企画から失礼いたします。
長編小説は2万字相当部分まで読むということで、第1章の6話までと思っていたのですが、続きがどうしても気になったので第1章をすべて読ませていただきました。
こちらのレビューは第1章読了時点のものであることをご承知おきください。
本作は、不穏な雰囲気の中、一組の男女が傷ついた体を海辺の丘で休ませるプロローグから始まり、そこに至るまでの経緯が額縁小説形式で描かれます。
第1章では、とある兄妹が住み慣れた土地を離れ、世界へ踏み出す決心をするという冒険の始まりが語られます。
読み終えての第一印象は、古き良きハイファンタジー。
FFっぽいシビアさのある戦記モノという印象でした。
個人的に秀逸だなと感じたのが、世界観設定の出し方です。
web小説のハイファンタジーにありがちなのが、冒頭にブワアアッと読者に襲いかからんばかりの勢いで8割くらいの舞台設定が語られる事象です。
これって、読者としては「今知っておかなきゃいけない情報なの?」と若干ストレスになるんですよね。
しかし、こちらの作品は必要に応じて設定をちょこちょこと小出しにしてくれていました。
読者が「どういこと?」と感じたタイミングで必要なだけの世界観説明がされるので、ストレスなく読み進めることができます。
地の文自体もわかりやすい文章で描かれているため、物語に没頭しやすい環境を作者さんが上手に整えてくれているんだなと感じました。
兄妹をとりまくキャラクターも良くて、特に私は4話に登場するウォルフさんがすごく好きになりました!
こういうあんちゃんキャラ大好きです…。
二人の母親(または姉)ポジションにいるベベルさんも好感のもてる女性でした。
ただ、いい人ばかりが登場するわけでもなく、自分勝手な都合を押しつけてくる人や、生きていくためにしかたなく道を外れてしまった人も二人の前に現れます。
そのシビアさが程よい塩梅やってくるので、「この後どうなるんだろう…」と常にドキドキわくわくして物語を読むことができました。
ひとつ気になったところが、メインキャラクターである兄妹の設定です。
二人はそれぞれに欠陥を持っていて、それをお互いで補ってやっと一人前になれるという境遇にあります。
しかし、作中での二人はすでにそれなりの処世術を身に着けていて、『二人で協力して』ではありますが、世間にうまく対応できているように描かれていました。
二人が「自分たちの境遇を誰にも開示できない」と嘆くシーンもあるのですが、その境遇によって誰かから迫害を受けるというシーンは特にありません。
(過去に迫害を受けたために、現在は境遇を隠しながら生きていくという選択をした、ということが後ほど作中で語られるのかもしれませんが。)
むしろ、その境遇を代償に若干チート的な能力まで持っているようにも感じます。
読んでいて「そこまで悲観するほどの境遇なのだろうか?」と感じる人も少なくないのでは、と思いました。
ただ、この設定自体はとても面白く、半ば依存に近い状態で支え合って生きていく二人の姿は少し痛々しくもありますが微笑ましくもあり、「がんばれ~!」と応援したくなりました。
人間は誰だって欠点を持っているものですから、兄妹への感情移入も容易にすることができます。
この物語は、二人の自立(または独立?)を描く物語なのでしょう。
『二人でなんとかすれば、どうにかできる』ということに依存する生き方は、兄妹が自立を望んだとき非常に重たい足かせになるのではないでしょうか。
第1章中に出会った人たちや、起きた事件から、自分の殻を破る一歩を踏み出した兄妹。
二人が今後どのような冒険をするのか、そしてそれによってどう成長していくのか、今後がとても楽しみです。
素敵な物語をありがとうございました!