エピソード24 懐かしき来訪者


 賊の大規模襲撃から約一ヶ月が過ぎた。


 リアン、ライアがなんとか回復。


 負傷兵達も復帰した。

 まだ万全ではない兵士もいるが、とりあえずは動けるので良しとする。


 棟梁と大工達によって、領民の家々が建設中。

 領民と動ける兵士も参加して急いで作業中だ。


 

 賊による再襲撃は今のところはない。

 

 ヴァネッサが言うには、襲撃はないだろうと。


「竜騎士隊が巡回するわけだし、襲撃前の感覚に戻ってもいいと、あたしは思うよ」


 戻っていいと言われても、やはり気になる。


 

 昼食を食べ終え、執務室ではなく書斎で兵法書を書き換えていた。


 仕事がない日は書斎にいる事が多い。


「ここは…ヴァネッサに聞くか」


 専門用語はヴァネッサに聞いて、言い換える。


 そのままでもいいが、専門用語がわからないのでは意味がない。


 専門家ではない僕が、わかるように言い換えれば、他者にもわかるだろう。



「ウィル様」


 マイヤーさんが戸口に現れる。


「マイヤーさん。何か用ですか?」

「はい。お客様がお見えになりました」

「お客様?」


 何もないシュナイツに来るに酔狂な人物は誰だ?


 いや、待てよ…。


「ウィル様の知り合いだそうです」

「そういう事か…」


 僕は立ち上げる。


 

 間違いない。マリ姉達だ!。


「マイヤーさん。ヴァネッサ達を集めてください」

「かしこまりました」

 

 彼は一礼し、書斎を出ていく。


 僕の書斎を後にした。



「ウィル。なんか、あなたの知り合い?が来たみたいよ」


 執務室からリアンが顔を出す。


「うん。友人達に手紙を出したんだ」

「そう」

「おいそれと買い物には行けないからね。来てほしいって頼んだんだ」

「それは助かるわ」


 リアンと一緒に、館の北側に向かう。


 そこには懐かしい面々が揃っていた。



「ウィル!」

「マリ姉!」


 オレンジ色の髪の毛にスカーフを巻いたいつものマリーダ姉さんが、僕の名前を叫ぶ。


「ああ…ほんとに、久し振りね」

「うん」


 お互いに抱きしめあう。


 いつもこんな事はしないんだけど、自然とそうなった。



「本当に領主になったのね…」


 体を離し、両手で僕の両頬を包む。


「どうして…」

「色々考えて…決めた。後悔はない」

「あなたが決めた事なら、何も言わないけど…」

「けど?」

 

 マリ姉の言葉に聞き返したけど、黙ったまま僕の後ろに視線を移す。


「いいえ、別に…。あなたが一人でやってるわけじゃないんでしょ?」

「もちろん」

「じゃあ、紹介して」

「うん」


 まずは、補佐官であるリアンを紹介しようとしたんだけど…。



「マリーダさん?」

「え?」


 館の北西の角からエレナが現れる。


「エレナ!?」


 マリ姉はエレナに向かって行く。そして、抱きしめた。


「お久しぶりです。マリーダさん」

「ええ、本当に…」


 二人はそのまま話し込んでしまう。



「ごめん、リアン」

「別にいいわ。エレナのいきさつ知ってるし」

「うん」

「それより、彼、待ちぼうけしてるわよ」

「え?あー…」


 リアンの視線の先には、薬草師のジョエルがいた。


「よお。大将」

「ジョエル。久し振り。大将じゃないくて、領主だから」

「ははは!わかってるよ」


 彼とガッチリと握手をする。

 

「遠路はるばるようこそ」

「ああ、約束したからな」

「うん、ありがとう」

「薬はたっぷり持ってきたから、大量購入頼むぜ」

「もちろんだよ」


 薬は底をつきかけていたから、大助かりだ。



「猫族の病気の件、ちゃんと届けたからな」

「ありがとう」

「それと、あの二人はどうしてるよ?」

「あの二人?」

「ほら、吸血賊の…」


 ジョエルは自分の額を指先で叩く


「あー、ユウジとタイガね」

「そうそう」

「今はいないね。おそらく商売だと思うよ」

「ちゃんとできてるのか?」

「何も言ってこないってことは、うまくいってるだろう」


 赤字にはなっていたら、泣きついくると思う。いや、自分達で解決するかな?。


 

