24-2
「あんたの姉さんとは、仲良くなれそう」
ヴァネッサがそう話す。
「ああ。そう」
僕は興味なさげに答えた。
「ねえ、マリーダって呼んでもいい?年も近いし」
ヴァネッサが後ろを歩くマリ姉に話しかける。
「ええ。構わないわ」
「あたしも呼び捨てでいいから」
「そう?でも、竜騎士の隊長さんでしょ?」
「いいんだよ。あたしは偉ぶるつもりはないから。ド田舎の隊長なんて大した事ない」
「ド田舎って、いうのやめてよ、ヴァネッサ…」
ヴァネッサの言いようにリアンが、明らかに嫌悪感を示す。
「間違ってないでしょ?」
「間違ってないから、わざわざ言う必要ないでしょ」
ヴァネッサとリアンの会話にマリ姉達が笑ってる。
僕の先導で多目的室へと向かう。
多目的室には大人数が会席できるように、テーブルと椅子がすでに用意されていた。
「さっすがオーベル」
リアンは満足のそうに頷く。
僕も同感だ。
指示されずに、状況を読み取るなんて中々できる事じゃない。
僕はいつもの席に座り、後はほぼ自由に座ってもらった。
リアンはすぐに僕の隣に座る。
「あら。仲がいいわね」
マリ姉が意味ありげに言う。
「私は補佐官なので。ね?」
「うん」
そう答えた僕にマリ姉は、笑顔を向けるだけ。
マイヤーさんとメイド達によって紅茶が配られる。
茶請けがないので寂しいが、仕方がない。
「マリーダはウィルと同じ孤児院だったでしょ?」
「ええ」
「昔は、どういう奴だったの?」
「今と変わらないわね。優しくてお人好しで」
「モテた?」
「何訊いてんのよ、ヴァネッサ…」
リアンは、ヴァネッサの質問が気に入らないのか、不満気だ。
「モテたわよ。そこそこの顔だし」
モテていたとは思わないけどな。
「誰にでも優しいから、進展しないのよね…」
「優しくしないほうがいいわけ?」
「そうじゃないって…ヴァネッサはわかるでしょ?」
「あたしに振らないでよ。あんまり経験ないし…まあ、八方美人はね…いい思い出はない」
ヴァネッサがため息を吐く
「ヴァネッサって誰かと付き合ってた経験あるんだ…」
リアンが驚いてる。僕もちょっと驚いた。
「バカにしてるでしょ?あんた達」
「いや、ちょっと意外だなってだけ」
レスターやガルドも知ってるのか?
「最低な男だったよ…」
「どう最低だったの?」
「あたしの他に…」
そう言って、片手を広げる。
「嘘でしょ!?六人と付き合ってたわけ?」
マリ姉が驚きの声を上げる。
「そうだよ…そんな事に気づかずにあたしは…」
ヴァネッサがテーブルを叩く。
その音に多目的室が静かになる。
「あー、ごめんごめん」
彼女は、苦笑いを浮かべ肩を竦めた。
「あたしの話は、もういいでしょ。ウィルはそういう奴じゃないから安心していいんじゃない?」
「そうね」
ヴァネッサとマリ姉がそう言って、僕とリアンを交互に見る。
「当たり前でしょ。そんな事、わかってるわ」
会席は続く。
なんてことはない普通の雑談。
それが友人とできる幸せ。
王都で陛下にあった事や竜を手に入れた事なんかは、驚いていた。
当たり前だけだども。
「ねえ」
リアンが袖を引っ張る。
「どうかした?」
「エレナがあんなに喋っての初めて見たわ」
エレナはティオと話し込んいた。
「ティオはシファーレン出身なんだ。商売もシファーレンと王国を行ったり来たり」
「そうなんだ」
「シファーレンの状況を聞いてるじゃない?エレナはシファーレンには、ほら…」
「そっか…追放されちゃったから…」
「うん」
友人達との会席は楽しいが、正直商談に入りたかった。
だけど、商談したいと言ったら、マリ姉にまた怒られそうだ。
僕はテーブルを指で軽く叩きながら話をする。
ふとヴァネッサと目があって、彼女は僕の指に目を落とす。
そして察したのか、立ち上げる。
「あたし、そろそろ戻る」
「え?何か用事?もう少し話さない?」
マリ姉がヴァネッサに残念そうに話す。
マリ姉はとにかく話すのが好き。
顔を見るだけのはずが、泊まりなってしまう事もあった。
