第19章 永遠の愛の証

 副修道院長となったエマは、ベッドに横たわっていた。

 エマは自分の人生の終わりが近づいていることを悟っていた。そのベッドを取り囲むように、多くの人々が集まっていた。

 修道女仲間のシスター・ルシア、導いてきた教え子のリンダ、そして生前のエマを支えてくれた恩人、カレン。

 彼女たちはみな、エマとの別れを惜しむように、その手を握りしめていた。

「皆さん、こうしてお別れの時を迎えられることに感謝します」

 エマは微笑んだ。

「神様が、私にこれほど多くの愛に包まれた人生を与えてくださったことが、なんと幸せなことでしょう」

 そう言葉を紡ぐエマの瞳からは、穏やかな光が溢れていた。

「でも、私はこれまで、孤独に苦しんできました」

 エマは続けた。

「天才と呼ばれ、周囲と上手く馴染めなかった子供時代。信仰に生きようと決意しながらも、神の愛の意味が分からなかった若い頃。自分は異端なのではと悩み、放浪した日々もありました。それでも、神様は、孤独の中で私を導き、人生の意味を教えてくださったのです」

 穏やかに語るエマの言葉に、シスター・ルシアが口を開いた。

「エマ様は、いつも神の愛を体現されていました。私たち修道女の手本であり、多くの人々の道しるべでした」

「エマ先生に出会えたことが、私の人生の一番の宝物です」

 リンダも涙ながらに言葉を紡いだ。

 カレンもまた、エマに感謝の言葉を告げた。

「君との出会いがなければ、私は真の愛の意味に気づけなかった。君から、愛と信仰の大切さを教えてもらったんだ」

 皆の言葉を聞きながら、エマはこれまでの日々を思い返していた。そこには、彼女を導き、支えてくれた人々の姿があった。

 優しく寄り添い、信仰の道へと導いてくれたシスター・マリア。天国で私を待っていてくれているはずだ。

 同じ孤独を抱えていたリンダ。私を慕ってくれた教え子であり、魂を通わせ合った仲間だった。

 そして、変わらぬ愛を示し続けてくれたカレン。神の前では性別など関係ない、本当の愛を教えてくれた恩人。

 さらに両親の姿も浮かんだ。いつも私を見守り、応援し続けてくれたララとギルバート。きっと天国でも私を娘として迎えてくれるだろう。


 ベッドの周りには、エマを愛する人々の温かな想いに満ちていた。


「神様は、私に素晴らしい出会いをたくさん与えてくださいました」

 エマはそっと目を閉じた。

「孤独な日々も、今は神様が私に与えた試練だったのだと分かります。皆さんのおかげで、私はその試練に打ち勝ち、愛の意味を知ることができたのです」

「神の愛は、孤独の中にもあるのだと。そしてその愛は、形を変えて私たちを導いてくれる。人と人との絆となって、人生に豊かさを与えてくれるのです」

 エマの心の中で、過去の記憶がよみがえっていた。修道院の庭で、シスター・マリアと語らった日々。リンダと向学心を共有した時間。そしてカレンとの再会と、真の愛を確かめ合ったあの瞬間。

 神が私に与えてくれた、かけがえのない思い出の数々。

 その思い出を胸に、私はこの世を旅立とう。

「神様、お迎えいただき感謝します。皆さん、思い出をありがとう。そしてさようなら。またいつの日か、神のもとで」

 そう言い残し、エマはゆっくりと息を引き取った。

 苦しみのない、安らかな表情だった。


 エマとの別れを惜しみながらも、皆はその死を受け入れた。

 彼女の生涯は、神の愛の証だったのだ。

 孤独に苦しみながらも、その孤独を乗り越え、愛の意味を悟ったエマ。彼女の遺した言葉と想いは、修道院に、教え子たちに、すべての人々の心の中に永遠に生き続けるのだった。


 後日、盛大に営まれたエマの葬儀。

 参列者は皆、彼女から学んだ愛と信仰の大切さを胸に刻んだ。

「先生、私はお言葉通りに生きていきます。孤独も愛も、人生のかけがえのない意味なのだと信じて」

 リンダは澄んだ瞳で誓った。


 エマの教えは、一人一人の心の中で、脈々と受け継がれていくことだろう。

 神の愛の物語は、エマという一人の女性の生涯を通して、永遠に紡がれていくのだった。


(了)

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天才少女は孤高の果てに何を見るのか ―数学を愛したエマの場合― 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

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