最終話 選べないけど、選ぶならきっとそれが正解!
ポツンと水着姿の俺はなんと言うか、空しさ全開だった。
……しかし昨日の出来事は心の奥底に閉まっておくことにして、俺は学校へと急いだ。
教室で姫乃姉妹が待っているからだ。
しかし、姉妹よりも先に教室に行けば貫太や修斗はもちろんのこと、堀川や他の女子たちに事前に注意喚起をすることが出来る。
そうじゃないと、あれこれと言うモブ男子たちが教室に集ってしまうのが目に見えているからだ。
そう思いながら早朝の教室へ入ると、いつもより早めに登校してきているというくらい、生徒の数が多かった。
え?
何で?
「よーーっす! 昨日堂々とサボりやがった恭二じゃないか! さすがに気が引けて気合い入れたか?」
「し、修斗? あれ、合宿は?」
早々に登校してきている光景に驚いていると、サッカー部の修斗に真っ先に声をかけられた。
貫太と堀川はまだ来てないようだけど……。
「あぁん? いくら幽霊部員でも行事くらい見とけよ。永遠にスポーツ合宿する部活がどこにあるんだよ? っていうか、今日は早めに教室にいとけばいいものが見れる気がしてるだけだ」
「何で? 何かあったっけ? もしかして、運動部の表彰的な何か?」
「……いや、何もないけど」
「ええ? じゃあ何で修斗の他にもこんなに人が来てるんだよ?」
「さぁな。でも、あいつらは来てないだろ? イチャイチャなあいつら」
修斗は同じサッカー部の俺にはそれなりに話しかけてくるけど、いつも彼女といる貫太とはそこまで仲がいいわけじゃない。
そのせいか、言い方にも多少のトゲのようなものがあったりなかったり。
「貫太はいつも遅刻しがちな俺と一緒に来ることが多かったからね」
「なるほど。それはまぁ、いいんだけど……恭二の覚悟はどうなんだ?」
「……へ? 覚悟……って何の?」
「それはお前――」
どういうわけか修斗のくせに態度をはっきりさせないうえ、教室にいる他のみんなからもそわそわした空気を感じる。
「おっす! 恭二! お前、早いな~! 気合いか? 気合いなのか?」
何かがおかしい……そう思っていたら、貫太が教室に入ってくるなりすぐに俺に謎の言葉を投げてきた。
貫太の近くには堀川が見えているものの、俺に近づいても来ない。いつもなら言い過ぎるレベルの嫌味を放ってくるくせに、どういうわけか近づかないようにしている。
「ごめん、何のこと? 修斗の様子もそうだし、早朝の教室にこんな人が集まってるのも変なんだけど……」
俺の言葉に、貫太はハッとした表情を見せて口元を手で隠してしまった。
今日は特別なHRでもあるのか?
それとも俺だけが知らされていない何かのイベントでもあるとしたら、まさに俺だけ知らなかった件を貫太が滑らした可能性がある。
「お前、昨日サボってどこに行ってた?」
何となく腹が立ってきた俺に対し、隠しきれないと判断したのか修斗が口を開いた。
昨日のサボりが関係していそうだし、素直に白状する。
「えっと、リゾートホテル……かな」
「そこには誰がいたんだ?」
「――あ、あぁ~……そういうことなのか?」
「お前、あの姉妹がうちの学校で超有名人だってこと忘れてたろ?」
すっかり忘れてた。
そして、そんな有名人の姉妹を二人まとめて……みたいなことで騒がれているのだとしたら、朝の教室に人が集まるのも何かを期待してとしか考えられない。
「恭二には期待してんぜ? オレも堀川、クラスのみんなもだぞ。だからアレだ、健闘を祈る! いつものお前の勢いなら何とかなるかもしれないからな」
俺が姫乃姉妹に勢いで何だって?
