕が、行ってくるよ」
「私が行くから!」
「でも…」
「大丈夫だから…」
リアンは、そう話しながらテーブルに手をつき、ゆっくりと立ち上がった。
少し顔が青白いか?。
僕は、彼女の手を握る。
冷たくもないし熱くもない。
「リアン、ちょっと待って」
「いや、本当に大丈夫だから…」
大丈夫だろうが、途中で転んだり倒れたりしたら大変だ。
「マイヤーさん!いますか?」
「はい。ただいま参ります」
廊下にいたであろうマイヤーさんを呼ぶ。
彼は早足で駆けつけた。
「何かご用でしょうか?」
「うん。リアンについて行ってほしい。いいよね?リアン」
「ええ…」
彼女は渋々承諾する。
マイヤーさんに任せる事もできたが、それをしてはリアンは納得しないだろう。
マイヤーさんは状況を察したようだ。
「リアン様、わたくしの腕のお掴まりください」
「嫌よ。なんであなたと、腕を組んで歩かないといけないわけ?」
「ごもっともございます。リアン様の隣が似合う殿方は、わたくしではありませんでしたな、ほほほ」
「いいから…黙ってついてきなさい」
「はい」
リアンとマイヤーさんが多目的室を出で行く。
出で行く時、マイヤーさんが小さく会釈する。僕は頷き返した。
「ふう…」
僕は小さく息を吐く。
「彼女、病気?どっか調子悪いの?」
マリ姉が廊下を見つつ、そう訊いてくる。
「病気…っていうわけじゃないんだけど、襲撃あったし、精神的に参って…しばらく寝込んでいたんだ…」
「そう…」
「本人は大丈夫っていうけど、まだ本調子ではない。と思う」
「無理してする事ないのに…」
彼女の言う通り。だけど…。
「彼女にも、補佐官としてのプライドがあるから…それは大事にしたい」
「だからって…」
「マリ姉の言いたい事はわかってる。ダメな時は、絶対やめさせるから」
「ならいいけど…」
過保護過ぎるとリアンが機嫌を損ねるから、難しいところだ。
「領主である君は大丈夫なのか?たまに熱が出てたようだが…」
「そう!そうよ、大丈夫なの?」
「一回倒れた…」
「もう…何やってるのよ…」
マリ姉が頭を抱える。
「人の事、言えないじゃない」
「ほんとだね」
笑ったのは僕だけだった。
「ほんっとに、気をつけなさい」
「はい…」
マリ姉から怒られた後、リアンがオーベルさんとメイド数名を連れて帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり」
ここからは、オーベルさん達に任せよう。
「…という事なんですが、任せてしまっていいですか?」
「かしこまりました」
「ありがとうございます」
オーベルさんと話をしてる横で、テーブルが用意される。
「ご予算は?」
「あー…ここに書いてあります」
予算書を彼女に見せた。
「…こんなに、大丈夫なのですか?」
「必要だからってすぐに、買いに行く事はできないですし、それに、この価格で買う事もできないですから。予算を超えてでも、買っておくべきかと」
「確かに…わかりました。予算内でできる限り、選んでおきましょう」
「よろしくお願いします。それから…」
オーベルさんに耳打ちする。
「リアンがさっき立ち眩みをしたみたいで…」
「そうなのですか?」
「はい。様子を見ててもらえますか?」
「承知いたしました」
リアンも一緒に、選別作業をしてもらって、僕はティオと商談。
「お待たせ」
「いやいや」
ティオが笑顔で首を横に振りながら、席を移動する。
「商売は順調?」
「とりあえずはね…」
そう言いつつ、商品リストを差し出す。
それに目を通していった。
ティオは乾物や塩漬けといった長期保存可能な食料品を取り扱っている商人。
塩漬けは、出身地であるシファーレンで仕入れている。
「最近、相場に変動はない?」
「ないね。小さな変動はありつつも、安定してる」
「そう」
食料品は不作となると、値が上がって買う方も売る方も苦しくなる。
リストの中に気になる物を見つけた。
「ん?大豆とレンズ豆が異様に安いけど?」
「あーそれは運良く安く仕入れできたんだ」
「にしても…」
「去年取れたものだから」
「そうなんだ…」
それでも安い気がする。
「悪い物じゃないよ」
品質に関しては信頼している。
