美咲は誰かを殺めたい

京野 薫

死ってどんなものかしら?

 私が今、とっても関心があること。

 今度、友達の明子と出かけるハーモニーランドの事。

 新発売のリップが自分に似合うかな? と言うこと。

 

 後、これは優先順位が高いんですけど……

 

 誰かをまた殺してみたい。


 うん、考えると身体が熱くなってきて、何て言うか……脳細胞がプチプチと目覚める感じがする。

 誰かの命を奪うのってワクワクするよね。

 だって、自分がその人の積み重ねた人生や経験値、善も悪も全ておもちゃのように遊べる。 それに命って世の中で一番大事な物。

 そんな宝石でもかなわない物をグチャ、って。


 って、こんな事を言ってると……例えばこれを読んでるあなたは、私を異常者と思うんだろうな……

 わたしは個人的にあなたを気に入ってるので、それは寂しいけど。

 あ、ごめんなさい。

 これは私の独白。

 

 で、いずれネットの海で……きゃっ、格好いい言い回ししちゃった……この文章を見つけるであろう顔を見たことの無いあなたへの……恋文かな。

 

 高校1年性にしては古風な言い回しだって?

 ふふっ、でしょ?

 流石にラブレターって恥ずかしくて……

 

 でも、異常者扱いは悲しいから言い分を聞いて欲しいです。

 わたし、興奮すると誤字脱字が多くなるけど、勘弁してください。

 ご指摘頂いたら直すので……多分。


 じゃあなぜ人を殺してはイケないの?

 

 人は幸せになる権利がある。

 正義を行使して正しい世の中にする義務がある。

 

 だけど、街を歩いてるだけでイライラすることばかり。

 私を電車の中でエッチな目で見てくる男の人。

 私、あなたの事タイプじゃ無いのに……

 で、時々身体を触ってくる。

 

 家族みんなでドライブの時に、こっちを煽ってくるドライバーさん。

 

 自分が好きな先輩を盗った、とか馬鹿丸出しな言いがかりをつけては、嫌がらせをするバイト先の先輩。

 

 そして、私をエッチな目で見てくる物理の先生。


 そういう人たちって、光か影かで言ったら影だと思いませんか?

 正義って守られないと。光と影、善と悪がハッキリしてるのって大好き。

 現実もそうあるべきと思うんです。

 

 えっと……なにが言いたいかというと。

 きっと私の味方になってくれるはずのあなたなら、私の言葉を気に入ってくれると思うんです。

 だから頑張って書いちゃいます!


 また話、それちゃった(汗)

 私、自分は正しいと思ってます。

 社会のル-ルは守ってるし、自分で言うのも何ですが見た目も良い。

 パパは政治家でこの国を良くするために頑張ってる。

 ママだって、大学教授でこの国の経済について正しいあり方を教えている。

 私も、学校での成績優秀。

 だったら私に合わせれば、物事良い方に向く可能性が高い。

 だって、私の考えることは客観的に見て正しいんだから。

 

 だから、悪い人。rールに逸れてこの先みんなに迷惑ばかりかけるはずの人は個人的に罰を与えるべき。

 だったら問題ないはず。

 法って融通利かないけど、法も道具なんだから正しくて客観的に善悪を判断できるわたしやパパみたいな人は、ある程度柔軟に行使してもいいと思うんです。

 

 ですよね?

 

 と、言うことでこの文章を楽しみながら書いてます。

 あなたは驚き、私を褒めてくれ、一緒にワクワクしてくれるはずだから。

 あ、この文章今日にでもアップするから楽しみに読んで下さいね。 


 これを書いてるのは、学校の旧校舎のお手洗い。

 目の前の便器……汚い言葉でご免なさい。には、さっき書いた私をエッチな目で見てくる物理の先生。

 

 酷いんですよ!

 

 今日も放課後に私に手伝って欲しいことがある、って旧校舎に呼び出してエッチなことをしようとしたんです。

 でも、そうだろうと思ってちゃんとスタンガンを準備してたから。

 パパに痴漢が怖いっていったら、すぐに買ってくれて。

 ほら? 正義の味方はちゃんと動いてくれる。


 で、使ってみて居間に至る。

 ……ああ、イライラする! すぐ誤字脱字になっちゃう!

 あの? もっと入力しやすくて賢い入力機器知りませんか?

 そしたらこんな木の利かない道具、壊してやるのに……

 ね? また変な漢字を出す!


 わたしはイライラして目の前の先生にまた最大に弱めたスタンガンを撃つ。

 ぎゃっ、て悲鳴を上げてバタバタと。

 うう……可愛い。

 

「ねえ、先生。わたし、今の先生結構好きかもです」


 そう言うと先生は媚びた目で「ありがとう」って。

 ……わたし、媚びうる人って嫌い。

 人はもっと堂々としてないと。

 イラッときたのでスタンガン。

 

 先生は悲鳴を上げた。


「先生。私、媚びうる人って嫌い。先生私のこと怖いに決まってますよね! ね!」


 先生は目をキョロキョロさせて何か考えてたけど、慌てて頷いて

「ああ、怖い! お前の事が怖いよ」と。

 

 え? 物には言い方があるんじゃ無いですか?