「訓練見ないといけないし」
「午後は自主練ってさっき聞いたわよ?」
「自主練でも誰かが、そばにいないとダメなんだよ。緊張感がなくなる」
「ふーん」
マリ姉は明らかに不満気だ。
「ぼくもそろそろ。失礼する」
「アタシも」
「私も」
「わたくしも失礼させていただきます」
「えー」
ライア、ミャン、エレナ、ジルも立ち上がる。
「何なのみんなして」
「マリ姉、これいつも通りだよ」
「そうなの?」
「まだ時間あるし、後でね。マリーダ」
「…」
マリ姉がため息を吐く。
その様子に、ヴァネッサが笑いを堪えている。
「鍛冶屋の…」
「キース・ガーシアだ」
「そう、キース・ガーシア。あんたも来て」
「おれも?」
「早速、仕事を頼みたい」
「ああ…時間は限られているしな」
キースも立ち上がった。
「キース、よろしく頼むよ。代金は後で話そう」
「ああ。じゃあ行ってくるぜ」
多目的室に残ったのは、僕とリアン、マリ姉とティオだ。
「せっかちねぇ。みんな」
そう言いながら、鞄から色々取り出す。
僕もソロバンや予算書、メモなどを用意する
その間に、ティオが席を移動し、マイヤーさんが紅茶を入れてくれた。
「わたしからでいい?」
「どうぞ」
マリ姉が、ティオに断りを入れて商談が始まった。
マリ姉は生地屋。
他にも縫い糸、刺繍糸、縫い針、ボタンなど、裁縫関係の物を売買している。
「これ、今回持ってきた物のリストね」
「うん」
「と、サンプル」
「ありがとう」
それらを受け取り、確認。
「サンプルって?」
「見本よ。生地なら小さな切れ端を見てもらうの。商品全部並べたら、場所取るし、片付けるの面倒くさいでしょ?。だからサンプル見てもらって、商品を選んでもらう」
「なるほど…」
「荷台に乗っけたまま売ると事もあるけど、今日はね」
リアンは感心しつつ、サンプルを見る。
「こんな色の数久し振りに見たわ…それと同じ色なのに、感触を違う」
「織り方や染める時の材料、顔料っていうだけど、それによって違ったりする」
「へえ」
マリ姉から説明を聞いてる彼女は興味津々の表情だ。
「随分、持ってきたね…量だけじゃなく、種類も」
リストとサンプルを見ながら話す。
「物入りだって言うから」
「そうだけど、選ぶのが大変だよ…」
確認するだけで、目が痛くなりそうだ。
「この売値、間違ってない?安すぎる気がする」
「相変わらず、よく気がつくわね…」
「気つくよ、普通に」
「商売人の勘が鈍ってないみたいね」
マリ姉はなぜが嬉しそう。
「勘は関係ないと思うよ。それより、売値合ってる?」
「特別価格よ。理由は言わなくても分かるでしょ?」
「…」
身内だから特別価格。
こういうのは好きじゃない。
お互い商人同士(僕は商人じゃないけど)、皆と対等にしてほしいな…。
彼女は僕の性格を知ってる上で、この売値にしてる。
「足は出ないから、大丈夫」
「当たり前だよ」
マリ姉が損をするような事は、絶対にしない。
「で、どうする?後がつかえてるわよ」
「わかってるよ」
「ウィル。ぼくは大丈夫だから、焦る必要ない。主導権は君にある。ここまで来た以上、買ってもらわなければいけないからね」
「うん。ありがとう」
ティオは、気を使ってくれる。
生地については、僕は門外漢だ。
商人だった時は、比較的丈夫で安価ものを選んでいた。
それで売れていたし、足が出ることもなかった。
「リアン、どれがいい?」
「私に聞かれても…」
「君が選んだのを買うよ」
「そんなの困るわ。使うのは私じゃないんだし…」
そうか。
主に使うのはメイド達だ。
衣服を作ったり補修等に使う。
「オーベルさん達に選んでもらおう」
「それがいいと思う。私が呼んでくるわ」
リアンはそう言って立ち上がったが、すぐに座り目を閉じて俯いてしまった。
Copyright©2020-橘 シン
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