「それに結構な量じゃないか?」
「まあね」
ティオは笑顔のまま。この場合、意味深すぎる笑顔だ。
「どこで仕入れたの?」
「いつものところだけど?」
「王都とロランム(王国の最南にある港町)の中間?」
「そうそう」
「へえ」
そこなら僕も仕入れた事がある。
「どういうカラクリ?去年の物したって、安すぎない?」
「カラクリと言ってもね…売り手が相場の半額でいいっていうから」
「半額!?」
新物の方が当然ながら需要があるけど、去年の物でも相場の半額はない。
「売り時の逃したみたいでね」
どんだけ下手くそなんだ…。
「逃したからって、半額はなくない?」
「半額でいいって言うし、売らないと帰れないからって」
「そ、そう…」
商売は初心者だったのかな?…。
まあ、今更どうこう言っても仕方がない。
ありがたく?買わせて貰おう。
という事で、商品を確認に行く事にした。
「リアン」
「なに?」
振り向いた彼女は、特に具合悪いようには見えない。大丈夫だろう。
「ティオの商品を見てくるよ。君はここにいて」
「うん」
多目的室を出て、一階へ。シンディも一緒に。
料理長のグレムと他数名とともに、ティオの荷馬車へ向かう。
「この価格でいいのか?」
「構わないよ」
グレムも価格に驚いている。
「ちゃんと利益が出る価格設定だから」
「そうか。ありがたい話だ」
「ウィル様が商人じゃなかったら、こうはいきませんでしたよ」
「全くだ。小麦の件もな」
「直接、取引きに行ったんだって?」
「うん。そっちは領主だったのが幸いした。初対面じゃなかったしね」
帰ってきて、倒れたのはご愛嬌。今となってはね。
「これ全部?」
「ああ」
荷台には、商品が山と積まれていた。
「少ないよりは良いかなって。日持ちをするしさ」
「まあね」
とりあえず相場より安く仕入れた大豆とレンズ豆を確認。
「グレム、どう?僕には問題ないように見えるけど」
「大丈夫ですね」
両方とも品質に問題はなかった。
他の商品もリストで確認し、品質を確認する。特に問題なし。
「次はどれくらい買うか、なんだけど…」
「全部っていうわけにはいきませんよね…」
「うーん…領民の分も考えないといけないから…」
「あーですよね…」
「予算もあるし」
領民の分も支払うから、それも考慮に入れないといけない。
量的は領民のほうが少ないから、領民の分から買うべきか?
一応、予算は領民の分と分けてある。
「シンディ。申し訳ないんだけど、トムさんの所に行ってもらえる」
「はい。かしこまりました」
「食料品と布生地の商人が来てるから、買付に関して分かる人を連れてきてくれ」
「はい!」
シンディは小走りに去っていく。
「領民の分も払っているの?」
「うん」
「大変だな…」
「仕方がないんだ。今ところ、そうするしかない」
「解決策は考えているんだろう?」
「ずっと考えてる。中々。良いアイデアが浮かばないけど」
できるだけ早く、補助金に頼るのはやめたい。
シンディがトムさん達を連れて帰ってきた。
「ウィル様」
「やあ」
「シンディさんから話は聞きました」
「はい、お願いします」
トムさんが連れて来たのは女性達が中心だ。
「生地屋は多目的室となります」
「マリ姉に事情を説明して」
「かしこまりました」
シンディが先導し館へ入っていく。
「トムさん。領民の分の予算は、これくらいなんだけど…」
「拝見します」
トムさんに書類を渡す。
彼が書類を呼んでいる間に、女性達がティオの商品を見定めている。
「これまでの購入費用から逆算して予算を組んだんだ」
「なるほど…多少、余裕を持った感じでしょうか?」
「うん。これから冬を迎えるし、多く買っても良いと思って」
「足りなくっては困りますからね」
「餓死なんて笑えないよ」
二人で苦笑いを浮かべた。
雑談を交えつつ、商談は進んでいった。
Copyright©2020-橘 シン
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ブレイバーズ・メモリー(3) 橘 シン @tachibana-shin
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