23-7
硬い木の置き場所へと移動。
場所というか、荷馬車の荷台だった。
幌がかけられている。
それを棟梁が開く。
「こいつだ」
「ほお」
荷台には黒色の材木が積まれていた。
シュナイツで採れた木材は、また別の所らしい。乾燥が必要だと。
「これは、おれ達が持ってきたもんだ。こいつ上物だぜ」
彼が材木の一つを取り出す。
人の背丈ほどの長さ。幅も厚みも模擬剣を作るには十分なようだ。
「ちょっと叩いてみな」
「叩く?」
「ああ」
言われたとおり、ノックするように材木を叩いてみた。
「これは…」
木とは思えない音が…。
「金属みたいな音する…」
「だろ?それだけ密度あるんだ。丈夫で長持ちするが、その分加工が大変だがな」
棟梁は得意げに語る。
「こいつをやろう」
「それは嬉しいが、貴重なものではにないのか?」
これで模擬剣を作るの理想だが、荷台にいっぱいというわけではない。
「構わねえって。ここで採れたのもあるしよ」
「なら…ありがたく頂戴する」
「おうよ」
頂戴した材木を加工しなければいけない。
それも棟梁がしてくれる事なった。
四振り分の材木を持って作業場へ移動。
作業場では、木材を建築に加工しる所だった。
「ちょっと場所借りるぜ」
そう言って多少強引に割り込む。
作業台に材木を置く。
「で、どうすりゃいい。剣だから…それっぽい形にすればいいか?」
「いや…」
色々考えていた。頭の片隅で。.
片手で扱える長さと重さ。
それを四振り。
だいたいの寸法を手で示す。
「長さはこれくらいで…」
「おう」
「幅はこれくらい…」
「これくらいか…」
棟梁は釘で材木に印を付けていく。
「まっすぐじゃねえけど、いいのか?」
「ああ。曲刀したいんだ」
ぼくは今まで使っていたのは直剣だ。
斬る突くどちらもできる。
曲刀も、斬る突くどちらもできすが、どちらかと言えば斬ることに重きをおいている。
以前、曲刀使いと対峙した事があり、興味を持っていた。
刃が薄く、振りが早かったのを思い出したんだ。
あれなら、今の自分にあっているのではないかと思い、曲刀した。
「よおし…」
そう言うと棟梁が作業を始める。
始めると大工達が寄ってきて、棟梁の作業を眺め始めた。
「棟梁、注目されているが?…」
「わかってるよ」
棟梁は特に気にも止めず、作業を続ける。
「棟梁。何作ってるんです?」
大工の一人が、そばに寄ってきた。
「このにい…じゃない。姉ちゃんが模擬剣を作ってほしいんだと」
「姉ちゃん?」
「ライア・ライエだ。剣兵隊の隊長している」
「アムズだ。よろしく…女性です?」
「ああ」
いつものやり取り。
「建築作業中のところ、申し訳ない。棟梁を借りている」
「別にいいですよ」
という会話の間も棟梁は、手を止めない。
「いくつ作るんですか」
「四振りだ」
「四つか…。棟梁、若いやつにもやらせてくれませんか?」
「ああ、そうだな。やりたい奴はいるか?」
若手、全員が手を挙げる。
「おうおう」
棟梁はなんだか嬉しそうだ。
彼は三人選ぶ。
「だいたいの形は、印を付けてある。その形に切り出せはいい」
「ちょっと待ってくれ。印より大きくても、いい。長さ、重さ、重心、握りは、自分で微調整したいんだ」
「だとさ。印よりもノコギリの刃一枚分大きく切り出してくれ」
「はい」
「硬いから慎重にな。アムズ、面倒見てやれや」
「はい」
若手が材木を持って作業を始める。
「若いようだが、大工になってどれくらいなんだ?」
「三年前後じゃねえかな?」
「三年か…」
「不安なら、おれが全部やるぜ」
「いや、そんな事はない」
無理なら、棟梁が止めてるはずだ。
アムズも止めないという事は、できるという確信があるからだろう。
見てるだけでは、成長しずらい。経験に勝るものなし。
「こんな感じでどうよ?」
「ああ。申し分ない」
軽く湾曲した棒が出来上がる。
若い大工達からも出来上がった物を受け取った。
「ありがとう。恩に着る」
「これくらい大した事ないぜ」
棟梁は得意気だ。
後はぼく自身が仕上げる。
「硬いから気をつけてな。ナイフで指を切るなよ」
「ああ。注意するよ」
棟梁や大工達と握手をして、その場を立ち去った。
それからは、模擬剣を作りつつ早朝の走り込み、体術の訓練を重ねる。
剣術の訓練はせず、空いた時間を二刀流でどう戦うべきかを考えてながら模擬剣作成に割り当てた。
剣兵隊の宿舎前で、形や長さを確認しながら、ナイフで削って行く。