「あれ、何か期待されてるけど俺が何をするんだ?」
「……バカじゃないの? あんた、今まで気の無い女子たちにしてきたこと、無かったことにしてるんじゃないよね?」
何にも口出ししてこないかと思っていたのに、ここで堀川が口出ししてくるのか。
「俺が何かしたのかよ?」
「知らないし。でも、冴奈はあんたからの言葉を期待してるんだろうし、うちらがどうこう言う話じゃないけど」
ううむ、やっぱり俺だけ知らないみたいだ。修斗と貫太も若干引いてるし、周りの女子もそれはないわって顔を見せている。
俺だけ答えが分からないまま、数秒後、教室内に緊張が走った。
「おはよ、恭二くん」
「ふ。きちんと登校していたようじゃな。恭二」
「……あっ」
恐れていた姫乃姉妹が教室に入ってきてしまった。しかし、冴奈は同じクラスだから何ら不思議はないとしても、何で美涼も一緒なんだろうか。
しかも美涼の言葉遣いが古風に戻っているし。
素の美涼は他の人にはあまり見せたくないって意味だろうけど、これには貫太や修斗たち、クラスのみんなも動揺している。
そんな姫乃姉妹は、計り知れない緊張感の中で何の動揺も見せずに俺に話しかけてくる。
「…………いつでも、いいよ? 恭二くんの本気、見せて?」
「恭二。貴様が今までしてきたことをあたしらに見せろ! 簡単だろう?」
二人揃って俺から何かを待っている――?
それも、早朝の教室の教壇の前で。これはもしかしなくても、俺がこれまでしてきたアレのことなのでは……。
そして昨日のプールでの別れからの流れ。
いや、そうなると俺はどっちに言うべきなんだ?
美涼は俺にはそれほどでもないって話だったが、冴奈からははっきりと分かるくらいの態度だったわけで。
しかし向けられている気持ちは鈍い俺でも何となく分かる。もう言うしかないんだよな。場所が場所だけに。
「くっ……じゃ、じゃあ言うよ」
「……ん」
「ふん、担任に見られる前にさっさと言え!」
そうだった、さすがに先生が来たら多分俺だけ指導室行きでこの先、姫乃姉妹と話す時間は無い可能性がある。
よし――
「――あ~、え~……す、好きです!! 俺と付き合って欲しいです!」
よし、これだろ正解は。
「……恭二くん。わたしも恭二くんが好き」
「は、はは……だ、だよね。良かった」
何となく想像出来ていた答えが冴奈から返ってきた。
「おい恭二。冴奈のことは分かったが、あたしのことはどうなんだ?」
「えっ? 美涼も?」
「あたしは恭二を好いてるぞ。冴奈ほどじゃないけどな! これでもお前は冴奈だけにするつもりか? あんなことまでしといて」
またしても誤解含まれまくりのことを言い放ってるなぁ。
「あ、いや……その」
すでに告白が成功した冴奈は俺の腕にしがみつき、俺の顔をじっと見つめながら次に出てくる言葉を黙って待っている。
このままだと、美涼の気持ちを蔑ろにして鬼畜な俺が成立してしまうのでは?
正直言って美涼のことは嫌いじゃないし、古風じゃない美涼も気に入ってる。一緒にサウナとか行った時も楽しかった。
……つまり、俺が言うべき答えは。
「冴奈が好きだ。でも、美涼のことも気になってる。冴奈だけ選べない……だから、えっと今は三人で……い、いいですか?」
「…………(やっぱりそう言うんだね、恭二くん)」
「ふん、鬼畜野郎め。だがそういう貴様も嫌いじゃないし、それで許してやる」
「ほ、ほんと!?」
「……ん、恭二くんのことが好きなのは負けない。だからいいよ、それで」
どうやら冴奈はもちろん、美涼も示し合わせた答えみたいで冴奈の言葉に美涼も頷いている。
この瞬間、静まり返っていた教室は一気に大声量が響き渡っていた。
まさかの告白成功なうえ、まさかの鬼畜な優柔不断野郎と呼ばれ、俺はこの日の朝に新たな伝説みたいなものを作ったらしい。
「でも、あの……冴奈、美涼、二人とも仲良くなりたい」
「ふ。良かろう。今は冴奈に負けてるが、そのうち貴様を篭絡してやるから覚悟しとけ!」
美涼はこのあり得ない状況を楽しんでいるって感じに思える。冴奈と違って俺の腕に絡みつくことなく手だけ握ってきてるし。
それに引き換え、冴奈は――
「――恭二くん。まずはわたしとわたしの全てを思いきり、楽しませてね? たくさん、愛して欲しい……です」
「は、はい」
二人同時に、もしくは冴奈と何かしたらリディア家に狙われる――なんてことは多分ないよな。
「…………いつか選んで、たくさんシてね? 恭二くん」
無表情クール系女子の姫乃姉妹が可憐な女子を目指して甘えたがっている件 遥 かずら @hkz7
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