 シュナイツの面々を紹介しなければいけない。


「リアンは知ってるよね」

「ああ。補佐官様だろう」

「お久しぶりです。ようこそ、シュナイツへ」

「どうも」

 

 ジョエルとリアンが握手する。


「ウィル。私がみんなの紹介するから、挨拶して」

「うん、ありがとう」


 彼女はジョエルを連れ、シンディ達の紹介をしてもらった。



「やあ」

「ティオ、久し振りだね」

「全くだ」


 ティオ・リーマ

 主に乾物を取り扱っている商人。

 

 いつも笑顔を絶やさない。明るい性格。


「物入りと聞いて、いつもより多めに仕入てきたよ」

「助かるよ。保存ができるものはありがたい」


 これから冬を迎えるので、今から備蓄をしなければいけない。


 自分達もでするが、全部できるわけではない。


「ウィル。君が領主なったという事は、もう気軽に話す事はできないのかな?」 

「そんな事はない。会う頻度は少なくなるけど、友人である事に変わりはないよ。これまでどおりだし、これからも」

「よかった。安心したよ」


 この気持ちに嘘はない。


 疎遠になるのは寂しいが、友人としての付き合いは続けていきたい。



「ティオ、もういいだろ?待ちくたびれぜ」


 ティオの後ろから、そう声をかけたのは、鍛冶屋のキース・ガーシア。


「話は後でもできる」

「はいはい…せっかちだな、キースは。辛抱強くあるのも商売人として必要だぞ」

「お前らの話が長すぎんだって…あ、ウィルお前はいいから」

「ああ」

「話していた時間は同じだが?」

「いいから、もう行けって」

「わかったよ。じゃあ、後で」

「うん」


 ティオはため息を吐きながら、リアンへ挨拶しに行った。



「久し振りだなぁ、ウィル」

「キース。ありがとう、来てくれて」

「ああ」

 

 そう言って握手し、肩を叩いてくる。


「お前の領主っぷりを見たくてな」


 キースは鍛冶屋だから、商売上王都を離れる事はない。が、来てくれた。


 体格が良い。鍛冶屋じゃなかったら兵士になっていたかもしれない。



 彼を呼び寄せる事にしたのは、ヴァネッサの希望だった。


「もし鍛冶屋に来てくれてたら嬉しい。各人、武器が限界に来てる」


 彼女の剣だけではない。


 竜騎士を含め、兵士全員の武器が限界に達していた。


 買い替える事ができればいいが、それは予算上できない。


 鍛冶屋に来てもらって、出来る限りの修理を頼もうというわけだった。



「どうかな僕の領主っぷりは?」

「そうだな…今のところは、おれの知ってるいつものお前だよ」

「やっぱり領主には見えないか…」

「そうじゃねえって。ティオじゃないが、安心したんだよ」

「そう?」

「良い服着て、偉そう出てきたら、おれは帰ったかも」

「そんな事しないし、できないよ」

「だろうな。お前の性格ならな」


 キースはそう言って笑う。


 彼にリアン達を紹介していった。


 

 マリ姉、ジョエル、ティオ、キース。

 以上四名がシュナイツへと来てくれた。



「みんな、ありがとう。中に入ってくれ、早速商談…」

「あんたね…」

「ウィル!あなた!」


 ヴァネッサが何か言いかけたと同時にマリ姉が怒り出す。


「久し振りに会ったんだから、ますは近況を話すべきでしょ!」

「それは後でもできる。僕としては懸案事項から処理したいんだけど…」

「むしろそっちが後じゃない?」

「そうかな…」


 どっちでもいいだろ…と、ジョエルがぼやく。


「ジョエルは、ウィルが領主になってから何度も会ってるんでしょ?」

「今日で二回目ですよ」

「わたしは会ってないし、前に会ったのは半年以上前なんだから」


 マリ姉は腕を組み、僕を睨む。


「ウィル、先に雑談しとけ…持ってきた商品、全部買えって言われるぞ」

 

 ジョエルがそう耳元でそう囁く。


「そんな事はないでしょ?…」

「知らねえぞ…。あー、俺は後でいいんで、ここに医者いるんですよね?案内してもらえます?」

「シンディ。フリッツ先生達の所に、案内してくれ」

「かしこまりました。リダック様こちらです」

「どうもです~」


 ジョエルとシンディが医務室へと向かう。


 マリ姉は、僕を睨みつつ、館へ顎をしゃくった。


 こんな再会になると思わなかったよ…。

 

 


Copyright©2020-橘 シン


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る