「やっと、道を見つけたみたいだね?」
ヴァネッサがそう言いながら隣にに座る。
「ああ。もう君の嫌味を聞かなくてすむ」
「あたしは、言い足りないね」
彼女の本心ではない。
顔が笑顔だから。
「二刀流かい?」
「うむ」
「ここには、師匠はいないよ」
「わかってるさ。自分の道は自分で切り開く。アリスとジルは、ナイフを二本使っている。あれを参考しさせてもらう」
ジルは二刀流に関しては知識は持ち合わせていなかった。
だが、できる限りの手伝いをしてくれると言ってくれた。
「あたしはお勧めしないね」
「なぜだ?」
「ゼロからのスタートだから」
「それは承知のうえだ」
翼を失って何もかもが変わってしまった。
ヴァネッサが生まれ変わったと言っていたが、それならゼロから始めたっていいじゃないか。
エレナもゼロから魔法を研究している。
「あたしも相手してあげるから、いつでもいいから声かけて」
「ああ。ありがとう」
彼女は、ぼくの肩を軽く叩くを去って行った。
「どんな感じです?隊長」
「いい感じだ」
出来上がった二本の模擬剣を降ってみた。(後二本あるが、それは予備だ)
「片手で扱うなら、もう少し短くしてもいいのでは?取り回しやすいしですし、相手の動きにも対応しやすい」
バニングがそう話す。
今まで使ってきた剣よりも短い。
拳ひとつくらいか。
「確かにその通りだが、このくらい間合いがちょうどいい感じなんだ」
ぼくはあくまで剣士だ。
短くすれば、接近戦となる。
体術が嫌いというわけではないが、アリスやジルのように武器に体術を織り交ぜるだけの余裕はない。
「バニング、相手を頼む」
「了解」
バニングの剣術の腕前は剣兵隊の中では一番。
彼に追いつくのが、今の目標だ。
「流石だ。バニング」
「読みやすい剣筋ですよ」
「そうか…くっ!」
二刀流ならば、攻め手は倍だろうし、右か左で受け流して攻める事で優位に立てると思ったが、そう簡単ではないらしい。
「振りが遅いです。それに単調」
「うむ…」
まだ体が出来上がってないからな…。
しかし、後退しているわけでない。
着実に腕前は上がっている。
このまま続ける事が大事だ。
継続は力なりという言葉もある。
「バニング。もう一度頼む」
「はい」
「動きの確認をしたい。振りの速度をぼくに合わせくれないか?」
「わかりました」
バニングはよく世話になったよ。
うまくこちらのペースに合わせて、訓練させてもらった。
ぼくの二刀流が完成するのはまだ先だ。
この頃は必死だったが、楽しかったのも事実。
自分の腕前が上がっていく実感。長らく忘れていた感覚だった。
剣術を習い始めた幼い頃を思い出す。
師匠は父で、その技のすべてを習得した。
「もう教え事はないな。お前には」
「本当ですか?ぼくはまだまだと…」
「そう思うなら、独り立ちの時期だ」
翼人族は親元を離れ、独りで生きて行く。それが掟。
「世界には、お前以上に剣術や武術に長けている者がたくさんいる」
「はい」
「その者と手合わせし、さらに高みを目指せ」
「はい」
父にそう言われて程なく、ぼくは独り立ちする。
危うく死にかけた事や経験不足から、犠牲者が出た事もあった。
そして、今に至るわけだが、父が今の自分を知ったらどう思うだろう?。
怒りか、遺憾か…それとも憐みか…。
分からないが、何も言わないだろう。ただ黙って抱きしめるくれるに違いない。
「この頃の話はこれくらいだ」
「二刀流に関しては、まあ…それなりかな」
「ヴァネッサやミャンとタメを張れるようにはなった」
「教えるほどの実力はない。そもそも習いたいという者がいない」
「翼への未練はないかって?」
「ない。はっきり言える。翼のない、今の自分が好きだからね」
「ぼくは二つの翼の失い。そして二刀流を手入れた」
「こんな貴重は経験は、きっとどの翼人族も経験していないだろう」
「ライア!助けテ!」
「ミャン。どうした?」
「ヴァネッサがおしりを蹴るっテ!」
「蹴られて当然の事をしたんだろう?」
「お腹が空いたから、人参を一つ食べただけなのニ!?」
「君というやつは…」
「ミャン!」
「うわ、来タ!」
「ふざけんじゃないよ。ライア、手伝って」
「了解だ。という事なので失礼する」
「待て!ミャン」
「二人がかりは卑怯ナリィィ!」
エピソード23 終わり
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