 わたし、適切な返答できない人って嫌い。

 それって正義じゃ無い 

 正義って物事スッキリしてるものでしょ。


 イラッとするな。この入力機器と同じくらいヤダ。

 私はスタンガンで先生の頭を殴りつけた。

 

「適切な言動ってないですか? わたしの求める物を読み取って。わたし、素直で優しい子です。すぐに読み取れるでしょ!」 


 先生はすっかり怯えているようだ。

 もういいや。

 正義執行しよう。

 あと、ちょっぴりわたしのお楽しみも。

 労働には対価が付きものだから。


 わたしは録音して置いた先生の言葉……わたしにエッチな事をしようとしているときの音声を大音量で聞かせた。

 演出として、わたしも泣き叫んだりしてたので、良い感じに臨場感がある。

 わたしって優秀だよね。


「ねえ、先生。これ明日教頭先生や校長先生にお聞かせします。あと、ネットにも流しますね」


 そう言うと、先生はなにも言わずに真っ青な顔で。汗ビッショリの顔でわたしを見た。

 あ、人って心から怯えると言葉が無くなるんだ。

 面白い。


「嫌ですか?」


 先生は何度も頷く。


「じゃあ、ここで死んで下さい」


「……は? なん……で」


「決まってるじゃ無いですか。じゃ聞くけど、先生って生きてる価値があるんですか? 奥さんも子供も居るのに、人に聞かれたら困る様な事をして……冷静に損得勘定で考えると、このまま生きてても、先生はお仕事もまともに出来ない。だってパパが手を回すから。奥さんやお子さんもずっと悲しい思いをすることになる。可愛いお子さんでしたね? ずっとこの先何十年も苦しい思いをする」


 ああ、先生が怯えてる。

 よし! もう一踏ん張り。


「逆にここで死んでくれたら、このことは誰にも言いません。先生はお仕事のことで悩んで自殺、って事にしときます。奥さんとお子さんも苦しまなくて済む。真面目なお父さんが死んじゃった、だけです。先生のご両親もわいせつ行為を働いた息子、なんて事で悲しまなくて言い。絶対こっちの方がいいですよね」


 先生の目から光が無くなり始めてる。

 うん、こうでないと。わたしは正しいことをしてるんだから、すんなりいく権利がある。


「死ぬのって悪くないですよ? 死は救いなんです。この先生きてて感じるストレスやトラブル、色んな重荷から解放される。特に特大級の重荷を背負うことになる先生なら余計……」


 そう言って、さっきの音声をまた再生する。

 

「苦しまずに殺してあげます」


 先生は全てをあきらめたような顔で、力なく頷いた。

 よし!

 気が変わらないうちに早速準備を。


「せっかくだから録画させて下さい。死んじゃったら見ること無いからいいですよね」


「……それ、誰にも……」


「もちろんです。私だけのコレクションなので」


 そうして、私はロープを先生の首に巻き付ける。

 

「さよなら、先生。ゴミ掃除させてくれて有り難うございました」


 この瞬間。

 首から聞こえる音。

 両手に感じる体温が徐々に無くなる感触。


 尊い命。

 お金じゃ変えない命。

 積み上げた人生。

 それをこんな私の両手で潰していく。

 これって究極の娯楽。

 私の中にものすごい全能感が広がっていく。


 そして、ここでわたしのちょっとしたサービス。

 わたしばかり楽しんでもダメなので、先生にもお裾分け。

 わたしはロープを緩めて、先生を楽にしてあげる。

 先生はゴホゴホと激しく咳き込んで、わたしを光の戻った瞳で見る。


 先生、先生は今「生きてる、良かった」って思ってる。

 そう、本当の生を実感できるのって、死の間際になってから。

 不治の病に冒された人が、命の喜びを知るように。

 

 この喜びはわたしからの最後のプレゼント。 


 はい、サービス終了。


 わたしは再度、思いっきりロープを締め付けた。

 先生は約束通り、自殺で処理。

 正義執行。


 ふう、疲れた。

 これが、私の独白であなたへのお手紙です。

 凄い分量になっちゃった……

 でも、充実感でいっぱい。


 これを読んで、きっとあなたはわたしに共感してくれるはず。

 だって、わたしは正しいんだから。

 正義の味方は誰にでも愛される。

 

 あ、これはサプライズのつもりだったけど、書いちゃいますね。

 ……実はわたし今、あなたのお家の近くにいるんです!

 

 前々からあなたのことが気になってて……

 実はパパに頼んでこっそり調べちゃった!

 ぜひ、あなたと「生と死」についてじっくりとお話ししたかったので。


 勝手にご免なさい。

 でもワクワクするな……

 

 ……ああ、早く会いたい。


【完】

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